第16話 これからの事(1)
※(沙理砂視点)
神無月(かんなづき) 全(ぜん)君が、色々衝撃的な話をバスケ部のミーティングでした翌日の昼休み、私達、幼馴染四人組は彼をまじえて五人、中庭で昼食をとっていた。
当然、昨夕、バスケ部の主要メンバーで話されたという、彼のバスケ部退部騒動に関しての話を効く為だ。
話だけなら、バスケ部の幼馴染二人、龍とラルクから先に聞いても良かったのだけど、やはり本人の口からちゃんと顛末を聞きたい。
ところで、彼は誌愛の交際条件として出した話を、見事にほぼ完璧にクリアしてしまったので、誌愛はすっかり彼を認めて、今や交際する本人の私よりも、この交際関係に乗り気になってしまっている。
厳しい誌愛ママに、全君は認められてしまったので、これから昼休みはいつもこのメンバーで集まって食べるようになるみたいだ。
私自身は、交際うんぬんよりも、彼が本当にバスケ部を辞めてしまうのかが心配だったので、その後の話を詳しく聞きたかった。
あんなに上手く、将来有望そうな子が、私なんかの為にバスケを辞めてしまう、というのは並みで凡人な私としては、とんでもない身分不相応な話で、罪悪感だとかでバスケ部に対して申し訳ない気持で一杯になってしまった。
昨日はあんな話を急に人前で話されて、どうも私は頭に血が昇って失神してしまったらしい。
気が付いたら、誌愛の家の高級自家用車の中にいた。
時々顔を合わせる運転手さんが、私が普通に目が覚めたので、誌愛と一緒にホっと一安心していた。
もし気が付かなかったら、病院の方に車を向かわせる所だったと聞いたので、私も危ないところだったと安堵してしまった。
誌愛の家には、昔、あの事件が解決するまでの3カ月程の期間、私自身が誌愛の家に預かってもらい、そのまま私のトラウマの事でも誌愛と白鳳院家の皆さまには色々お世話になっているので、本当にこれ以上迷惑をかけたくなかったのだけど、時々こういう風に何かと手配してもらったりしていて、私の心の負債は少しも返却出来ずに増える一方なのだ。
その当時に、誌愛は弱っている私の面倒を色々見てくれて、元々仲の良い親友だったのが、姉妹同然の仲になってしまった。いや、どちらかというと、母親みたいな?
ともかく、その内、私自身が誌愛の家の使用人にでもならないと駄目じゃないのか、と真剣に考えてしまうぐらいに一方的な恩の負債が積み立てられている。
通学も、入学する前に、電車通学でなく、誌愛と一緒にこの運転手付きの自家用車で高校まで送迎をするか?という話すら出たものだ。
それは当然魅力的な話だけれど、お嬢様でも何でもない私がそんな特別待遇に慣れてしまうと、大学進学とか就職とかした時、いきなり普通に戻れる自信がなかったので、謹んで辞退させてもらった。
(でも、私の考える未来像は、家に引き籠って花嫁修業、と偽る引き籠り生活だったけれど)
私としても、通勤ラッシュ時の電車等には正直言って乗りたくなかったのだけど、基本、山に囲まれた、この県の中心都市からは離れている、付近の学校へ通学する路線は社会人はまだ少なく、それに私と誌愛はバスケ部の朝練に合わせて、人の少ない朝早くに出る事で難を逃れていた。
交通の便がそんなに充実した地方ではないので、学校では自転車、自家用車、バイク通学等、色々な方法での通学を認めている。
て、話が脱線した。
全君の退部話の件です。
私達は、幼馴染の男子二人はは購買の惣菜パン、私と誌愛、全君はお弁当を食べながら話を進めた。
聞きたい事は、誌愛がズバズバ聞いてくれて、私が口を出す隙すらない……。
(でも便利……)
で、その話を聞くところによると、全君の件は、しばらく『休部扱い』となる様だ。
五利部長と三島副部長、それに顧問の鬼瓦先生が、全君に思いとどまる様に、泣きつかんばかりの懇願をしたらしい。
「三年の先輩方には、夏が全国を目指して全力で挑める最後で最大の機会だからな。
ゼン程の戦力をみすみす逃したくないんだわ。仕方ねぇーよな」
ラルクが他人事の様に笑って解説をする。
バスケの全国大会は今は、夏と冬の年に二回開催されているけれど、冬は三年が受験で、推薦でも取れた選手でなければまともなコンディションで出場出来ない関係から、次の年への調整、様子見的な内容の大会になるらしい。なので本番は夏の大会だ。
「……僕一人いたからって、余り大した戦力にならないと思うんですが……」
全君は、退部すると覚悟や心を決めていたせいか、少し不満そうで、そんな事を呟いて龍達を呆れさせている。
素人の私や誌愛から見ても、彼が出ると出ないとでは、チームとしてかなりの戦力差になる気がするというのに……。
「考えようによっては、まだ他校に知れ渡っていないゼンの存在を隠して、秘密兵器として温存出来るんじゃないか?」
ラルクは、そんな風に今回の状態を、良い意味で活用する面を見ているようだ。
「それも悪くないか。……ともかく、ゼンには、しばらく学校外で自主練をしてもらう事になるな」
龍が苦笑しつつ、全君を納得させる様に肩を叩き、穏やかな声で言う。
「それは、別に構いませんけど。元々、部活終わった後にも師匠の所に行って、鍛錬していたので、その時間を増やせばいいようなものですから」
「え、部活終わった後からも、その武術鍛錬て、してたの~~?」
誌愛がびっくり眼(まなこ)で全君に尋ねている。
「はい。基本、毎日欠かさず、1時間でも30分でもやるように言われているので。夕食終わった後、お寺まで行って、組手やら何やらで寝る前の一汗を流してました」
バスケ部の練習は、それなりにハードな物の筈なのに、それが終わった後、山の中腹にあるというそのお寺まで行き、まだ運動をしていたと聞き、運動音痴な私などは感心するしかない。
だから、あんなに体力があり、バスケ部の厳しい練習にも余裕でついて行けるのだろう。
その後、私と誌愛がラルクのチョココロネのクリームを少し食べた事から、全君がラルクに自分のお弁当のオカズをあげた。
それが冷凍物じゃない、凄い美味しいオカズだった事をラルクが騒いだから、誌愛が彼のお弁当のオカズを大量に奪って食べ、舌がこえている彼女までもがその味を褒めている。
しかもそれは、全君が自分で作ったのだと言う。
彼の口ぶりから、両親は健在だけど、共働きしているので彼が料理や掃除など、家の手伝いをしているのだそうだ。
(一応共働きは、私のとこと同じ、かな?)
私が、誌愛が美味しそうに彼のオカズを食べているのを羨まし気に見ていた為か、残ったオカズをお弁当の蓋に乗せて私に差し出して来る。
「どうぞ。シア先輩達は誉め過ぎてるんで、余り味には期待しないで下さい」
少しはにかんで微笑み、手渡しして来る。可愛く気遣い上手。新妻を連想する私は頭が何処かおかしいのかもしれない……。
食べてみると本当に美味しい……。運動が出来て、家事も出来るなんて、どこの完璧超人なんだろうか。背が低い以外欠点とかなかったりするのかも……。
私には少し量が多かったので、こちらも物欲しそうに見ていた龍に、一通り味を見たオカズの残りを渡す。何やらラルクと取り合いに……誌愛も参加してる……。
しかし、パンだけの男子はともかく、きっちり自分のお弁当を完食してから、全君のオカズの半分近くを平らげ、更に食べようという誌愛の大食いには呆れるしかない。
普段、楚々として、余り目立たないけれど、誌愛は結構大食漢で、優雅な手つき、行儀のよい作法を使いつつ、その食べる速度は尋常ではない。
ニコニコと微笑み、談笑しながら物の五分とかからない内に、一食分くらい軽く食べ尽くしてしまう。それでいて、まるで太らないのだ!いや、胸の脂肪には行っているのかもしれない!便利でおかしな身体構造をしているのだ!
私は、小食のせいか余りお肉がつかない。特に胸のカップは中学の途中からまるで変える必要がなくなった。誌愛が嘆く肩こりなどには無縁な身体だけど、余りなさ過ぎるのも、それはそれで悲しくなる。
(別に、スレンダーでバランスは取れていると思うのだけど……)
母や誌愛に相談すると、「肉食え、肉」と適当なアドバイスをされる。
牛乳飲め、よりマシな気もしないでもないけれど、どちらにしろ効果は余りない。
※
昼食が終わり、それぞれ後片付けした後、誌愛が全君に、私達を名字でなく、龍達のように名前呼びする様に提案(という名の強制)している。
例のリハビリ交際を始めるので、これからは親しい呼称で、という事だ。
私にも誌愛は昨夜の電話で、そう伝えて来たので私は自分の心の中では全君呼びに変えていた。
(まだ声に出して呼んでいないけど、大丈夫だろうか?幼馴染や家族以外では、そんなに親しい交友関係のなかった私は、ある程度コミュ障だ)
「で、く、じゃないサリサ先輩。今日の放課後はどうしますか?シア先輩につき合って、いつも通りにバスケ部の応援を?」
お弁当を仕舞った全君が、今日の私の予定を聞いてくる。
「え、っと……」
私が困って誌愛を見ると、誌愛はまた親指を立ててサムズアップしている……。
(親指立てるな!)
「一応空いているみたい?しあにつき合わなくてもいいみたいだから……」
「じゃあ、俺と一緒に下校しましょう。俺、いつもは自転車で家から学校まで通ってるんですけど、これからは、く……サリサ先輩に合わせて通学しますので、先輩の家に俺の自転車を置かせてもらいたいんです」
「え?それは、私の家までわざわざ自転車で来て、それから一緒に電車で通学するつもりなの?」
「はい。なので、サリサ先輩の親御さんに許可をいただきたく……」
「でもそれじゃ、定期代が余分にかかるじゃない!そんなの駄目よ!」
私は思わず大声を出してしまう。
「でも、学年が違うと、登下校の貴重な時間は絶対にご一緒したいので。別に、通学の費用は元々、自転車でも電車でも構わなくて、その分の費用はもらってますから」
「……もしかして、自転車で浮かしてお小遣いに?」
「そうです。部活でバイト出来ない筈でしたから、そういう工夫も許可してもらってるんです」
(……それなら、いいのかしら?でも、お小遣い減る事になる気がするけど……)
全君は私の気も知らずにニコニコしている。
多分これも、彼的にバスケ部を辞めるのと同じ、どちらが大事かの選択で、彼は私と登下校する事をもう選んでしまっているのだ。
そう思うと、顔と胸がカーっと熱くなる。
「そ、それじゃあ放課後、校門の所で待ち合わせね。……ぜ、ぜん、君……」
「はい!」
とても嬉しそうに、元気よく返事する声が印象的だった……。
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【キャラ紹介】
女主人公:黒河 沙理砂
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。
男主人公:神無月 全
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。
白鳳院 誌愛
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。
宇迦野 瀬里亜
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
デート回入れました。
滝沢 龍
誌愛の恋人。母はモンゴル。
長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。
爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。
風早ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
3ポイントシューター。狙い撃つぜ!
母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?
※
苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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