第24話 沙理砂の自宅にて(1)
※(沙理砂視点)
私がいつも電車に乗る駅についた。
大抵いつもは、誌愛か他の幼馴染達といるので、男の子と二人きりというのは紛れもなく初めての事だ。
「サリサ先輩のお母さんは、もう家に帰宅されているのですか?」
駅の改札を抜けてから全君が聞いてきた。
「え……、と。もう少し、かな。私達が家に着いて、二、三十分もしない内に帰って来ると思う。何か買物してたら、少し遅れるかもだけど、電話して真っ直ぐ帰る様に言っておくから」
私はスマホの時計を確認して言った。
(何でかって理由の説明はしないけど……)
しばらく歩いて行くと、なにか、顔見知りなお店の人なんかからの視線を感じる。私が男性恐怖症だって知っている人もいるから、多分それで物珍しいのだろう……。
「……それで、沙理砂先輩のお母さんって、何のお仕事をされているんですか?」
「え、っとね。言ってなかった?競技ダンスって知ってる?」
「あー、はい。タキシードとかドレス着て、意外と激しいダンスを踊って、順位を争うんですよね?」
「うん、そうそう。一応、漫画とかアニメ、ドラマでも題材として扱ってる物がいくつかあるから、知ってる人は知ってるみたいね。(私も詳しく知ったのはそれらからだ)
母さんは、昔それの選手だったの。世界大会とかも出て、いいとこまで行ったらしいんだけど……」
「だけど?」
「お決まり、と言ってしまうとアレだけど、足首を故障して、治っても、普通に歩けはするけれど、激しい動きは出来なくなってしまったの。選手生命としては致命的な怪我……」
もう終わった話なので、母は明るく話すけど、当時はきっと、凄い悲しんだのだろう……。
スポーツ選手は怪我と一生付き合っていかなきゃいけないとか聞くけど、母の怪我はその限度を越えていたのだ。
「それは、残念な話ですね……」
「うん。でも、それで国に戻って来て、実家の食堂でお客さんにサービスで踊る母を見て、観光で来ていた父さんと巡り合えたんだから、プラマイゼロだって母さん、笑って言ってた」
それがなければ私はこの世に生まれていない。
「……心が強い人なんですね」
「私もそう思う。それで、それらの大会に出ていた人が母の事覚えていて、指導者としてならどうか?て勧誘してくれたの。だから、今はそのダンス教室の先生って訳」
「なるほど……」
人の縁って、不思議と繋がって自分自身に帰って助けになってくれる。母はそういう良縁に恵まれた人なのだ。
しばらくの沈黙の後、全君が尋ねて来る。
「その、旅行で出会った、って話ですが、先輩達が皆、ハーフなのに、もしかして関係が?」
「あ、うん。ゼン君、鋭いわ。あのね、私達の父が、大学の時サークルを作って、なんのサークルだったかな?ちょっと忘れちゃった。
ま、それはいいとして、そのサークルで、大学生の内に社会勉強として世界中を旅行しよう!って目標があって、部費と、メンバーがアルバイトしてお金ためて、世界を周る旅行にサークルメンバー皆で行ったんだって」
「へ~、そうなんですか。(旅行サークルか何かかな?)費用がかなりかかりそうですね。で、その時知り合ったのが」
「うん。私達のお母さん達って訳なの。
旅行の費用は実は、バイト代だけでなく、お金持ちな白鳳院家、宇迦野家からかなり援助してもらったんだって。(きっと結構豪華な旅行だったんじゃないかな……)
で、“運命の出会い”がいくつかあったけど、流石にサークル参加者全員がお嫁さんを見つけた訳じゃないし、旅行の後は遠距離恋愛になったから、上手く行かなかったカップルもいたらしいけど、幾多の障害を乗り越えて結婚までこぎつけたのが、私達4人の父って訳なの」
「……色々と問題があったでしょうね」
「そうなの。モンゴル、イタリア、北欧の小国、スペイン。人種も言葉も習慣も違うのに、よく恋愛が成立したなぁ、って思うし、それが他国に移住しての結婚。本当によく出来たなぁ、って私も感心しちゃう」
「そうですよね。……あれ?4人って事は、宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)さんは?」
「あ、宇迦野家の小父様は、世界旅行には行ったのだけれど、生まれた時から決められた日本人の婚約者がいたから、その方と結婚してるの」
(生まれた時からの許嫁(いいなずけ)とか、時代錯誤もはなはだしい。いいとこの名家はまったくもう……)
それがなければ親友の瀬里亜は生まれて来なかった事になるから、私としては複雑だ。古いしきたりへの不満と、親友の存在が板挟みになる。
「でも、結婚した時期とか微妙に違うのに、何故か同年代の子供、つまり私達が同じ年に揃って生まれたの。偶然だけど、不思議な縁よね」
親同士が知り合いで親友、という関係上、それで私達は自然と一緒に遊ぶようになったのだ。
勿論、家が近所という意味もあったけど、そもそもがなるべく近所に居を構えよう、と親同士が相談の上だったのよね。名家な二家は高級住宅街の方だけど。
その後も、学校の勉強の事、部活の事、そして今日行ったアクアショップの事などを話している内に、気が付くともう自宅前まで着いていた。
なんとなく思っていたのだけど、全君は話し上手だ。私は、幼馴染達以外の男性が話に入ると、口ごもったり沈黙したりと、上手く話せない事が多い。それに、正直言って、話題が余りないし、あっても話が合わない。
話していく内に、どうにも楽しくなく、話すのが苦痛になる。
全君の場合、それがない。日常的に話す普通の話を話題にしている事もあるけれど、彼は私が余り興味ない話題だと、何故かすぐ分かるのか、話題を自然に別の物へと移すのだ。気遣い上手で、それを不自然な態度や表情に出す事もなく、当り前のように出来る。
なので私は、まるで誌愛達と一緒の時のように楽しく、家に着くまでの時間がまるでないみたいに気付くと急に家の前で驚いてしまった。
「あ、えっと。こ、ここここが私の自宅ね!(ニワトリか!)
誌愛達のお屋敷とは違う、極々普通の家だけど、ガッカリしないでね!」
全く持って普通の、二階建て庭付きの質素な家だ。自転車は、私と母が共有している、後ろに大きなカゴを付けたママチャリのみ。
「?うちも、車とバイクを駐車するガレージがある以外は普通の家ですよ?」
「そ、そうなんだ!うちは、あんまり遠出しないし、する時はレンタカーで済ませているの!」
「車は維持費や税金、その他諸々かかりますから、経済的でいいですね」
「そう、なのかしら?わ、私もお庭をなくして駐車スペース作るよりは、いいと、思っているの……」
「はい。庭はいいですよね」
玄関の鍵を開け、中に招き入れながら話をするのだけど、どうしても変に緊張してテンションが上がって、言葉がどもり気味になってしまう。
応接間に案内して、そこでしばらく待ってもらう。
「私、自室で着替えて来るから、そこに座って待っていて。すぐにお茶、入れるから!」
「はい、慌てなくていいですよ。ごゆっくりどうぞ」
どうにも、私の家なのに全君の方が落ち着き払っているのは何だかムカつく。筋違いの怒りだけど。ともかく、私は狭い階段を上がって自室へと急ぐ。
制服脱いで、シャワーとか浴びてる暇はないから、ともかく着替え!
なにを着ようか迷ったけど、今はそんな場合じゃないので、最初に手に取った白のブラウスと水色のスカートに着替えてから、母に電話をかける。
もう電車に乗っていて、丁度これから帰るところだと言うので、寄り道ぜずに帰って欲しい旨を伝えた。
当然、不思議がって理由を聞いて来るが、とりあえず言葉を濁し、帰って来れば分かるから、と強引に締めて通話を切った。
それから急いで下に降りる。
「お茶、紅茶がいい?それとも日本茶?」
「どちらでも構いませんよ」
大人しく応接間のソファに座っていた全君は、こっちの慌てぶりとは対称的に、まるで落ち着いてくつろいでいた。
お茶菓子におせんべいがあったのを思いだした私は、それを適当な器に盛り、日本茶をいれる事にする。電熱ケトルがあるけれど、あれだと時間がかかる。
小さめのヤカンにガスコンロで火をかけ、急須にお茶ッ葉を適量入れて待機。お湯がわいてから、すこしだけ間をあけて冷まし、急須にいれて自分の分と合わせて2つの湯のみに入れ、お盆に載せて運んだ。
「わざわざすみません」
テーブルにお茶とおせんべい入れた器を置くと、全君は行儀よくペコリと頭を下げた。どこまでも躾の行き届いた子だ。よっぽど親が厳しい家の子なのだろうか?
「お湯でちゃんとお茶入れるって、最近だと少なくないですか?ペットボトルが普及したせいか、冷たいお茶とか、後は粉茶を出すところとかもありましたね」
私の入れたお茶をフーフーと吹いてからすすり、全君は言う。
「そうね。もうお茶ッ葉使ってない家もあるって聞いた事あるけれど、私の家は、出来るだけちゃんっとした茶葉を使ってるの。母がスペイン人だから、こちらの方が日本茶として本格的な感じで好きだって理由で」
逆に紅茶はティーパックを使っていたりする。紅茶を入れる茶器もあるんだけど、何故かそっちはっ手を抜いている。こういうのは家庭によって違うのだろう。
「まあ、うちの両親はコーヒー党で、お茶とかは自分用なんですが」
「そうなんだ」
「はい。サリサ先輩は、緑茶好きなんですか?」
「え?うん、そうね。紅茶も飲むけど、私は緑茶派かな。ペットボトルんじゃない、家でいれるちゃんとした茶葉を使うお茶の方が好き」
「好みが同じで嬉しいです」
飲みかけのお茶を吹き出しそうになる。
本当にこの子は、ちょいちょい自分の好意を口に出す。私としては、困惑して照れるばかりなのだ。
時々、そういう自分を見てからかってるのではないか?と思わなくもないけれど、彼の純朴そうな様子、悪意のない無邪気な表情からは、さすがにそれはないと考え直す。
「それはどうも……」
私はゴニョゴニョと、適当な相槌でお茶を濁す。
そんな、落ち着いているんだかいないんだか分からない雰囲気の中で時間は過ぎ、ついに玄関のドアが開く音が聞こえる。母が帰宅したのだ。
どう説明したらいいのか、未だに迷う私は、とにかく母を出迎えに席を立つ。
「……もう、今日お肉の特売があったのに、何なの、さりさちゃん」
母は玄関口で靴を脱ぎながら、出迎えに来た私に気付いて愚痴る。
「あ~、えっと、あのね……」
「こんばんは、初めまして」
いつのまにか、私の後ろからついて来ていた全君が、私の迷いや戸惑いとは無縁に、はきはきと挨拶していた。
「……Buenas noches. (ブエナス ノーチェス) ……」
意表をつかれた母は、思わず母国語で挨拶していた……。
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【キャラ紹介】
女主人公:黒河 沙理砂
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。
男主人公:神無月 全
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。
白鳳院 誌愛
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。
宇迦野 瀬里亜
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
デート回入れました。
滝沢 龍
誌愛の恋人。母はモンゴル。
長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。
爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。
風早ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
3ポイントシューター。狙い撃つぜ!
母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?
※
苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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