第64話 こんなにも大変なこと​だったなんて!


「で? 何でこんな事に――いや、その前に……」


 急いで着替えた俺は、皆の集まるリビングへと顔を出した。

 丁度、莉乃と雛子も着替えが終わったようだ。


「真由、すまない――本当に申し訳ない」


 と真夏に頭を下げた。ホント、シャレにならない事をしてしまった。


「あー、いいよ……別に――というか……男の子って、あんな風になるのか」


 思っていた反応と違う。怒っていないのは助かったが――ちょっと、想像するの止めてもらえますか?


「マユちゃん、ずるいです」「マユ、どうだった?」


 悔しがる莉乃と詳細を知りたがる雛子。


 ――コイツ等、後で説教だな。


「いや、それが……硬くて熱い――」


 俺も悪かったので、あまり言えないのだが……その、手で形を作るの止めてもらえませんかね――真夏さん。


「あらあら♥」


 とは白雪さん。もしかして、見られた?

 確かに、あの位置なら見えていた可能性が高い。


 ――恥ずかし過ぎる。


 一旦、話をらして落ち着こう。


「取りえず……姉さんも居たのなら、止めてよ」


 俺は何事も無かったように、食卓で白雪さんが持ってきてくれたケーキを食べている姉さんに言った。


 まぁ、意味は無いだろうけど――どうやら、真夏と白雪さんの二人を家に上げたのは姉さんのようだ。


 ――もう、溜息しか出ない。


「はぁ、まぁいい――理由を聞こうか……まず、莉乃から」


「はひ!」


 ビクンッ、と肩をすくめる。時間を置いたため、冷静になったようだ。

 今更ながら、恥ずかしがっている。


「ヒナコちゃんがユーキくんと一緒にお風呂に入ると言ったので、止めようとしたのですが……」


「あー、もう分かった」


 俺は莉乃の話を手で制した。

 恐らく――丸め込まれて、水着ならOKという流れになったのだろう。


 今は後悔している――といったところか。


「何だ……いつも一緒にお風呂に入っている訳じゃないんだね」


 真夏はそう言って、胸をで下ろす。


「当たり前だ」


 莉乃の両親にも挨拶した手前、節度ある対応をしなくてはならない。

 彼女の事だから、正直にすべてを話してしまいそうなところも怖い。


「雛子、言い訳を聞こう」


「兄さんがエッチな事をしてくれない――とリノがうるさいので……」


「はわわわわっ! ヒナコちゃん……もっとオブラートに包んでください!」


 莉乃は慌てて雛子を取り押さえる。

 そして、笑顔を作る――いや、誤魔化せてないからな……。


「莉乃、すまない」


 俺は頭を下げる。


「莉乃を不安にさせていたみたいだ――俺も初めての彼女だから、大切にしたいと思っていたんだけど、間違っていたみたいだ……ゴメン!」


「い、いいえ――ユーキくんにダメなところはありません! ただ、その優し過ぎるといいますか……もう少し乱暴に扱って欲しいといいますか――」


 莉乃は顔を赤くして、モジモジと小声になる。

 最後の方はよく聞こえない。


「リノはムッツリ……」


 ボソリとつぶやいた雛子に、


「ヒ、ヒナコちゃん!」


 莉乃が再び、口をふさぐ。

 さて――これでこっちは解決なのだが……真夏が冷めた目で俺を見ている。


「一緒に暮らしているのは聞いていたけど……こんな昼間から――」


「いや、未遂です」


 取りえず、土下座してみる。


「冗談だよ」


 真夏は苦笑した。一先ず、安心していいようだ。


「で? 二人は何の用?」


 姉さんがケーキを食べているという事は、俺か莉乃に用事だろう。


「いや、白雪さんとは、たまたま一緒になっただけ」


「タマタマ」


 と雛子。真夏は顔を真っ赤にする。


「何を想像した?」


「い、いや……気にしないで――男の子の胸板って、結構、いいモノだね」


 そんな台詞を聞いたら、余計に気になるのだが――


「その恰好は突っ込んだ方がいいのか?」


 真夏は魔法少女の衣装のままだった。

 いや、まぁ……白雪さんがいるので、想像はついている。


「これは、白雪さんが待っている間、ひまなら着てみてくれって――」


 どうやら、ハロウィンの衣装として、色々と作っているようだ。


「ユーキはネコ耳が好き? それとも、シンプルに魔女の恰好の方が良かったかな?」


何故なぜ、俺がネコ耳好きの設定に?」


「あれ? リノから、アニメオタクだって聞いているけど?」


 その設定、まだ生きていたのか――俺は莉乃をにらむと、彼女はあからさまに視線をらした。


 元凶である姉さんが笑いをこらえているのが気になるが――まぁいい。


「つまり、白雪さんの用事は、ハロウィンの衣装ですね」


「そうなの♥ 勇希くんと莉乃ちゃんの分も作って来たから、早く来て貰いたくて――うふふ」


 つい可愛いと思ってしまった。

 大人のクセに、仕草が乙女だからだろうか?


「勇希くんってアニメに詳しいのよね――色々と意見も聞きたくて♥」


 俺はその場にした。


 ――それで魔法少女という訳か。


 姉さんも笑いをこらえるのに必死だ。いつもなら、構わずに声を出して笑うところだろうが、相手が白雪さんでは、姉さんも分が悪いのだろう。


「ユーキ、大丈夫かい?」


「ああ」


 俺は気力を振りしぼる。

 莉乃が――ゴメンなさい――と手を合わせていた。


 ――別に怒ってはいない。


「で? 真由の用事は……」


「実は、リノのお姉さんが文化祭に来ていて、ライブを見てくれていたんだ!」


 だいたい分かった――この流れは……。


「で、気に入ってくれたみたいで――幾つか、音源のデータを送って欲しいって言われてね」


「それで俺に手伝ってくれと?」


「そ、ユーキはアニソンにも詳しいんだろ? 色々と手伝ってよ――ってアレ?」


 再び、その場に俺はす。


「莉乃ぉ!」


「はわわわわっ!」


 どうやら、莉乃が散々、言いらしているようだ。

 しばらくは、この手のネタがきる事はないだろう。


 アニメオタクになることがこんなにも大変なことだったなんて!

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