終末、どこ行く?
カゴノメ
閑話休題 登場人物紹介
高校面接
〜トワver〜
「
「はい。では、山藤さんが当校を希望した理由を教えていただけますか」
弦のようにピンと張り詰めた緊迫感を閉じ込めた密室。部屋の中央に置かれた椅子に姿勢を正して座っている私の対面には、机を
ここは、面接会場だ。
視線は、面接官のネクタイ辺りが良いと中学の先生が教えてくれたが、3人いる場合は、真ん中の
視線を迷わせることなく、対面の男性の年季の入った赤チェックのネクタイを見つめる。
「はい。私が御校を志望した理由は――」
当たり障りなく、用意していた文句を述べ上げる。
すると、私から見て左手に座っている細身でキツイ目つきをした女性が、掛けていた眼鏡をぐいと押し上げた。
「では、次に貴女の長所と短所をそれぞれ教えていただけますか」
「はい。私の長所は二つあって、一つは冷静に物事を判別することができることです。もう一つは、一度やると決めたことは必ずやり遂げることです」
一息に長所を言い切ると、女性がまたぐいと眼鏡を押し上げた。
「短所は、冷静に判別するあまり心配性になりやすいことです。あれこれ考えて
緊張で用意していた文言がバラバラの単語として浮かび上がるのを、
「短所を補うために、自ら工夫していることはありますか?」
「はい。以上の短所を補うために、私は冷静に判別するところと、しなくてもいいところをしっかりと見定めて考えるようにしています。」
これまた想定していた返しだったが、緊張で声が上擦ってしまう。すると、今度は右手側の質問者の手元が、ペンを走らせるのを視界の端に捉えた。
対面の髭の男性は、
「では、趣味や特技はなんですか?」
「はい。私の趣味は読書で、特技は執筆です。これは、趣味の読書に由来します」
「では、当校に入学したら入りたい部活などはありますか」
この質問は予期していなかった。
おそらくこの答えで合否が別れる、ということはないだろうが、保険を掛けて当たり障りなく回答しておく。
「今の時点では、文化部も運動部も面白そうなので選び難く、現段階では写真部に入りたいと考えています。昔から風景を切り取って描写するのが好きなので」
それからも
「ありがとうございました。失礼致します」
丁寧にお辞儀をして、ゆっくりとドアノブを回して出て行く。
緊張感を吐き出した解放感と、これでよかっただろうかという不安が入り混じった感情に揺れて、
☆
〜ウタver〜
「
元気よく、ハキハキと、芯の通った声で自己紹介するのを最大限意識する。
中央に置かれた椅子に座る私と、それを吟味する形で机を隔てた対面に座る三人の面接官。
ここは高校の面接会場で、今私は面接を受けにきたところだった。
「はい。では、新飯田さんの中学校生活で一番頑張ってきたことなどを教えてください」
私から見て右側に座って、机の上に組んだ拳を置いた厚化粧を塗りたくった
ほぼノープランでなんとかなるだろうという楽観的な精神できた私は、テストくらいでしか使わない脳をフル回転させて回答を準備する。
「はい。私は、とにかく勉強を頑張りました」
一瞬、しんと静まり返ったような微妙な空気が流れる。
勉強を頑張るのでは不満があるということかな。
「えっと……、具体的には、どれだけ頑張ってきたのですか?」
明らかに、まずいものを見てしまったかのように伏し目がちに質問を重ねる年増の女性。
「はい。全科目において、トップの成績を維持するよう努めて参りました。放課後では、手一杯な先生に代わり、友達に教えたりもしました」
「それは頑張りましたね」
感心したような物言いに、伏せていた目線をこちらに向ける年増女性。だが、その言い方には、『コイツが……?』という
一方、真ん中の男性を挟んだ左側の女性は(こちらは若い)、落とした眉を更に深く落として
「勉学だけですか?」
若い女性は口を挟んだ。
「他にも、委員長になってクラスを
それを聞くと、若い女性は納得したのか眉の位置を、私が入ってきた時と同じ場所に戻すと、机の上の紙面にペンを走らせる素振りをして、質問権を返した。
返された側の年増女性は、手元の紙面(おそらく私の情報が書いてある)を食い入るように読み、質問権を
「では、貴女の長所と短所を教えていただけますか」
それに見兼ねたのか、おそらく質問をしないつもりだったらしき真ん中の男性が、ありきたりな質問を投げかける。
そこでようやく男性を挟んだ二人の女性は、今の仕事を思い出したように体勢を待ち直した。
男性は無精髭を蓄えたダンディなお方で、おそらくはこの面接官たちのトップだ。
「はい。私の長所は、決断力があるところだと思っています」
また一瞬の沈黙が流れたが、男性が手をこちらに寄越して続きを促すので、短所も述べていく。
「短所は、言葉を
思いの外、用意していなくてもスラスラと言葉は口から出まかせのように出てくるものだ。
「察する能力が低いとも言い換えられます。なので、私はその短所を補うために疑るべきところと、疑らなくてもいいところをきちんと判別できるよう、日々人の放った言葉を吟味することを心掛けています」
男性が暫し「うーむ……」と唸ったような気がしたが、なるべく気にしないことにする。こういうのは、気にして脳の回転を持っていかれないようにするのが大事だと思う。
「では貴女の趣味と、仮に当校に入学した場合の入りたい部活動の希望などを教えてください」
体勢を持ち直した年増女性は、一瞬チラリと男性の方を見やったが、すぐさまこちらに質問を投げかけてきた。
「はい。私は、主にアウトドアと料理が好きで、アウトドアの度にその場で取れた食材などを調理しています」
半分本当で、半分嘘。
「部活動は、御校がかなり強いと
「ありがとうございます。では――」
その後も質問は長々と続き、その都度私は回答していく。恐らく、最初の時と
唯一真ん中の男性だけは、面接開始からずっと曇らせた渋面を一貫していた。
「ありがとうございました。失礼します」
これにて、私の面接は終わりを迎えた。
☆
「うーむ……」
執務室に一人残された校長は、その渋面を更に曇らせて
その視線の先には、二人の受験希望の中学生のデータベースがある。中学校から貰ったのと、自分で取ったメモだ。
一人は、斜に構えたような切れ目をした、明るめの差し色が入った黒髪を、だらしなく伸ばしたまま放置した山藤永遠という受験生。彼女の面接をした際に、長所と短所を聞いた。
長所については、特に面白みのないよくあるものだったが、短所がなかなかに厄介そうな代物であった。
「抱え込みやすく、メンタルが弱い……と」
数時間前の自分が書いたメモ紙を朗読する。
これが会社の面接であれば、一発で落とされそうな短所だが、今回のこれは学校面接。
見たところ、パッとしない影を好むタイプの山藤という生徒は、これから苦労をするだろうと結論づけてもう一人のデータベースに目線を移す。
おかっぱに近い幼い髪型で、垂れ目な顔が、一層幼さを引き立てている新飯田転という受験生だ。
学校からの情報を整理するに、学力はかなりいい方で、委員長という肩書き持ち。勉学面では何一つ問題はないのだが、いかんせんこちらも性格に難があるようだ。
空気の読めない異質な子……と、メモには書いてある。質問への答えに関しても、用意していたのを頭の中で読んでいるというよりは、その場で浮かんできた回答を答えている節があったりと、常人とは少し違っているかもしれない。
世間知らずの幼い性格を治して
メモ紙にそうつけ加えると、校長は静かにペンを置いた。
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お久しぶりです。終末、どこ行く?の作者のカゴノメでございます。
今回は登場人物紹介ということなのですが、ただ普通に箇条書きのように書き連ねても面白味がないので、高校面接のウタとトワという形で紹介を致しました。
ご要望がございましたら、近況ノートにキャラクター紹介を纏めて上げます。(最初からそうしておけばよかったのでは?)
その場合はコメントをくださいますと幸いです。
まさか本編よりも先にウタの語り口調で書くことになるとは思いませんでした。
色々と性格に難ありな二人の終末旅行ではありますが、どうか温かい目で見守ってやってください。
コメント、応援等全ていただいては喜び上がっています。
これからも応援していただけますと幸いです。
次回は文章量が多くなりますが、それについてもこうした方がいい、ああした方がいいなど思うことがありましたら遠慮なくぶつけてください。
さて、ここらで失礼致します。
次の第六話で序章が終わります。お待ちください。
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