第25話 沙理砂の自宅にて(2)



 ※(沙理砂視点)



「―――それでね、こうなのよ!」


「へぇ、そんな事があったんですか」


「そうなの!もう、あの時は凄い困っちゃって~」


 ―――なんと言いますかか、母と全君は、少し話しただけで、何をどう気が合ったのか、すっかり意気投合してしまいまして……。


 娘そっちのけで、会話に花を咲かせています。


 しかも話題は私の昔の話、小さい頃の話まで持ち出してくるので、私としては、奈落の底まで続く深い穴を掘ってその底に潜って閉じこもりたい気分……。


 そもそもの最初、全君は告白した話からまるで何も隠すことなく話し、誌愛からの許可を得ての友達付き合いを始める事まで懇切丁寧に説明してくれやがりまして……。


「あ~、このところ、何かしあちゃんとドタバタやってると思ったら、その相談だったのね」


 母は意味ありげに眼を細目てニヤつき、本当に楽しそうに私の二の腕を肘でつつく。


「……つつかないでよ、痛いから、もう……」


 母は、私と違って手足が長く背が高く、出るとこは出て、引っ込んでるところは引っ込んでいる。艶やかな黒髪はゆるやかに波打ち、一目見て、ゴージャスな美人と言われる。


 綺麗な碧の瞳に涙ボクロ、高く整った鼻、口紅をつけてなくても赤い唇が魅惑的だ。


 私が、母の血を継いで美人と言われるけど、実際のところは、日本人の血で適度に薄まり、ほどほど、並みに近い薄い美人なんかじゃないかと思う。なので、母は私の自慢の母だけど、二人で隣り合うのは、歴然とした違いを見比べられるみたいで余り好きではない。


 つまりソファの隣りに座る今の様な状況が……。


「でもまあ、“あの”しあちゃんが認めるなんて、そう滅多にある事じゃないから、もうほぼ公認ね!」


 なにがどう“おおやけ”なんだかもう……。


「それで、一緒に通学したいから、ここまでは自転車で来て、うちにそれを置かせて欲しい、って訳ね。うんうん、もちろんいいわよ」


 と随分簡単にOKしてくれてます。我が母は……。


「自転車で通学って、やっぱり速く走れるオンロードの本格的なのだったりするのかしら?」


「あ、いえ。途中、舗装のちゃんとしてない区間もあるので、オンオフ兼用の、クロスバイクっていうのに乗ってます」


「ふむふむ、なるほどね」


 私は自転車の事には詳しくない、って事はなくて、最近だと自転車物の漫画がアニメ化、ドラマ化して大ヒットしたりしているから、それなりの基礎知識はある。


 オンロードの自転車って、車並みのスピードも出るから、通勤通学にも使われてる、自転車競技でも有名な車種ね。本格的な人は、帽子の様なヘルメットにパッツンパッツンの専用シャツにパンツで張り切って乗っている人も見かける。


 競技用みたいに泥除け、籠とか不要な物は一切つけず、極限まで軽量化して、スピードの限界まで挑む、みたいな感じの物らしい。


 私は知識としては知っているけど、自分で持ってないし乗った事もないので、あくまで表面的な情報を知ってるだけだけど。


 オフロードはその対極で、山道、荒れた道、泥道とかの専用のアップダウンの激しいコースなんかを走る為の自転車。全君のは、そのどちらでもない兼用のものらしい。


「未舗装の道路でもパンクし難いように、タイヤが太く厚目なんです。オンロードは凄くタイヤが細いんですよね」


 そっかそっか。ここらの地方は、舗装されているところ、まだまだ未舗装な道路とが混在している。特に山側、ある程度高いところにも住んでいる人はいるけれど、舗装は完全じゃない。砂利道や、泥や土のままの道路も結構ある。車とかならさほど問題ないけど、自転車だとそういう訳にはいかないのだろう。


 全君の住んでいる場所は、ここから駅で3つぐらい先。そういう場所を2つ3つ越えた所にある。ルートの取り様によっては、舗装道路のみを遠回りで選ぶ事も出来ない事はないけれど、彼は体力作りや通学の時短の事も考えて、ショートカットの道を選んでいるのだそうだ。


 ヨーロッパでは、自転車競技が盛んで、有名なので『ツール・ド・フランス』なんかがある。日本における『駅伝』みたいな感じなんだろうか?


 だからか、母と全君は意外な感じにそんなところでも話が合っていた。



 ※



 ―――


 それからしばらくして、


「あ、もうそろそろお暇(いとま)しますね」


 全君はうちの壁掛け時計の時刻を見て、少し慌てたように立ち上がった。


「あら、もう?遅いし、どうせなら晩御飯、一緒に食べていってもいいのよ?」


 母がさも残念そうに言うが、私としては色々気まずいので全君にはなるべく早くご退場願いたい。それが通じた訳ではないのだろうが、


「いえ。うちも夕飯、僕が作るので、今日は作り置きしてないし、時間前に帰らないといけないんです」


 全君は、如才なく微笑んでやんわりと母の申し出を辞退する。


「そう。そういえばさっき、ぜん君は家事全般やっているって言ってたわね。羨ましいわ。さりさちゃんは、引き籠っている癖に、料理とかはいま一つで……」


「て、手伝ってはいるでしょ!」


 私は料理は特に、味付けが上手くいかないのだ……。味音痴ではないのだけれど……。


「あ、そういえば先程のお肉が安売りだとの話、俺が行って買って来ますか?近くの商店街なら往復でもすぐですし。


 それに、買物に寄れなかったのは、僕の用件で帰りを急いでもらったからなんですから」


 駅から家に来る途中に商店街の傍を通ったので、場所が分かるからか、全君はそう申し出た。


「え?そんな、悪いわ……。でもそうね、どうせならついでって事で!」


 ―――


 母は最初は遠慮してるフリをして、結局は全君に全て買物を頼んでしまった。


「お肉の安売りは終わってるかもしれないけど、それと関係なく、すき焼き用の牛バラを3人前ね。それと……」


 なんだか、いい機会とばかりに重い物も色々頼んでいる気がするのだけど、全君はまるで気にする事なくうんうん頷いている。


「じゃあ、カバン類は取り合えずこちらに置かせて下さい。買物の荷物を運んで来た後に持ち帰りますから」


「はいはい。あ、私達の自転車、後ろに籠あって重い物載せられるから、乗って行っていいわよ」


「いえ、商店街だと小回り効かなくて、周りの邪魔になりますから、大丈夫です」


 と言って全君は、母から一応の買物メモと代金を受け取ると、玄関から風の様にピューっと走り去って行った。


 ―――


「……なんていうのか、凄く有能そうな子よねぇ」


「……それは、私も思ってる」


 ニマニマ笑う母の顔は、見ない様にして私は同意する。


「……それじゃあ、私は二階の部屋に戻ってるから」


「こらこら、またすぐに引き籠らないの。それよりも、あの子の話、ちゃんと聞かせてよ。バスケ部に入ってて、で告白されたんでしょ。そこのところを!もっと!詳しく!」


「そういの聞かれるの、嫌だから部屋に籠りたいの~~!」


 本気嘘ん気混じりのじゃれ合いで言い合っていたら、いつのまにか時間が経っていたのか、全君が買物から戻って来ていた。凄い大荷物で。


「じゃあ、お釣りとレシートはここに起きますので、僕は帰りますね」


 キッチンの方に荷物が一杯になった大きなポリ袋二つに、十キロのお米が2つ。


「……これ、どうやって持って帰って来たの?」


「両肩にかついで。部活でも買い出しとか行きますから、これぐらい持てますよ」


 全君以外でこんな量、絶対持てない、いや、難しいと思う……。


「じゃあ、僕はこれで帰りますから、また明日」


 こちらのお礼もそこそこに、全君はまた風のように、自分の荷物を掴んで帰って行った。


「……お母さん、いくらなんでも頼み過ぎじゃない?」


 うわ、醤油の大きいのに、サラダ油まで。野菜も各種そろい踏みで、すき焼き以外にサラダも作れる。それにお肉にシラタキ、焼き豆腐と卵2パック+お米十キロが2つって……(汗。


「いやぁ、持てる分まででいいって言ったんだけどね。あ、牛肉のいいやつ、半額シール貼ってあるじゃない!」


 母はあっけらかんととぼけ、物を仕分けしながら無邪気にひゃっほう、と喜んでいる。


 私はその脳天気さに、思わず頭痛を覚えてしまう。


「ふふふ。相変わらずの気配りさんなのね」


 ふと、嬉しそうにつぶやく母の言葉が、まるで以前から彼の事を知っているみたいに聞こえて、私は尋ねずにいられなかった。


「お母さん、私が二年になってから学校に来た事あったっけ?」


「え~~?何言ってるの。入学式以外一度もないわよ。文化祭とか行きたかったのに、さりさちゃんが何もろくな事してないから来るなって言うんだから」


 あれは、クラスが単なるつまらない展示ものでお茶を濁しただけで、本当に何もしていなかったからだ。私達はバスケ部員じゃないので、そちらとも関係ないし。


 それに、母は目立つ美人なので、私の所に来るだけで一騒ぎが起きる。中学でもうすっかり懲りた。


「じゃあ、全君とは今日が初対面でしょ?相変わらずって何?」


 私が聞くと、母は変な顔をしてマジマジと私を見つめる。


「何言ってるの?あなた達、昔あの子に会った事あるじゃない」


(ふぇ?!?)


 あなた“達”って、もしかして、私を含め幼馴染達の事を言ってる?!


「本当に、不思議な縁よねぇ。あんな小さい頃に一度会ったっきりだったのに、そのあの子がさりさちゃんの事を好きになるなんてねぇ。逆なら分かるのに」


 そのまま卵を冷蔵庫に入れつつ、母はしみじみとつぶやく。


「え?えぇっ?どういう事?何の話?私、全然分からないんだけど!」


 また母は、私の事を微妙な表情で見てから、あ、そうか、と口の中でつぶやく。


「あの時遊んだのは、確かお父さんの“あの騒動”が起きる直前くらいだったから、あなた、忘れてしまったのね。あんなに懐いていたのに……」


 ちょっと気まずそうな顔をして私を見る母に、私の疑問は膨れ上がる一方だったのだ……











***************************

【キャラ紹介】



女主人公:黒河 沙理砂



自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。




男主人公:神無月 全



高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。



バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。



物語冒頭で沙理砂に告白している。




白鳳院 誌愛



沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。



本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。



心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。



沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。




宇迦野 瀬里亜



全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。



可愛く愛くるしく小動物チック。



こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。


デート回入れました。




滝沢 龍



誌愛の恋人。母はモンゴル。


長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。


爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。




風早ラルク(ランドルフォ)



瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。


3ポイントシューター。狙い撃つぜ!



母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?






苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。



後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ

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