第13話 神無月 全の選択(2)
(部活動の曜日変更しました)
※(沙理砂視点)
(私が考えても仕方ない事は、取り合えず横に置いておこう……)
そもそも、神無月君のプレイは見ていてとても楽しい、気分が良くなる。それは、彼のやる事がほとんど綺麗に上手くいっているからなんじゃないかと思う。
バスケにしろ、サッカーにしろ、一つのボールを運び、敵陣のゴールに入れるスポーツは、とにかくボールを取ったり取られたり、いかに相手の邪魔をするかに腐心して、中々点を取る場面までいかない事が多い。時々テンポが悪く、ボールの位置が中間で余り動かず、イライラチリチリして来る事がある。
コートがサッカー程広くないバスケットは、それでもまだマシで、ボールはそれを取り、保持したチームが点を取り、取られたチームがまたそれを逆のゴールに運び、すぐに点を取り、というのを繰り返す。
それががよくある形で、その循環をどうにか崩し、相手の点を取る邪魔をするか、一点でも多く相手より点を取るか、で決まるのがバスケ……なんじゃないのかな?
女子サッカーなら、テレビで見た事もあるから、私でも何となく分かるのだけど、バスケットボールは本当に興味すらなかったので、最近知ったニワカ知識なのですよ。
で、話を戻すと、その中々進まない中盤の展開、ボール運びなんかを神無月君がすると、気持ちいい位早く、スパスパと進むのだ。
本来背の高い人が優勢なバスケで、神無月君はその劣勢な自分を生かし、低い姿勢で早いドリブルをして相手に取らせないでボールを運ぶ。パスやシュートなんかは、自分の見てない方向に、スルっと出せてしまう。ノールック・モーション、とかいうのかな?
ディフェンス陣に複数囲まれて、やっと動きが止められても、その合間を縫って、パス、の構えを取ったと思ったら、投げずにディフェンスが飛んだ逆、マークの外れた選手にヒョイとパスして渡す。
彼のパスは、通らないのを余り見た事がない。受けてが取りそこなった、とかは何度かあったけど……。百パーセント、とは言わなくても、8~9割の確率で上手くいってる気がする。
神無月君は、“だんく”が出来る程に跳躍力があるけれど、彼は自分での得点にこだわってはいないみたいだ。
むしろ、ゴール前、自分に注意が集中し、シュートを防ごうと、ガードがジャンプして壁になるとそこで、ノーマークな近くの味方選手にパスを戻す。
自分で無理せずに、味方のシュートのサポートをする方が多いのだ。
龍やラルクは、それに何回も助けられている。
で、他の選手のマークがガッチリつくと、それは彼自身がゴールするチャンスで、そのまま自分でゴール下までドリブルで持って行き、あっさりシュートする。
なんともまあ、上手く考えて動いているのだなぁ。
私がこう説明していると、なんとなく動きが遅く感じられるかもしれないけれど、このパスだのドルブルだのシュートだの、はその時その時の瞬間の攻防に過ぎない。
バスケットはサッカーの様に物を持てない足ではなく、しっかりとボールを持てて、正確なパスやドリブルを自由自在な動きやスピードで出来るので、ボールも選手もあれよあれよと言う間に動き、パスをし、点を取る。そして戻って防御(ディフェンス)をする。
サッカーに比べれば余程狭いコートを行ったり来たり、全力で駆けまわるその運動量は物凄い。皆、すぐに汗みどろで呼吸を荒くする。
つまり、神無月君のそうした細かな技術(テクニック)は、その速い移動、動きの中で行われるバスケットという激しいスポーツの中のほんの一部分なのだ。
そしてディフェンス側にまわっても、相手のドリブルしているボールを低い姿勢から、パっと手を出し、やすやすとボールを奪っている。
ガードでも、相手は背が低いので、彼が手を伸ばしてもそれ程邪魔にはならず、それで安易にパスを出すと、その位置へ計ったようにジャンプし、パスカットする。
彼には、誰がいつどこへパスを出すのか分かってでもいるみたいな、不思議な動きをする事がある。
それも、武術の経験とかがあるせいなのかもしれない。
そういう訳で、体格が一回りも二回り違う、上級生、同級生相手でもまるで引けを取らず、むしろ優勢に状況を進める彼は、改めて見ているとやっぱり凄い、の一言に尽きる。
なんとなくサラサラ軽そうな、薄い色の髪質の黒髪。美少年、とまでは言わないけれど、それなりに端整な容姿。
でも普段は、無口な感じで余り喋らず、表情を変える事もない。少し冷たい感じすらする。
無口無感動で、何を考えているのか読めない。でも尖って鋭い印象があるので、なんだか話しかけにくい。そんな事を、同級生のバスケ部員が口にしていたのを聞いた事がある。
それが、バスケ部でのバスケ中の彼は、普段は見せない表情をチラチラと見せている。
パスやシュートが上手くいき、周囲から褒められ、少しハニカミ、少しだけ笑う。珍しく失敗をして、顔をしかめて悔しそうな素振りを見せる。目立たないアシストが決まって、一人ガッツポーズを取り、控え目に得意気な顔をしたり。
バスケをしている時の彼は、なんだかとても、年相応に人間的だ。
ああ、なる程。だから、ギャップがどうの、と言って騒いでいたんだな。
告白されてからの私は、神無月君の人間性が知りたくて、なるべく気付かれない様に、目が合わない様にしながら、彼をさりげなく観察していた。
そして出た結論、というか、感想は、ファンクラブつくるお姉さま方の気持が分かってしまう位、彼がその背に関わらず……いや、その背だからこそ、逆境にめげず頑張っているその姿は、とても魅力的で、カッコイイ。……私なんかには、勿体ないぐらいに。
断った方が、いいんじゃないかしら……?
「なんで~~?」
「えぇ!しあ、なんで私の心の声に答えているのよ!?」
「なんでって~、さっきから小さい声だけど、ブツブツ呟ているの、聞こえてるよ?小声だから、聞こえてるの私ぐらいだろうけど~~」
誌愛はニコニコ天使の微笑みを浮かべながら、恐ろしい最終宣告をする。
「私、声に出してた?!嘘っ!」
「嘘じゃないってばぁ~。ッフッフッフ。随分と好意的な印象になってるみたいだね~。どうせだったら、ファンクラブに入っちゃう?入っちゃえば?(笑)」
天使の笑みは変わらず、おかしな事を勧めてくる。堕天使かなんかか!悪魔っぽい!
「入るわけないでしょ!わ、私は、客観的に見た評価を言っただけよ!
……その上で、私なんかとつき合うには勿体ない子だから、告白を断った方がいいんじゃないかと思ったのよ……」
「ブッブ~~!認めません~。好印象、好感度が上がっているなら余計に、カモがネギしょってやって来てるんだから、美味しくいただかないと勿体ない!」
「美味しくいただくって……」
私は親友の露骨な表現に顔をしかめる。
「変な意味でじゃないよぉ~、勿論。さりーのリハビリ相手に丁度いいって言ってるのぉ~。
その後で、関係が進んで恋のレッスンを始めても、それはそれでグッドだよぉ~~!」
誌愛は笑顔で親指を立ててサムズアップする。
「だから!女の子がそんな表現するんじゃありませんっ!」
私の親友はやっぱり何処か変なのだ!
※(全視点)
なんだか、珍しく黒河先輩達が、楽しそうにワイワイガヤガヤ騒いでいる。
つまらなそうな、寂しそうな顔をされるよりかはマシなので、喜ばしい事ではあるのだけど、この後の難行が待ち受けている僕としては、呑気そうで羨ましいのが本音だ。
ちなみに、彼女達は体育館の中、マネージャーや交代待ち、あるいは観戦中の下級生等がいる場所で、普通の応援や観戦している一般生徒とは、コートを挟んで内側になる。
選手の恋人や、もしくは親しい友人等は特別枠でこちら側に来る権利がある、とここの部はしているのだ。
だから、黒河先輩、白鳳院先輩は当然内側、部の身内扱いになっている。
体育館内にバスケットコートは二面ある。でもこれは、バレー部もあるので、一応交代制で、校庭にあるコートの方とシフトで順番に使用している。
バスケもバレーも屋内競技なので、中でやる練習も充実させたい所だが、この学校は男子バスケの方が実績があるので(昔、全国大会出場経験がある)、バレー部よりも多く体育館内を使わせてもらえている。部員数も、倍近く差があるので仕方ないのだろう。どちらも女子の部もあるから、そちらとの兼ね合いもあるので、余計にややこしいけど。
基本、毎日部活はある、としたところだろうけど、そういう兼ね合いもあって、うちは土日合わせて五日、火木金土日で、土日は午前のみ。で、外のコートを使うのは水曜日のみ。
で、月曜と水曜は、一応休みになっているけれど、大体は、校庭の空いた場所で自主練をしている。参加は自由だ。テスト勉強にその時間をあてる人等もいるので、強制参加ではないし、参加しなくても睨まれたり怒られたりはしない。(運動部として建前上……)
土日も、午後を遊びや休みに使う者もいれば、校庭で自主練する者もいる。
団体競技での本格的な学校の部活は初めて、と言ってもいい僕としては、わずらわしい事が多くて困惑している。
中学三年の一年間も、学校の部活に、バスケを学ぶ為に在籍したけれど、あれはあくまでバスケのルールや感覚を学ぶ為のもので、かなり特別な、腫れもの扱いをされた。
試合に出るつもりなど当然ない僕は、下級生にまじって初歩的な練習から始めた訳だけれど、入って来た新一年生としては、最高学年なのに自分達よりチビで、初歩的な事すら知らない僕は、馬鹿に出来る恰好の獲物だったらしく、最初はつまらない事を、ニヤニヤしながらケチつけて来たので、取り合えず、“物理”とであとは残らない様にうまくやって黙らせた。
学校の運動部っていうのは、本当にもう縦割りな年功序列の身分制度だけど、実力主義でもあり、それが複雑に影響し合いながら、なんとか均衡を保っている。
そういうギスギスした嫌な関係を見ると、部活に入る、それ自体、今まで避けていた為に、余計にバスケット、止めた方がいいかな、と何度か迷った。
高校の方が、余り雰囲気の悪い部なら、入るのを止めていたかもしれない。
結局、普通に一年から入る、正規な状況である事もあって、バスケ初心者(一年間は練習に専念したのみで試合出場経験もないので)と言って他にも何人かいた素人と一緒になってもやめたい、と思うような雰囲気は部全体にはなかった。レギュラー候補、とか言われるまでは……。
まあ、そういう背景もあるのだ。今回の選択には。
時間になって部活が終わり、取り合えず一般生徒を外に出し、体育館の扉を一度閉め、コートの片付け等を一年やマネージャーの生徒がやってから、今日の反省?的なミーティングを全員が集まって、体育座りして行う。
基本的に軽い内容で、今日の練習のやり方、こうやった方が?みたいな内容が、あればそれなりに話、次はこうするか、とか、ともかく部活の雑多な事を話して終るのだけど、僕はここで話をするつもりだ。
議題がある者は手を上げて、立ち上がって話をするのだけど、今日は何もない様だ。丁度いい。
「すみません、いいですか」
手を上げ、なるべく大声で言う。手が見えない可能性もあるので……。
「なんだ、全。期待の一年が出す話なら、期待したいんだが……」
五利主将が、少し意地悪っぽく言う。基本的にこの先輩は人が悪い。いや、性格は悪くない、主将として立派な人なんだけど、からかい癖みたいなのがあるのだ。
「ちょっと私的な話なんですが、バスケ部の事に繋がる話なので、聞いてもらいたいんです」
「ふむ。部の事なら構わんよ。なあ、三島」
五利主将は、主将よりは体格のいい、糸目で温厚な副主将に同意を求める。
「はい。誰であれ、我々の部にとっての有益な話であれば、聞く耳を持たぬ訳がありません。神無月君、どうぞ」
やたら丁寧な口調で三島副主将は話す。実家がお寺だとからしく、そこでの教育でそうなったらしい。
「はい、ありがとうございます!」
僕は立ち上がり、一気に話した。
「えー、っと、俺、神無月(かんなづき) 全(ぜん)は、月曜日、部活の途中に訳あって、黒河(くろかわ) 沙理砂(さりさ)先輩に、告白しました!」
一瞬の静寂。
「「「「え”え”ぇ~~~~~!!!」」」」
その後のどよめきは、ほとんどその場にいた全員から発せられた様だった。
壁側、少し離れた場所にいた黒河先輩の、両頬をおさえた紅い顔と、ニヤニヤ笑顔で黒河先輩の脇腹をつつく白鳳院先輩が印象的だった……。
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【キャラ紹介】
女主人公:黒河(くろかわ) 沙理砂(さりさ)
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。
男主人公:神無月(かんなづき) 全(ぜん)
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。
白鳳院(はくほういん) 誌愛(しあ)
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪(プラチナブロンド)で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。
宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
滝沢(たきざわ) 龍(りゅう)
誌愛の恋人。母はモンゴル。
風早(かぜはや)ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
母はイタリア。
※
苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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