第50話 もっと楽しそうにするにゃん☆


「ユッキー、衣装はこっちにゃん☆」


 小鳥ちゃんが更衣室を指差す。

 どうやら、俺も着替える必要があるらしい。


 ――やれやれだ。


 まぁ、莉乃の助けになるのなら構わないか。


 ――クイクイ。


 一歩踏み出すと同時に、雛子が俺の袖を引っ張った。


「兄さん――そんな事より、腹が減ったぞ」


 店内には、美味しそうな匂いが漂っている。


「少し、我慢してくれ……」


 俺は雛子に目線を合わせるため屈むと、その頭をでた。


「大丈夫にゃん☆ 食べているところも撮影するにゃん☆」


 とは小鳥ちゃん――そういうのって、一口か二口くらいしか、食べたりしないんじゃないのか? 疑問を持ちつつも、俺と莉乃は衣装に着替える。


 ラフな格好の観光客――といったところか。

 ただし、莉乃とは色違いのペアルックとなっていた。


「お揃いですね♥」


 と莉乃。ついつい、一緒にポーズを取りたくなる。

 だが、その前に――雛子に何か食べさせる必要があるな。


 まずは雛子を連れ、莉乃の親戚の方々に挨拶をする。

 シェフである叔父さんには、改めて、昨日の運転のお礼を述べた。


 それから、従業員を兼ねた家族には、これからお世話になる旨の挨拶を済ます。


 莉乃は簡単に、俺と雛子を紹介する。そして、雛子には肉料理を出してくれるように、叔父さんに頼んでくれた。


「デザートもな」


 と雛子――少しは遠慮しような。

 雛子が食べている間に、俺と莉乃は撮影だ。


 莉乃は慣れているのか――これでいいですか? ここから見える景色が好きなんです――と女性のカメラマンとアレコレ話している。


 プロというよりは、仲間内で話すような自然な雰囲気だ。

 その様子を見て――まったく、莉乃らしい――と俺は思う。


 だが、叔父さん達からは、お礼を言われてしまった。

 莉乃が――昔に戻った――と喜んでいるようだ。


「莉乃が頑張ったからですよ」


 と俺は答える。叔父さん達は俺のお陰だと思っているようだが、それはただの切欠きっかけにしか過ぎない。


 昨日は莉乃の両親からも、お礼を言われた。莉乃は皆に心配されている。

 両親や親戚のいない俺には、分からない感覚だ。


 ――でも、これから知っていくのだろう。


「お礼を言うのは……俺の方です」


 雛子の事、学校の事、バイト先の事――莉乃が居てくれたから、俺は変われたと思う。


 ――莉乃と出会えた事に、改めて感謝をする。


「はいはい、彼氏役なんだから、もっと楽しそうにするにゃん☆」


 と小鳥ちゃん――感傷に浸っても居られないようだ。しかし、莉乃は分かるが――何故、俺までモデルを?――いや、考えるまでもないか。


 そんなのは――莉乃が他の男性と一緒なのを嫌がるから――に決まっている。

 そのくらいは、自惚うぬぼれてもいいだろう。


「帰りの飛行機代のためにゃん☆」


 と小鳥ちゃん。別に小鳥ちゃんが自腹を切ってくれれば済む話なのだが――言っても仕方が無いので、言う事を聞く事にした。


 配役としては――莉乃と恋人同士の設定でお願いするにゃん☆――と言われたのだが……。


「付き合っているのに、恋人の役って変ですね」


 と莉乃は笑っていた。


「今までだって、恋人のフリをしていただろ」


「はうっ! そうでした!」


 姉さん達の所為せいで、この関係になるまで、余計な遠回りをしたような気もするが、結果オーライとしておこう。


 食事も終わり、午後からは外での撮影だ。

 既に撮影の場所は決まっているため、直ぐに終わった。


「いつもの兄さんとリノだな」


 と雛子。自分では、クールを装っているつもりだったが――俺はこんな顔で笑うのか――と見せて貰った画像に対し、素直に感心する。


 ただ、この画像が使われる事を考えると――少し恥ずかしい。


 また、東京のカフェでバイトしている事を小鳥ちゃんが話していたようだ。

 意見を聞きたい――と試食をお願いされた。


「どういう事?」


 小鳥ちゃんに質問すると、


「上手くいってないらしい――にゃん☆」


 と返される。確かに、夏休みにしては客足が少ない。


 ――やれやれだ。


 素人なので期待せず、第三者の意見程度に留めておいて欲しいのだが――

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