第12話 神無月 全の選択(1)
(曜日変更。今日、金曜から木曜に変更します)
※(全視点)
告白した日から、三日が過ぎた。
黒河先輩は、熱をだしたという翌日にはもう学校に登校しているので、白鳳院先輩から一時的に熱をだしただけで、深刻な病気とかではないと聞かされていたのは本当だったようだ。
自分の告白のせいかな、と気に病んでいたので、休んだその翌日には学校に来てくれて、ホっと一安心した。
それからは前の様に、白鳳院先輩と一緒に放課後はバスケ部の応援に来ていて、以前と変わりない姿が見れた。
僕とは余り目を合わせてくれないが、告白のせいで気まずいのだろう、と自分を無理に納得させた。もうしてしまった告白をなしには出来ないので、悩むだけ無駄だ。
それよりも、今も体育館脇で騒いでいる“あの”集団をどうにかしないと、黒河先輩の男嫌いを直す為のリハビリ交際すら、白鳳院先輩からお許しが出ないのだから、中々厳しい条件だ。
一応、考えた案が、ある事はあるのだけれど、それは二者択一の選択をしなければならなくなる。
一つを選べば、もう一方の選択肢を諦めなければいけない考えだ。
世の中には、時にそうした、どちらか一方のみを選ばなければいけない、重大な局面が来る時もある、と武術の師匠に習った事があった。
どちらかを選ぶのを迷ってグズグズしていると、その両方を失う事にもなるとか。
そんな選択をする事が、本当にあって、しかもこんなにすぐ訪れるとは思いもしなかった。
それでも、やらなければなにも始まらない。
告白したのが月曜、週初めで今日は木曜日。
学校は休みでも、土日にも部活の練習はあるが、今週の内に行動をしないと、白鳳院先輩からマイナス点がつけられるかもしれない。
今日の練習が終わった後で、相談してみないといけない。
主将や顧問の先生を含めて、上級生に同級生、全員の前で……。
※(沙理砂視点)
「……神無月(かんなづき)君、なんか考え事しながら練習してるわね」
「当然、ファンクラブ対策の事でしょ。でも、その割には普通にバスケしてるけどね」
誌愛はまたからかい目線で私をイジろうとするが、とりあえず無視。
「うん。別の事に気を取られている風に見えて、急に意外なところにパスするから、される方が受けるのに苦労してる」
「他の人と生きてる時間が違う、ネズミかリスみたいにドリブルしながらせかせかと狭いコート内を凄く動き回るね~。でも、全然息を切らさないのが凄い体力」
「子供の頃から、山の上のお寺にいる武術の師範の所に通ってるって言ってたから、体力は見た目よりも全然あるのかも」
「へ~、山の上のお寺……。どこかで聞いた様な話だね」
「しあも?私も、どこかで小耳に挟んだのかな。はっきり思いだせないんだけど……」
武術の師匠、などという特殊な職業の知り合いが、親友と共有する知り合いにいる筈はないのだけれど……。
思いだせない情報はともかく、私は今までは、バスケという男同士のスポーツには余り興味が持てなかった。
それでも、神無月君がキビキビと動いて、時に相手の股の間でボールをバウンドさせて相手を抜いたり、他にパスをする、と見せて自分の背中にボールを回して逆側に、周囲の意表をついてパスしたりするのを見ると(多分ちゃんとした技名があるのだろうけど)、この子は他と違う、本物の才能があるのだと理解せざるを得ない。
普通に恰好良く見える。騒ぐ女子がいるのは分からなくもない。
そんな彼のプレイを見て、自分も今までよく分からないままだったバスケの反則(ファール)とか、ルールの事が気になって、あの日は休憩中の一年の子に声をかけて聞いたのだ。
誰でもよかったのだけど、何故か最初に聞いた子は赤い顔をして、他の人のが詳しいので、と言って他の子を呼びに言ったのが、何故か最後には神無月君が出て来たのだ。
「それは、さりーが美人な先輩さんだから、あがってマトモに話せる子がいなかったんだね。ぜん君以外は」
鼻歌でも歌いそうに、誌愛はご機嫌で答える。
(……確かに、私は母親譲りで多少は美人よりかもしれないけれど、それで上がって喋れない、なんて芸能人じゃあるまいし、そんな事はないと思うのだけれど……)
それに、容姿の良し悪しなんて、親から受け継いだだけの物で、自分で磨き、育てた物とは違う。要するに、両親がお金持ちだから、自分もお金持ちです、と同じで、その親を自慢出来ても、自分の事として自慢出来るような事ではないと思う。
特に、私は中身は平凡、並以下の、男嫌いのトラウマがあるから余計に普通より下な女子高生なのだから、商品価値?は結構低いのだ。
自信と才能の固まりな誌愛や、可愛さと愛くるしさを全面に出して尚、それが鼻につく事なく自然に振る舞える瀬里亜(せりあ)とは違う……。
神無月君は私を好きになったのだって、寂しそうにしているのを見て、ってそれは、単に迷子の子供を見かけて親切心を発揮した大人の心境、単なる同情なのではないだろうか?
もしかしたら、同情や親切心からも恋や愛は育つのかもしれないけど、それは正規の段階を踏む恋愛とは違う気がする。
それでも、私にも男嫌いをある程度克服したい気持もあるので、誌愛の言い出した、“リハビリ友達交際”というのを、積極的に断る気にもなれないのが本当だ。
他人の好意を利用して、自分の練習台にする。良い上級生、年上のお姉さんがする事ではないなぁ、と若干落ち込む。
……少しボーっとしていたせいで、ロングパスを強めに投げた選手の手が汗ですべり、もろに私の方に真っ直ぐ飛んでくるのを見逃していた。
こういう練習での流れ玉はよくある事なので、選手以外の見学や控え、休憩中の者や、当然応援も、ボールの行く先をなるべく確かめ、大怪我にならない様に気を付けるのが通常なのだけど、私は偶然それを怠(おこた)っていた。
伏せるか手で受けるかしなきゃ、と直前で気付いても、そう上手く身体は動かない。逆に目をつぶってしまった。
脳震盪か、どこかを捻挫、打ち身でシップを貼りまくりな自分の明日の姿すらリアルに想像出来たのだけど、衝撃は来ない。
目を開けると、その勢いの乗ったボールの弾道を、唐突にさえぎる手が出た後だった。
「……考え事してると危ないですよ、黒河先輩」
片手の手の平で、そのスピードの出ていたボールを簡単に止めた神無月君は、こちらを見ないで注意だけして、ボールを他の選手にパスした。
「あれ?ぜん君、今、コート半分向こうにいたような……?」
誌愛がハテナ顔をして、さっきまでいた場所と、私の直前の場所とを見比べる。
「いつの間に動いたんだ?まるで見えなかったぞ、ゼン」
バスケ部の主将、五利(ごり)克之(かつゆき)先輩は笑いながら言った。
あだ名はゴリさん、ゴリ先輩、ゴリ主将等。
でもその名前とは違って、背は高いが細マッチョに眼鏡(バスケ中はアイガード)の三年生は、とてもゴリラとは無関係な、スマートでキレのあるプレイに定評がある人、らしい。
私自身はバスケ部人間関係の情報として知っているだけで、余りちゃんと試合や練習を見た事はないので……。
「丁度ディフェンスに戻るところだったんですよ」
言ってそのままその場を離れて行く。
確かに戻ってはいるが、こっちの方に来る必要はなかったような……?
「愛の奇跡だねぇ~~♪」
誌愛はすこぶるご機嫌だ。
(そんなの関係ないでしょっ!!)
誌愛は恋愛物関係が、なんでも好きだ。映画、ドラマ、小説、漫画は勿論、現実の恋愛も。どうも、恋愛のレの字にもいかなかった私に、その手の話が出来る相手が現れて、一番喜んでいるのは彼女かもしれない。
「ところで、ぜん君右手を怪我したのかな?包帯巻いてて、しばらく左手メインに使ってるけど~」
「あ、あれは、私を助けてくれた時に、カッターの刃を右手で掴んだから……」
私の説明に、誌愛は自分が怪我をしたみたいに、痛そうに顔をしかめる。
「え~~!痛そう!叩いて落とすとか、腕を掴むかした方が良かったんじゃ?」
誌愛の言いたい事は分かる。私も、その後で怪我の手当をした時に聞いた。
「ファンクラブのお姉さま方が、自分が応援している対象を自分で傷つけさせて、自分達がどれだけ酷い事をしようとしたか、自覚させたかった、って説明してたわよ」
「あ~~、そういう意味があるのかぁ。でも、反省してるかなぁ……」
今も騒いで、他の応援している人のひんしゅくを買っている集団を誌愛は見る。
「どうかしらね。当身で全員が気絶までさせられたけど、翌日には普通に来てたんでしょ?」
「うん~。全然変わりなかったよ。当身の事は、貧血だって言って、ぜん君をかばってるみたいだけど」
それは言っては悪いけど、当然の事だろう。自分達のした事をたしなめられた末の結果なのだから。
……それにしても、あの人達の熱狂ぶりは何なのだろう?身近に現れた、アイドルへの心酔?狂信?あれ一種の恋愛の形なのか、私には到底分からない気持だ。
だけど、誌愛があの集団の事をどうにかする手段がなければ、交際する事は許せない(お母さんなのか、お父さんなのか?!)、という誌愛の言い分も分からない事はない。
実際に、誰か他の女生徒が彼とつき合う事になったとしても、その相手への嫉妬、羨望は凄い事になって、どうにか守る手段を講じないと不安で仕方がない位になると思う。
彼女達を大人しくさせる、納得させられる手段、方法なんて、実際にあるのだろうか?正直な話、私には全然思いつかない。
学校側や生徒会まで手を焼いている集団なのだ。
(本当に、どうするんだろう……?)
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オマケ劇場
誌「当身って言ってたけどさ~~」
沙「うん?」
誌「された方には、むしろご褒美だったりして~~」
沙「え、それは流石にないでしょ?」
誌「うん~…」
沙「……」
誌・沙「「ないわ~~」」
【キャラ紹介】
女主人公:黒河(くろかわ) 沙理砂(さりさ)
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。
男主人公:神無月(かんなづき) 全(ぜん)
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。
白鳳院(はくほういん) 誌愛(しあ)
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪(プラチナブロンド)で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。
宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
滝沢(たきざわ) 龍(りゅう)
誌愛の恋人。母はモンゴル。
風早(かぜはや)ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
母はイタリア人。
※
苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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