第17話 これからの事(2)



 ※(沙理砂視点)



 下駄箱で靴を履き替えて、誌愛と一緒に外に出ると、全君が所在無げな様子で出口脇に立って私達を待っていた。


「待ち合わせって、校門の所って言ってなかったかしら?」


 私は不思議に思って、全君の所に誌愛と一緒に小走りに駆け寄った。


「あ~、いえ。勢いで誘ってしまいましたが、シア先輩とか一緒でなく、僕と二人だけでサリサ先輩の恐怖症は大丈夫なのかな?って疑問に思いまして……」


 全君もどうやら、誌愛と同じ心配をしていた様だ。さっきまで、私達もその事で話し合っていたのだ。


「うんそれは、試してみないと分からないのよね~~」


 誌愛はいつもの、のんびりした口調で全君に話しかける。


「しあからも、その話はされていたの。もし駄目なようなら、学校に戻るかして、誰か一緒の時でないと、遊びにも行けない事になってしまうけれど……」


 保護者同伴でないと気軽に外を出歩けない、遊びにも行けない面倒な女。


 私は、自分がどれだけ普通の女の子と違い、世話の焼ける取り扱い注意な微妙物件である事に、今更ながら思い知らされて愕然としていた。


 全君も困り顔だ。


「まあまあ~。まだしてない事で暗くなっても仕方ないでしょう。


 私は、多分大丈夫なんじゃないかと思っているんだけどね~~♪」


 誌愛はなぜか、根拠のないみなぎる自信で言い切るのだけど、私よりも私の事をよく熟知している誌愛の方が、もしかしたら正しいのかもしれない……?


「……ともかく、その……駅まで一緒に行ってみて様子を見ましょう。駄目なら、それを踏まえて、これからの事を考えればいいんだし……」


 私には、誌愛の様な自信はこれっぽっちの欠片(カケラ)もありはしないので、歯切れの悪い言葉になってしまう。


「そう、ですね。とりあえず、そうしましょうか」


 私達は、体育館へといつもの応援に行く誌愛と別れ、校門を目指す。


 私は、同学年が多い学校内だと、男子の集団を避けたりさえすれば、比較的普通に動けている。だから、問題は校門を越えてからだろう。


「そう言えば、か……ぜん君は、今日は自転車で来ていないの?」


「はい。最初から、自転車を置かせてもらうお願いに、先輩の家に行きたいと思っていましたので電車で来ました」


 色々と、私の事を考え予定を立ててくれている彼には本当に申し訳ない。


 誌愛や瀬里亜以外で、私の事をこんなに考えてくれる人が現れるなんて、今まで一度として考えた事すらなかった。私ごときに、そんな物好きが……。


 私達の住む某県は、東京などの都会から離れた山あいの、どちらかというと田舎の県だ。


 県庁などのある中央付近には流石にJRの路線が通っているけれど、それは東京の様に県内を縦横無尽にカバーしている訳では当然ない。他は私鉄の電車やバス頼りで、それも充分とは言えない状況だ。


 だから、全君の様に自転車や、あるいはバイク、原付スクター等で来る生徒も多い。


「……最初は、サリサ先輩に合わせて、電車通学にしてみますが、先輩が嫌でなければバイク通学でも行けますよ」


「バイク……。ぜん君持ってるの?あ、その前に、免許は?教習所や合宿免許なんて行く暇なかったでしょ?」


 全君は、入学してすぐにバスケ部に入部した筈だ。


「僕は、誕生日が四月になってるので、普通に直接試験場で試験を受けて、一度で受かりました。中型以下ですが、大型に乗る気はないので」


 中型でも足とか届くか心配(足が短い、とか言いたい訳じゃなく)。


 どうやって受かったのだろうか。


 教習所に通わず、直接実技試験等を受けてクリア。その方が安上がりらしい、との話は聞いているけれど、私に関係ありそうなのは、ペーパーテストのみの原付だけだろう。(それも取っていないけど)


「直接試験場で一回クリアなんて、凄いのね」


「父のバイクが家にあるので、取り回しとかの練習が出来ましたから」


(練習出来るから受かる、なんて事はないと思うけど……)


 全君は涼しい顔で、別に何でもないとその苦労を見せはしない。


「……ところで」


「うん?」


「もうとっくに校門を通り過ぎましたけど、症状の方はどうですか?負担になっていませんか?」


 心配気に私の顔を覗き込む全君に、私は校門がもう遠く後方の彼方に離れていた事に、話に夢中になっていて気付かなかった。


「そ、そうね!あれ……?なんだか、大丈夫みたい……」


 私自身、戸惑ってしまうのだけど、本当に大丈夫だ。周囲には、同じ様に帰宅をする学生達に、何かの作業をしているのかよく分からない作業服の人など、複数の男性がいるのが見受けられるけど、それらは誌愛達といる時同様に、ほとんど気にはならなかった。


 誌愛は、


『さりーが、私達といる事で、男性への嫌悪感、恐怖感が緩和されるのは、私達への信頼があればこそ、の話だと思うの~~。つまり、さりーが、ぜん君をどれだけ信用してるか、信頼してるかによって、その症状は軽くなるのか重くなるのかするんじゃないかな。興味深いよね~~』


 なんて言っていたけど、私はこの、目線が同じ高さで話せる、どちらかと言うと童顔な下級生の、まだ知り合ったばかりの少年に、ずっと守ってもらっていた幼馴染達と同等の信頼があるなんていうのだろうか?!


「良かったですね!」


 素直に喜んでくれる彼の感情は、ただただ私の為だけで、自分の立場など少しも考慮していない様に思える。


「そ、そうね……」


 私としては、誌愛の意見を全面的に肯定してしまうのは、疑問が残るのだけれど、今こうである状況は、難しく考えずに喜んで受け入れる方が無難だと思う。


 行動の自由、みたいなのが保証された訳なのだし。


 気付くと、なんとなく周囲の同じ学校の生徒達の注目が、チラホラと集めているのが分かる。


「やっぱり、サリサ先輩が美人なせいか、見ている人が多いですね」


 全君も気付いていたのか、そんな事を言うけど、少なくとも半分以上の女子高生は、全君の方を見て何かささやき合っている様に思える。


 多分、バスケ部で話題になっている彼が、今帰宅への道を歩いているのを不思議に思っているのではないだろうか。


 全君は、背が低くても妙に存在感がある。目立ちたくない、と言ってるみたいだけど、私にはそれが、芸能人が似合わないサングラスとかかけて変装したつもりになって、逆に目立つ様に、無理な希望だと思う。


 彼はそこに“いる”だけで、“歩いている”だけでも目立っているのだから。


「私だけじゃないでしょ」


 そう言い返してみても、彼は曖昧な笑顔を浮かべるだけで何も答えない。勘が鈍いとは思えないので、自覚がないって事はないと思うのだけど……。


「さっきのバイクの話だけど」


「はい」


「私を後ろに乗せて通学するって事?」


「そうなると、横座りは危険なので、下にジャージか何か、ズボン系のものをを穿いてもらう事になりますね。それか、家のバイクにはサイドカー付きのがあるので、そちらの方が便利かもしれません」


「サイドカー……」


 確かに、スカートを気にして横座りは危ない感じがする。サイドカーなら、ヘルメットを被るだけでそのまま乗ればいいだけではあると思う(乗った事ないけど)。


 ただ、何かと話題な彼とバイク通学となると、それだけで外野から騒がれそうな気が、今からするし―――


「でも私は、通学に電車を使っているのは、この症状を克服、もしくは慣れさせて、男性に対する耐性とか免疫とかをつけられたら、と思っているからなのよね」


「やっぱり、そうですか。僕は、嫌な事を我慢するのがいいとは思わないんですが……。


 それと、電車って混むと痴漢とかでると聞くので、先輩には逆効果になるんじゃないかと心配で……」


 確かに、電車だと女性には天敵の、“ソレ”が出るらしい。私は、今までなるべく混む時間帯では乗っていないし、“保護者”付きであったせいか、幸いな事に実物と遭遇した事はない。


「そうね。今までは混む時間帯を避けていたけれど、それがずっと続けられるか分からない。


 正直言って遭いたい存在ではないし、バイクとか車という選択肢は、確かに魅力的なのよね……」


 車だと、誌愛とついでで、運転手さんや車が白鳳院家のお世話になる。バイクだと、全君のついで?で、基本全部が全君のお世話になる。


 私が原付免許を取れば、誰の世話にも……スクターとか買うのが、親に頼まないと駄目か。私、バイトが接客系と考えるとほぼ全滅だし、お金を稼ぐ手段が……。


 自転車だと、誰とも一緒じゃないと危ない。全君と一緒に、ならなんとかいける?


 何をどう考えても、何かしら、誰かしらのお世話にならないと駄目で八方塞がり。なんて面倒な女なんだろう、と今更ながらに思ってしまう。


 誌愛達幼馴染におんぶで抱っこな関係を、当り前のように続けていたから、それが普通になっていたけど、やっぱりそれは不自然で、ずっと続けて行くのは無理。早い内に克服しないと駄目なんだ、とハッキリ自覚してしまう。


(多分、ぜん君の事は、今の現状を変えるいいキッカケなんだろうなぁ……)


 私はズーンと一人落ち込んでしまう。


「……サリサ先輩。家の方はすぐに帰っても、誰か在宅しているんでしょうか?」


「え?あ、私の家も両親が共働きで、母が夕方、五時ぐらいにならないと帰宅しないの」


 そうだ。今すぐに帰っても、家には誰もいないのだった。


「じゃあ、こちらの駅近くで時間をつぶしてからの方がいいですよね?それとも、先輩の降りる駅の方に何かあったりしますか?」


「あー、私の降りる駅には、小さなスーパーと商店街ぐらいね。公園ぐらいはあるけれど……」


 ザ・住宅街、な場所で、学生が遊ぶ様な場所には心当たりがない。商店街に、アーケードゲームのお店が、あった様な、なかった様な……。余り外を一人で遊びに歩かないので、地元ですら不案内な私だ。


「じゃあ、こちらで少しブラブラしてから行きましょうか」


 母が帰宅するまで全君と二人、自室で一緒に、は流石にちょっと無理がある。その方がいいだろう。


 ここの駅は、線路で東西に別れて、東側に私達の高校が、西側にもう一つ別の高校がある。


 ちなみに、偏差値は私達の高校の方が高い。僅差だけど。


 だから、駅前は意外に賑やかで、ショッピングモールもあれば、大き目のデパート、家電のお店等もある。


 ファーストフードやゲームのお店なんかも。私はほとんど行かないので、詳しくは知らない。


 龍やラルクは帰りにハンバーガーを買ったり、コンビニで何か買ったりするけれど、私は夕食前に何か食べると余り食事が進まないのでなるべく買い食いはしない。


 それに、モタモタしていると電車が混む時間になる事もある。


「ちょっと、先輩と行ってみたかった所があるんです」


 何故か悪戯っぽく笑う全君に、私はついて行くのだった。











****************************

【キャラ紹介】


女主人公:黒河 沙理砂


自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。



男主人公:神無月 全


高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。


バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。


物語冒頭で沙理砂に告白している。



白鳳院 誌愛


沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。


本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。


心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。


沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。



宇迦野 瀬里亜


全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。


可愛く愛くるしく小動物チック。


こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。

デート回入れました。



滝沢 龍


誌愛の恋人。母はモンゴル。

長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。

爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。



風早ラルク(ランドルフォ)


瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。

3ポイントシューター。狙い撃つぜ!


母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?




苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。


後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ

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