番外・同人誌即売会イベントデート(2)



  ※(沙理砂視点)



 私たちは、あの時の下校時のアクアショップでの寄り道以来、暇を見ては下校後、休日等に何度か二人で遊びに出かけている。


 バスケ部の夏合宿が始まれば、全君はバスケ部に復帰する事になり空いた時間が少なくなるので、と誘われ色々な場所に行った。基本的には私の希望する場所で、余り混まない場所、時間などを調べた上での話。


 映画、動物園、プラネタリウム、“本物”の水族館、などなど。


 学生の男女が二人で出かけるのは、“デート”じゃないかと思うのだけれど、


「“友達”同士でも、遊びに出かけるのは普通ですよ」


 と全君は涼しい顔で言う。


 まあ、確かにない事ではない、と思わないでもないんだけれど……。


 困った事に私自身、そのお出かけを、結構楽しんでしまっているのが問題で。


 今までだって、この厄介な症状持ちでありながらも、詩愛達幼馴染五人組で遊びに出かけていた事はある。


 それも、楽しいは楽しいものだったのだけど、どうしても私はWデートのおまけにみたいな上場に過ぎず、皆に悪いな、と心の中で罪悪感をつのらせない訳にはいかない。


 当然全員が、そんな水臭い、気兼ねなんかすることないと言ってくれはする。それは本心からそう言ってくれていると思うのだけど、事実上私がお邪魔虫な事実に変わりはなく、楽しい半面、心苦しくなるのも避けられない実情なのだ。


 でも、全君と二人の場合は違う。


 言い方は悪いけど、全君は“私”だけと出かけるのが目的で、それを遠慮するのは、私の男性慣れする為の練習、という名目上の目的との利害が一致する訳で、それを楽しんでいけない理由はさほどなく、軽く心ウキウキだったりする自分の現金さに、時折赤面して、結局自己嫌悪する次第なのであります。


 全君が、両親の所持しているサイドカー付きのバイクを借りて、交通の不便な場所へでも身軽に連れ出せてくれるのも、なるべくなら人混みを避けたい私にとってはとてもありがたく、出かけやすい動機になってしまった。


 ところで、そのバイクは、私が日本で日常的に見かけるスポーツタイプなレーシングバイクなどではなく、いわゆるアメリカンバイク?えっと、確か有名なのでは、ハーレー?、だったかな?あれ?違った?ともかく、米国の映画で見るような、乗るシートの所が低く、ハンドルはしゃくれ曲がった長めのがついている、どっしりと腰を据えて偉そうな?感じに乗るバイクだった。


 排気量は中型で250CC。全君の両親が、昔から共有して使用している物なのだそうだ。


 なんで2台ないんだろうかと思ったけど、二人で出かける際は、運転したい方のどちらかバイク本体で、幼い全君をいれてもその場合は後ろのシートに乗せればそれで済むのだとか。


 全君自身も、背が高い訳ではないので、自分が乗りての場合、シートの位置が低く、足が着きやすいこの手のバイクの方が、シートの位置を改造する手間がなく乗りやすいのだそうだ。(普通のバイクでも調整すれば乗れるけど)


 最初見た時は、私の常識的な知識のバイクとの予想と違って正直ビックリしたけれど、これで何度も出かけて慣れてしまうと中々快適で、ともかく目的地に直行で行けるのが時間も早くてありがたい。


 全君から借りたヘルメットも、顎の場所までしっかり被る、いわゆるフルフェイスの物ではなく、スポっと被って前面に透明なシールドを下ろすタイプの、ジェット型だっけ?被りやすく周囲の情景も見やすいヘルメットを用意してもらえた。


 おまけにそれには、無線で声のやり取りが出来るレシーバーがついていて、走行中でもほとんど普通にお互い会話が出来る便利装備だ。(全君側のヘルメットにも当然付いている)


 全君の方はシールドのないジェット型のヘルメットで、水泳選手の様なゴーグルをつけている。


 バイクや自転車でツーリングしたりする人達には当たり前の装備なのかもしれないけれど、そういうのにうとく、全部が全部初体験な私にはなにもかもが新鮮で驚きに満ちていた事の連続だった。


 そういう風に、二人で出かけるのが普通になってきたある日、全君からレインで『今度の休み、これに行ってみませんか?』という連絡と、そのイベント事の事が書いてあるらしいリンクが貼ってあった。


 リンク先に飛んで見てビックリした。それが“例”の同人即売会イベントの告知ページだったからだ。


 私がオタ趣味で、通販等で同人誌を買っている事は全君に話してあった。だから、今回のイベントにも気づいてくれたのだろう。


 でも、どんなマイナーなジャンルであっても、人が混まない事がない同人誌即売会で、私の特殊な症状を承知している彼が、いくら私が行きたくても無理なイベント事を誘って来るのは何故なんだろう?と当然の疑問を私は持つが、それもそのイベントの特殊性の説明を読んで合点がいく。


【完全女性の参加者、サークルのみで行われる即売会】

※作者の知識は古いので、実際にそういうイベントがあるかどうかは知りまセン。


 そう、まるで電車の女性専用車両の様に、女性限定の私の為にある様なイベント。


 こんな条件がある同人誌即売会なんて、私はまるで知らなかった。(だから作者もシラン…)


 ジャンルを見れば、元が人気の少年誌で連載していたスポーツ漫画のイベント。こういうのは、普通にその漫画のファンな男の子でも読める健全な物もあるが、むしろ女性がその内容の裏を曲解 (笑)して、メインの登場人物である男の子同士の恋愛物、いわゆる“や〇い”物が女性の描くのが同人誌では主流なのだ。


 だから、販売側の参加サークルを募るのも、購買側である一般参加を集めるのも女性の方が多くなるのは当然で、ならばいっその事、女性限定イベントにしても何の問題もなく面白いのでは?というのが主催者側の思惑らしい。


 つまり、やたらエグくてきつい内容の18禁物なら男性限定にしてもいいのでは、の逆転の発想、みたいな?(そういう男性限定イベがあるかどうか、私は知らないけど、別にあってもおかしくはないだろう)


 世の中にはこんなイベもあるのか、と私はしばらく真面目に感心していたが、それでもまだ私がそういう同人誌即売会に参加する障害が完全にない訳ではない事に、ハタと気づかざるを得なかった。


 つまり、私が家族と幼馴染達以外との、人としてのつき合い、交流がないコミュ症なインキャである事だ。


 例えその場が女性のみであったとしても、あの天然バーゲン会場みたいに人が混みあい、苛烈な競争で人気同人誌を奪い合う、女同士が、戦って戦って戦って、買った者のみが栄光の報酬を(少し大袈裟かも)得る事の出来る厳しい戦場を、たった一人で乗り切れるとは到底思えないのだ。


 夏休みや年末に開催されているという、あの伝説の“コ〇ケ”の様子を撮影された動画を思い出す限り、一人で“初めてのおつかい”すらした事のない……あれ?あの事件が起きる前は、駄菓子屋とかで普通に買い食いしてたかな?……それは比較対象が違い過ぎるし、ま、いっか。


 とにかく、一人が無理となると、私には同行を頼めるような友達は二人しかいない。詩愛と瀬里亜の幼馴染、二人組のみ。でも、瀬里亜はそういうジャンルの同人誌を読まなくもないけれど、今は厳しい学校の寮生活で、そうそう遊びに出かけられる状況ではない。限られた外出許可は恋人との逢瀬に使っているのでほぼ無理だ。


 もう一人の詩愛は、アニメや漫画は普通に読む。私と好みが似通っている。


 ただし、同人誌という物に対してはNGだ。


 それは、彼女独特の考え、こだわりで~、と詳しく説明すると反対意見もあって物議をかもすかもしれないのでここでは書かない。ただ、詩愛と同様の考えを持つ人も少なからずいる事だけは確かだ。


 それに、詩愛は私と同等かそれ以上に人混みが嫌いで、特に無為に長蛇の列に並ぶなんて論外。それらをどうにかする権力や財力が詩愛の家にはあるので、その事情をよく知らない人もいるみたいだけど。


 ま、詩愛自身の話はともかくとして、いくら私の頼みだとしても、喜んで行ってもらえるような場所ではない、と。私も、親友に嫌なことを無理強いしたい訳でもない。


 とすると、イベント当日までに今通っている高校で、同じ趣味の同性の同士を見つけ出して頼んでみるとかが、ギリギリ実現可能なプランかな?


 学校の部活に漫研とかあれば、意外と結構簡単に探せそう?や〇いを嫌いな女子はいないってよく言うし。いきなり見ず知らずの人に頼むとか、それはそれでコミュ力激弱な私にはハードルの高い話だけど……。


 と、私はそのイベントに行く場合の難点を色々と考えながら、それらの相談をする為に今、電話が出来るか全君に確認してから連絡を取った。


 それは、全君からのお誘いではあったが、イベントに参加する場合の会場への送り迎えをしてくれる、ぐらいの意味だろう、と普通に考えたからだ。なにせ、“女性”限定のイベントなのだから。


 なのに全君は、「ああ、どうにか“手”は考えてあるので大丈夫だと思います」と明言し、「他にも連れて行きたい人がいるならそれはそれで構いません」、と言って、その代わりではないが、その日はいつもの様にバイクではなく、通学時の様に一度私の家に自転車で来て、それから会場の最寄り駅までは電車で行く事になる、との事。


 その目的の駅には、イベントが開催される県の文化ホールがある以外はこれと言って集客性のあるお店や施設がある訳ではない所で、多少閑散とした感じのある場所だ。


 休日の朝、会場前二時間位に行けば、恐らくそんなに長い列にも並ばず待機時間も少ないだろうと予想出来た。


 その事自体はいいとして、私としてはその、全君の“手”とやらが気になって問いただしてみたのだけど、彼は笑ってその日のお楽しみにでも、とトボケてその話を有耶無耶に終わらせた。


 電話を終えた後、当然私も、この場合、全君と私が一緒にイベントに行ける最低限の条件などを考えてみるのだけど、考えれば考えれるほど、抜け道としての手段は“アレ”しかないと思え、『え?あの、ぜん君が、まさかそんな事までしてくれる訳が……』と妄想に近いその考えを思い悩み、しばらく悶々とするのでした……。



  ※



 結局その後は、イベントに行く準備にアレがいるコレがいる等の相談はしたのだけど、肝心のその“手”の話には一切触れないまま日々は過ぎていった。


 予想通りに、ジャンルがどうの以前に詩愛は私の誘いをやんわりと断った。それで、全君が、何か怪しい?手段をもちいて同行する、みたいな事を相談してみた所、


「おぉ~、凄いねぇ~、愛されてるねぇ~。後でその時の写真、絶対に送ってね」


 ニヘラ、とこの所よく浮かべる嫌な感じの笑みを浮かべてる。


 う~ん、詩愛の予想も私とほぼ同じなのだろう。でも、普通の男の子が、そんな恥ずかしい真似を、アッサリとするのだろうか?


 ………全君は、あんまり普通の男の子じゃないのでした。女の子の趣味も悪いし(涙)……。



  ※



 イベント当日の朝、いつもの様に自転車で我が家を訪れた全君は、当然のように別の荷物の入った紙袋を持参で、「じゃあ、ほんの少しの間、脱衣所をお借りしてもいいですか?今日着ていく服に着替えますので」と堂々と、少しも悪びれずに言う。


「どうぞ~~」


 とわが母は軽いノリで許可する。別に起きて来なくてもいいと断ったのに、わざわざ休日早朝に、早や起きて待機していたのだ。


 日本に来る前に、結婚の決断をする為の事前調査の名目で、母は日本の事を色々と調べ、学んでいた。なので、サブカルチャー方面にも詳しく、私がその手のイベントに行く、と知ると、「何か衣装は作らなくていいの?自転車(バイ)・王子(プリ)の部活のマネージャー衣装なら簡単に作れたわよ」と自然(ナチュラル)に私にコスプレを勧めてくる。


「今日はそういうのしないって言ったでしょ!生まれて初めてのイベント参加でいきなりコスプレなんてしたくないもん……。ううん!その後だってやりません!」


「でも~、ぜん君は、ある意味コスプレよね。アレ……」


 彼がこもった一階の脱衣所を指で指し示す。


 詩愛と同じで、母までがニヘラ、っとあの趣味の悪い笑みを見せる。詩愛と母はどこか似たもの同士だ。




 ー--それから程なくして、脱衣所から少しのためらいもなく姿を現わしたのは、あの“全ちゃん”だった。


 不自然ではない、焦げ茶色した綺麗な髪のウィッグ。肩より下まであるセミロングののものを被り、その前髪は人相が分からない様に目元を完全に隠している。


 端にリボンのついた黒のカチュ-シャ。それに、男性の証明となってしまう喉ぼとけを隠す為なのだろう、その首にベルトなのか布なのか、縁の付いた暗い色のチョーカーまで付けていた。


 服装は、薄い水色の各所にフリルのついた華やかなブラウスに、少し沈んだ暗い感じの赤のキュロットスカートをはいている。(靴が、普通に男子の履く何の変哲もないスニーカーだったのは減点対象だけど、完璧を求めても仕方ない)


「……これで、なんとかギリギリ女の子に見えますかね?」


 その場でフワリとスカートをひるがえし、一回転して見せる。ギリギリどころか、普通以上に可愛い女の子にしか見えない。目元が見えないのが逆にミステリアスで妄想を?き立てる。


 結構高画質のデジカメで、バシャバシャと本人の承諾もなく周囲の色々な角度から連写しているコッパズカシイ人妻がいるのが証拠だろう……。













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お待たせしました。途中まで書いてあったのですが、急激な気候変動、メインで使用していたモニターのご臨場。などいろいろあって遅れました。すみませぬ~。モノターは、古い、以前使用していた小さめのモニターを引っ張りだしてみたら、もう写りは悪いし、シャドウブつぶれてアニメがわけわかめ。荷物になるので新しいのは買いたくないのですが。

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