第20話 これからの事(3)



 ※(全視点)



 僕が、バスケ部のみんなの前で退部宣言をした翌日。


 僕は、龍先輩にラルク先輩と、白鳳院先輩、黒河先輩との五人で、中庭のベンチで昼食を取っていた。


 バスケ部の先輩達は購買のパン。僕と女性陣の先輩はお弁当だ。


「それで、昨日の会議はどうなったの~?」


 白鳳院先輩が―――


「あ、私やさりーも、りゅう君達みたいに名前の方で読んでね~」


 僕、今、心の中でしか思っていないのだけど……(汗。


「わ、分かりました、シア先輩とサ、サリサ…先輩で呼ぶ様に、出来たらします……」


 自信無げに言葉を濁(にご)す。


「呼び捨てとか、さりささん、とかでもいいんじゃないかな~?」


「私は言ってないっ!言ってないから!……先輩呼びでいいわよ……」


「はい。じゃあこれからは、なるべくそう呼ばせてもらいます」


 今までも、心の中では呼んでみた事あるのだけれど、実際に呼んでみるとむず痒い……。


「退部じゃなく、とりあえず休部にしてもらったよ。五利部長と三島副部長、それに顧問の鬼瓦先生が、懸命になって懇願してなぁ。。先生なんて、少し涙目になってたぞ」


 龍先輩が、もう惣菜パン4個を食べ終わって話を続けた。


「三年の先輩方には、夏が全国を目指して全力で挑める最後で最大の機会だからな。


 ゼン程の戦力をみすみす逃したくないんだわ。仕方ねぇーよな」


ラルク先輩の言葉は大袈裟過ぎる。


「……僕が一人いたからって、余り大した戦力にならないと思うんですが……」


 僕としては、正直に思う事を言ったのだけど、先輩達は全員、何言ってるんだ、お前、みたいな微妙な視線で僕を見ていた……。



(中略)



 部活休部の説明は終わった。


 夏の合宿まで僕は一人で自主練だ。秘密兵器がどうのと龍先輩は言うけれど、ここまで小さい選手はほとんど見かけないので、前例のない、慣れていない相手、という意味では秘密兵器、とやらになるのだろうか。


 僕は総じて地面に近いし、ドリブルする相手の動きは結構隙があってカット出来るので、そういう要員として役に立つのかなぁ……。レギュラーは合宿で決めると言うし、補欠の交代要員にでも引っかかれば御の字だろう。


 ラルク先輩は、チョココロネを細い尻尾の方から食べてるけど、そうすると上からチョコクリームが……。


 すかさず誌愛先輩と沙理砂先輩がスプーンで零れ落ちそうなチョコクリームを二人でほとんどすくって食べてしまった。


「うぉ!なんで二人で俺のパンの一番好きなとこ食ってんだよ!」(涙目)


「だってこぼれるしぃ~」


「勿体ないものね」


 幼馴染だと、阿吽の呼吸でこういう事が行われてしまうらしい。羨ましい。


 ちょっとラルク先輩が可哀想すぎる気もするけれど……。


「……僕のお弁当の、唐揚げでも食べますか?甘いものじゃないですけど」


「おー、ありがてぇ。この際腹が膨れればいいさ。……って、これ冷凍ものじゃないのか。凄い美味いじゃないか!お前んとこの母親は料理上手だな」


「あー、いえ。母は忙しいので、これは自分でつくったお弁当です。父や母の分も一緒に作ってますから」


 僕が、余り自慢出来る話ではない家庭内事情を話すと、とたんに誌愛先輩が、僕のお弁当から唐揚げと卵焼きを止める間もなくインターセプトして行った……。


「わぁ、本当に美味しい!塩胡椒とかじゃなくて、お醤油に付け込んでから唐揚げにしてるんだ!それに、何か隠し味も入ってるみたい……。


 後、この卵焼き、ただ焼いたのじゃなくて、だし巻き卵じゃない!これもすっごい美味しい!」


 誌愛先輩は、育ちがいいせいか、グルメ評論家みたく僕のおかずを批評している。


 それを聞いて、なんだか沙理砂先輩も食べたそうな顔をしているので、お弁当の蓋に適当におかずを乗せて渡した。


「どうぞ。シア先輩達は誉め過ぎてるんで、余り味には期待しないで下さい」


 渡したおかずを、沙理砂先輩は嬉しそうに、先割れのスプーンで少しづつ食べて、目を輝かせている。沙理砂先輩の舌にも料理の味が合ったようで一安心だ。


 沙理砂先輩は、おかずの味だけ見て、そんなに量は食べないらしく、こちらも興味津々な龍先輩に分けてあげている。誌愛先輩までそれに便乗して、また一緒に食べているのが気になるなぁ……。そんなに小さなお弁当じゃないのを、もう完食してるのに……。


「……本当に、味付けとかちゃんとしてる。家事、もしかして長くやっているの?」


「あ、はい。俺がある程度成長してから、母が仕事を再開したので、家政婦を雇う、との話が出てたんですが、僕が余り他人に家の中に入って来て欲しくなかったので、自分で覚えてやるようになったんです。


 最初の頃は、そんな事する事ないって二人とも反対してたんですが、二人の好みの味を覚えてからは、何も言わなくなったので……」


 自慢、している訳じゃない。人見知りな自分が、両親の役に立ちたい事もあって、無理にやらせてもらえる様にしたのだ。やり口が卑怯だなぁ、と我ながら思う。


「親孝行だな。お袋さん、仕事を再開って何をしているんだ?」


 龍先輩は、前向きに、いい話風に解釈してくれて助かります。


 でも、その質問に答えるのはまだ覚悟が出来てないんです……。


「え~~と……。色々やってるらしいですよ……」


 僕は一部だけ本当の嘘で誤魔化した。


 先輩達は、母さんがパートを転々と変えているか、短期の派遣仕事をしているのだろう、と常識的な見解で納得したみたいだった。


 すみません。時期が来たら、ちゃんと打ち明けますから……。



 ―――昼食が終わると、誌愛先輩が改めて彼女達を、名字でなく龍先輩達のように名前呼びする様に、と念押しで厳命された。


「絶対だからね~。破るとひどいよ~、お仕置きだよ~」


 楽し気に言う様子からは軽いお願いみたいに聞こえるが、いったい何をされるのか怖くて想像も出来ないので、何度も頷く。


 龍先輩がその後ろで、スマン、と苦笑して気付かれない様に小さく頭を下げている。


 それから僕は、今日から空く放課後の自由時間を使って、早速ちゃっかり沙理砂先輩と登下校を一緒にする為の前準備をお願いする事にした。


 自転車登校をしているのに、沙理砂先輩の家までにそれを変更して、そこから一緒に登校してもらう為に、自分の自転車を先輩の家に置かせてもらう。


 少々強引で図々しい話だと思うのだけど、部活を継続していたとしても、クラスが違い、学年すら違う先輩との接点を少しでも増やすには、登下校を一緒にするのは必須なのだ。


 これからしばらくは、放課後の時間も家に帰るまで一緒にいられる算段になるのだけどれど、それはあくまで先輩の男嫌いな症状を改善する為で、恋愛の進展の為ではない。


 という口実で、少しでも先輩と一緒に行動出来るのは、僕の方にとってのメリットで、先輩の真面目に難しいな事情を考えると、余りよろしくない話だ。


 それでも、『恋は戦争』、とか何かで聞いた覚えがある。つまり戦いだ。そして戦いなら、師匠から、耳にタコができるくらいに、『頭を使い、戦術、戦略を練って勝利を掴み取れ』と教えられている。


 あの暴力の権化には、多少の戦略戦術なんてまるで関係ないけれど、恋愛事ならば、少しでも頭を使って作戦を練れば、事態を好転させる事が出来るのかも?


 そもそもの恋愛の経験がまったくない、経験値ゼロな僕だけれども、そういった参考書、資料になる物は世に溢れている。ネットでも検索すればいくらでも出て来る。役に立つ話も、まるで立たないゴミ話も……。


 とにかく、それらを参考に、何とか無理やりにでも良好な手段、有効な方法を取って行くしかないのだろう。


 ……素の自分をちゃんと見せられていない今の自分、両親との関係を明確に話す度胸のない今の自分に、好きな人から好かれたい、と行動するのは支離滅裂で本末転倒な気がしないでもないけれど、とにかく前に進んで行動するしかない。他の事情は、おいおい時期を見て打ち明けるしかないだろう。それで沙理砂先輩に嫌われたとしても……。



  ※



 そうして僕達は、学校の終わった放課後も帰り道の途中、前に冒険散策をして見つけたアクアショップに先輩を誘うのに成功したのだった。


 生き物は生理的に駄目、な人もいるけれど、魚類は水槽越しに見るのだし、女性にはキモ可愛い、という不思議な感性のある人達だ。


 水族館はデートの定番スポットなのだし(正確には水族館ではないけれど)、沙理砂先輩が気に入ってくれるといいのだけれど……。









***************************


【キャラ紹介】


女主人公:黒河 沙理砂


自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。



男主人公:神無月 全


高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。


バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。


物語冒頭で沙理砂に告白している。



白鳳院 誌愛


沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。


本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。


心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。


沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。



宇迦野 瀬里亜


全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。


可愛く愛くるしく小動物チック。


こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。

デート回入れました。



滝沢 龍


誌愛の恋人。母はモンゴル。

長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。

爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。



風早ラルク(ランドルフォ)


瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。

3ポイントシューター。狙い撃つぜ!


母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?




苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。


後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ

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