処方4.熱があるので、安静にしてください。

第39話 これは危険な遊びのようです。


 はうー! ダメです……意識しているのか、目が冴えて眠れません。

 今まではこんな事、無かったのですが――


 疲れたので、少し早めに就寝する事にしました。

 ヒナコちゃんが限界です。


 日中は楽しく遊んだため、わたしも疲れていて、その時は眠かったはずなのですが、何故なぜか一向に眠れません。


 ユーキくんと一緒の部屋だからでしょうか?

 いえいえ、今更……一緒に暮らしていますし、意識するなど……。


「うーん、兄さん……あたしの名前をいってみろ――」


 雛子ちゃんの寝言です。

 ちょっと、ユーキ君にくっつき過ぎではないでしょうか?


 ユーキくんもユーキくんです。

 一緒の布団で寝るなど――


 寝るなら、わたしのはずです!


「……」


 ――あれ? わたしは何を考えているのでしょう。


 でも、ユーキくんの身体……わたしも触りたいです。

 日中、海では見た時は中々いい腹筋でしたね。


「……」


 ――だから、わたしは何を考えているのでしょうか!


 ヒナコちゃんが教えてくれました。

 わたしが来てから、ユーキくんは毎日、身体をきたえているって――


 えへへ――これは自惚うぬぼれてもいいでしょうか?

 ユーキくんの髪に触れます。


 ――いいこいいこ。


「……」


 ――だから、わたしは何をしているのでしょうか!


 べ、別にそんなに頑張らなくても、ユーキくんは頼りになる人です。

 そんな、わたしのために……わたしのために――


 えへへ――やはり自惚うぬぼれてしまいますね。


 でも、勉強はもう少し頑張った方がいいですよ。

 友達から教えて貰いました。


 部屋で彼氏と二人っきりで勉強する時は、薄着になって自然な感じで身体を密着させるといいって――


 それから、わざと消しゴムなどを落として、拾うフリをすると更に効果的だそうです。


 その際――お尻を向けるのがコツだよ――と言っていましたが、どういう意味だったのでしょうか?


 どういう訳か、ユーキくんはアレから、わたしと勉強してくれません。

 恥ずかしいですが、次はもっと露出の高い服にしましょう。


 そうすると、いつもより張り切ってくれるらしいです!

 でも、冬場は逆に、大きめのセーターの方がいいそうですね。


 ――不思議です?


「ユーキくん……ありがとうございます。わたし、ユーキくんと出会ってから、楽しい事ばかりです」


 最初は凄く、すっごく不安だったんですよ。

 それなのに、いつもわたしを守ってくれて、いつもわたしと一緒に居てくれて――


「でも、他の女の子と仲良くするのは許しません!」


 夕食の後も、マユちゃんに呼ばれて、出掛けていましたよね。

 シラユキさんへのお土産を選ぶのも、何だか楽しそうでした。


「これは罰です」


 えいっ――とユーキくんの頬をつねります。

 勿論もちろん、痛くはしませんよ。


 ――思ったよりも柔らかいですね。これはクセになるかもです……。


「フフフッ……」


 思わず、笑ってしまいました。

 胸が大きい事が嫌でしたが、何故でしょう?


 大きくて良かった――と今では思ってしまうのです。


「マユちゃんはカッコイイですね――でも、莉乃の方が可愛いよ」


 ――そ、そうですか? 照れてしまいますねぇ。


「でも、ヒナコちゃんはもっと可愛いですよ――莉乃より魅力的な女の子はいないよ」


 ――そんなぁ、恥ずかしいです。


「魅力的な人といえば、シラユキさんは素敵な女性ですね――俺が守りたいのは莉乃だけだ」


 ――はぅーっ、ダメです!


 どうやら、これは危険な遊びのようです。少し冷静になりましょう。


「……」


「…………」


「……………………」


 はっ! わたしは一人で何をやっているのでしょうか?

 ユーキくんの寝顔を見るだけで、こうも幸せな気持ちになるとは――


 ちょっと、水でも飲みましょう――あれ、隣の部屋の電気が点きました。

 サクヤさんが帰ってきようです。


 お姉ちゃんは帰ってこなくても良かったのですが、仕方ありません。

 気になるので、少し様子を見ましょう。


「あ、あのー」


 わたしがふすまを開けると、


「あれ? 起こしちゃったぁ、ゴメンねぇ」


 とサクヤさん。何を考えているのか分からないところがありますが、優しくて素敵な人です。


「いえいえ、眠れませんでしたから、大丈夫ですよ」


 ユーキくんに対しては、やや厳しいようですが――あれも愛の形なのでしょう。


「アッハッハ――莉乃、ただいまー」


 とお姉ちゃん。完全に酔っぱらっているようですね。ダメダメです。

 早く結婚して、落ち着いてくれないでしょうか?

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