第48話 よく起きれましたね


 莉乃の家に来て、最初の朝――といっても、まだ、日が昇っていないんだが……。

 昨日は散々だった。


 どうやら、あの中継は莉乃の言っていた通り生中継で――しかも、全道へ放送されていたらしい。別に俺の気持ちに嘘は無いが、完全に外堀を埋められた感じだ。


 莉乃の両親と会う事が、こんなにも気不味いとは――


 ――――――――


 ――――


 ――


「いつも、お野菜を送って頂き、ありがとうございます。俺も雛子も、美味しく食べさせて貰っています」


「あはは☆ 娘もお野菜も美味しく頂いたって事にゃん! もう、ユッキーったら」


 莉乃の両親に頭を下げる俺に対し、ふざけた態度で揶揄からかってくる小鳥ちゃんだったが、


「いいから、お姉ちゃんは早く結婚相手を見付けてください――無理でしょうけど(ボソ)」


「ぐふっ!」


「そっだぁ、小鳥、早く結婚さしろ」


「ぎゃんっ!」


「勇希くん、ついでに小鳥も貰ってやってくれ」


「びぐざむっ!」


 などと自ら被弾しに行ってくれた。


 ――


 ――――


 ――――――――


 小鳥ちゃん――貴女の犠牲は無駄にはしない。


「兄さん……」


 おっと、雛子の着替えが済んだようだ。寝ていてもいい――と言ったのだが、始めての場所に一人取り残されるのは嫌なのだろう。


 電車といい、飛行機といい――慣れない旅で雛子も疲れているはずなのに……申し訳ない。


 ――しかし、莉乃にも困ったモノだな。


「兄さんと一緒に寝る!」


 と言った雛子に対し、断固として反対する姿勢を取ったのだ。結果、昨夜は雛子を挟んで――三人で川の字になって寝る――という事で妥協して貰った。


 ――いったい、莉乃は俺の理性を何処どこまで試すつもりなのだろうか?


 雛子とは違う理由だが、俺もあまり寝た気がしない。

 後で昼寝をするとして――その元凶である莉乃は、


「さぁ、ユーキくん! 人間が生きる上で必要となるのは食事です!」


 と凄い張り切っている。


「つまり、命を支える仕事――それが『農業』ですよ!」


 いや、顔が真っ赤だ。

 どうやら、昨夜の行動を思い出して、恥ずかしくなっているだけのようだ。


 ――――――――


 ――――


 ――


 食事の後、風呂にも入り、布団を敷こうとした時だった。


「ユーキくんと一緒に寝るのは、わたしですよ! 彼女として――」


「必要ない!――兄さんとはあたしが寝る! それが妹の役目だ――」


 雛子を莉乃の部屋に寝かせる――という手もあるのだが、却下された。

 どうやら、旅館での小鳥ちゃんの言動が尾を引いているようだ。


 俺に近づく女性を警戒しての行動らしい。

 莉乃が――ユーキくんと同じ部屋で寝ます!――と言って聞かない。


「どうやら、わたし達は分かり合えないようですね」


「リノこそ、彼女になった途端とたん――何故なぜ、こうも戦える? いいだろう……勝負してやる!」


「ふふっ……ヒナコちゃんからそのような申し出を受けるとは嬉しいです!――ですが、困ったモノですね……ヒナコちゃんはモノの頼み方を知らないようです……」


「兄さんの事を嫌いな妹がいるモノか! リノは兄さんを誘惑する悪い人だ!」


「この春野莉乃、見縊みくびっては困ります!」


「あたしを救ってくれた人のために、あたしは戦っている!」


「このわたしを……なめないでください!」


「ああ、兄さん――ときが見える……」


 余所よそ様の家で宇宙世紀な戦いは止めろ――いや、莉乃の家なのだが……。


 取りえず、その後の話し合いで――今回は一緒の部屋で寝るが、雛子を間に入れる――という事で莉乃には妥協して貰った。


 正直、今は俺も舞い上がっている――初めて一緒のベッドで寝た――あの時とは違い、直ぐ横で莉乃の寝顔など見たら、どうなるか分からない。


 雛子に感謝しよう。


 ――


 ――――


 ――――――――


「それにしてもヒナコちゃん……よく起きれましたね――でも、ユーキくんの事はわたしに任せて、寝ていてください」


「うー、今のリノは危険だ。あたしが兄さんを守る」


「まるで、わたしが悪いみたいに……いいですか、ヒナコちゃん。『農業』はヒナコちゃん達のようなニートには務まらない仕事なんですよ!」


 別に雛子はニートでは無いのだが……まぁ、予備軍ではある。


 残念ながら、農家の人達自身――『農業』はもうからない――と子供を公務員にしているのが現状だろう。


 そんな『農業』をニートがやるはずがない。


 日本人に担い手がいないから、外国人を研修生という名目で雇っているのではなかっただろうか?


「ちょっと『農業』を手伝ったからといって、働いた気になって貰っては困ります」


 少しきびし過ぎやしないだろうか?

 いや、それだけ真剣なのは理解するが……。


 そもそも、雛子が朝早起きをしたのだ。それだけでもめて上げたい。

 まぁ、肉体労働とか、絶対に無理なのは同意する。


「むー、ニートの力を見せてやる! ニートは選ばれし民だ。税金だって払っていない!」


 雛子も言い返す――いや、所得が無いので、払わなくて済むのは所得税くらいだろう。


 差し押さえる財産も無いだろうし、そんな連中からむしり取るための消費税じゃないのか?


 まぁ、ニートになる要因の一つは、日本の近現代史を学校できちんと教えていない事が上げられるだろう。


 彼らもまた、歪められた歴史の被害者なのかも知れない。


「いつまでニートを振りかざしているつもりですか⁉」


 莉乃の奴、正義を振りかざすみたいにニートを使いやがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る