第47話 勘弁してください


 やってしまった――いや、後悔はしていない。


 今、俺達は小鳥ちゃんの親戚が運転する車で、莉乃の実家に向かっていた。

 夕食はそこでご馳走になる予定だ――というか、泊まる流れだろうな……これ。


「――すると莉乃は……雛子に言ってから、家を出た訳だな」


 何も知らないフリをしていた上に、莉乃と連絡が取れないように、スマホを盗った訳か――


「はい、お母さんが腰を痛めたそうなので、手伝いに戻ってきてくれ――とお姉ちゃんが……」


「つまり、姉さんもグルか……」


 ――完全にめられたようだ。


 しかし……何故なぜ、そんな事を?


「雛子、言い訳を聞こうか?」


「リノから相談されていただけだ――兄さんの事が好きだ――と……だからサクヤ達に手を貸した……それが何か?」


 まで――あたしは悪くないぞ――という姿勢だ。

 結果として、莉乃と付き合う事になったので、あまり強くも言えない。


 ――策士め。


「で、本心は?」


「兄さんに証明して欲しかった。もし、あたしよりもリノを大切にするようなら、手は貸さなかった」


 つまり、俺は試されていた――という訳か。

 雛子を東京に置いて、俺だけ北海道に行った場合――この結果は無かったようだ。


 また、莉乃を諦めていても、雛子はそんな俺を許さなかっただろう。


「俺は合格か?」


 その問いに、


「兄さんはやっぱり、あたしの兄さんだった」


 と雛子――どうやら、及第点はもらえたようだ。


「しかし……どうして、こんな手の込んだ事をしたんだ?」


「一番の原因は、コトリが酔った勢いで、リノに兄さんがアニメオタクでは無い事をばらしてしまったからだな」


 ――なるほど。


 つまり、雛子なりに――心配した結果――という事だろう。俺も莉乃同様に被害者であり、だましていた訳ではない――という筋書きを用意してくれたようだ。


 だが……それでも、俺が莉乃をだましていた事に変わりはない。


「えっと、それはいつの事だ?」


 今度は莉乃に質問する。


「あ、あの海水浴の日の夜……旅館で――」


 ――確かに、莉乃の様子が可笑しくなったのとタイミングが合う。


「莉乃……」


「はい」


だましていてゴメン……俺は――」「あ、あのっ――いいんです!」


 莉乃が俺の言葉をさえぎる。


「そ、その……つまり……全部、本当の事なんですよね――演技ではなくて……」


 顔を赤くして、うつむく莉乃。


 ――そういう事か。


「ああ、最初から可愛い女の子だと思っていたよ――いや、


 これでいいのかな? 莉乃は――ふふっ――と笑った。


「わたしも、ユーキくんの事を優しくてカッコイイと思っていました」


 あまり言われ慣れてない上、改めて言われると恥ずかしいモノだな。

 俺と莉乃は自然と見詰め合う。


「莉乃……」「ユーキくん……」「莉乃」「ユーキくん」


「えーいっ! 人の頭の上で止めろ!」


 雛子が声を上げる。丁度、俺と莉乃で雛子を挟む形で後部座席に座っていた。

 怒るのも当然だろう。


 因みに、小鳥ちゃんは助手席だ。運転している親戚の人は苦笑していた。


「ぜ~んぶ、小鳥ちゃんのお陰にゃー!」


 と小鳥ちゃん。何故なぜか勝ち誇ったようにこちらを振り向く。


「そうだな――でも、小鳥ちゃんは死刑だけどな……」


「そうですね――お姉ちゃんは死刑ですね……」


「コトリ、サヨナラ」


「もー、三人してひどいにゃん☆」


 小鳥ちゃんに反省の色は見えなかった。


「でも、莉乃に嫌われなくて良かった」


「わ、わたしがユーキくんの事を嫌いになる筈が――」


「莉乃」「ユーキくん」


「えーいっ! 人の頭の上で止めろ!」


 雛子が暴れる。


「悪い悪い」


「ゴメンなさい――でも、ヒナコちゃん……どうして髪を?」


「長いと一人で洗えない――兄さんと一緒にお風呂に入ってもいいのなら……伸ばす」


「ダ、ダメです! ユーキくんと一緒に入るのはわたしです!」


 やはり、莉乃だ。とんでもない発言をサラリと入れてくる。俺は、


「いや、莉乃とは入らないから……」


 と断った。


「な、何でですか⁉」


 驚愕きょうがくの表情を浮かべる莉乃――何でも糸瓜へちまも無い。


「り、莉乃が可愛いからだろ――え、えっちな事をしたくなる」


 俺は口元を押さえ、窓の外へと視線を向けた。

 顔が熱くなる。この感じはきっと、耳まで真っ赤になっているはずだ。


「はわわわわっ! そ、それは是非とも――い、いえ、そうですね。わたしとしては問題ないのですが……困りましたね――ヒナコちゃん?」


何故なぜ、あたしに振る……」


「……」


「…………」


「……………………」


「えーいっ! 気不味い雰囲気になるのも止めろ!」


 雛子が暴れる。やれやれ――俺は暴れる雛子を押さえて頭をでる。


「悪いけど、莉乃……今までは我慢していたんだ――でも……もう俺、自分を押さえる自信無いから……」


「こ、こちらこそ……そうとは知らずに――今までとんでもない事を……」


『…………』


「雛子、どうしよう? 助けてくれ――俺にはまだ、雛子が必要だ!」


「ヒナコちゃん、どうしましょう? ユーキくんにえっちな女の子だと思われずにえっちな事をして貰う方法が分かりません!」


 二人同時に雛子へ向かって話す。


「えーいっ! あたしに頼るのも止めろ!」


 車の中では終始、そんな感じで過ごした。

 真夏や時雨には、莉乃から連絡を入れて貰った。


 女の子同士、何かり上がっているようだったが、俺には良く分からなかった。

 また、後で小鳥ちゃんが言っていたのだが、


「ふ、二人のイチャイチャ振りを見せつけられたのが罰という事でいいでしょうか? だからもう、勘弁してください」


 と素で謝られた。


 まだ、そんなにイチャイチャしたつもりは無いのだが――

 それは言わないでおこう。

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