第38話 せめてパンツを穿かせて!


「だったら、俺にも事情を説明しておいて欲しかったんだけど……」


「そんな事したら面白くねー……うんん、面白くないにゃん☆」


 ダメだ……この人――やはり、姉さんの友達なだけの事はある。

 しかし――


(だから最初の頃、莉乃は俺を試すような真似ばかりしていたのか……)


 遣り方に問題はあるが、彼女は他人を信じる事を止めなかった。

 そんな莉乃を俺はカッコイイと思う。


「俺が莉乃に手を出していたら、どうする気だったんだよ」


「ん? そこはまったく心配してないにゃん」


「どうして――」


「こういう事――にゃん♥」


 小鳥ちゃんは立ち上がると、パンツを脱ぎ、胸元をはだけさせ、胡坐あぐらを掻いて座っていた俺の上に、向かい合う姿勢で座ってくる。


 ――ちょっと、何を考えてるんだ……この人?


 いや、目付きが完全に女の目になっている。


 俺は慌てて離れようとしたが、既に首に手を回され、身体が密着した状態になっていた。


 香水の匂いだろうか、それが鼻孔をくすぐると抵抗する意思が薄れる。

 小振りだが、張りのある形のいい胸が密着する。


 ――って、何でこの人、下着をつけてないんだよ⁉


「ユッキー、リノの所為で色々と溜まってそうにゃん――小鳥ちゃんが……お姉さんがいい事してあ・げ・る♥」


 ――ガチャッ、パタン……トタトタ。


 すーっとふすまが開く。


「ふぅー、良いお湯でし――た?」


「ちっ、戻ってくるのが早ぇーよっ!」(もうっ、リノったら、もっとゆっくり入っていれば、いいのににゃ!――プンプン)


 と小鳥ちゃん――声と本音が逆ですよ。


 一方、お風呂から戻ってきた莉乃は、一瞬固まったが、直ぐに状況を理解したのだろう。


「お姉ちゃん! わたしのユーキくんから離れください!」


 そう言って、小鳥ちゃんを俺から力尽くで引き離そうとする――ぐえっ!

 小鳥ちゃんは往生際おうじょうぎわが悪く、俺の首をつかんで――いや締めてくる。


「い、嫌にゃん!」


 軽々と小鳥ちゃんを持ち上げる莉乃のパワーが凄いのが要因となっているが、このままでは締め落とされてしまう。


 俺は両手で小鳥ちゃんのチョークスリーパーを外した。


「ユッキーの裏切り者⁉」 


 と小鳥ちゃん――いや、裏切ってませんから。


「何の騒ぎだ?――お、兄さん、あたしも混ぜろ!」


 と雛子――起きてきたかと思えば、これだ。

 頼むから、状況をこれ以上ややこしくするのは止めて欲しい。


「お姉ちゃん! ユーキくんに迷惑です!」


「だってぇ、久し振りに会ったら、カッコ良くなってたし――ちょっと抱き着いてただけにゃん」


「せめて、下着をつけてから言ってください――人の彼氏に手を出すとか最低です!」


「にゃー、リノばっかりずるいにゃん! 小鳥ちゃんもユッキーで遊ぶにゃん!」


 俺で遊ぶのは勘弁して欲しい。


「ダメです!」


 と莉乃。


「そうだ! 兄さんで遊んでいいのは、あたしだけだ!」


 いや、雛子は混ざらなくていい。取り敢えず、今のうちに浴衣を直そう。

 俺ではなく、小鳥ちゃんが悪いと判断したのは、日頃の行いだろう。


 ――莉乃に怒られなくて良かったが、後で謝っておこう。


 俺は立ち上がり、後ろを向く。


「アナタ達、いい加減にしなさい!」


 姉さんの声だ。


 ――ドスッ!


「うにゃん……」


 どうやら、小鳥ちゃんを仕留めたらしい。

 これで静かに――


「きゃっ」


 振り向くと、莉乃が抱き着いて――いや、倒れてきた。

 油断していた俺は、そのまま莉乃に押し倒される形になる。


 ――バタンッ。


 莉乃をかばったため、受け身が取れない。


 ――たゆん。


 湯上りで火照った柔らかく大きな胸が、俺の顔面をふさぐ。

 いけない――理性が飛びそうだ。


 俺は一旦、莉乃を押し返し、何とか顔を離す。

 しかし同時に、床に背中を付けた状態になる。


 ――あれ? 動けないぞ。


「莉乃、大丈夫か? 怪我は――」


「えいっ」


 ――むにゅん。


 また、胸を押し付けられた。それも自分から……。

 莉乃はいったい何を考えているんだ――息が出来ない。


 仕方が無いので、再び、力尽くで莉乃を退しりぞける。


「いったい、何の――」


 真似まねだ――と言おうとしたが、莉乃は息を荒げ、


「お、お姉ちゃんのより、わ、わたしの方がいいですよね!」


 ハァハァ――と口元に笑みを浮かべている。


 ――あ、これ、暴走モードだ。


 顔を真っ赤にし、目を回している莉乃の姿を見て、俺は逆に冷静になる。


「落ち着け、莉乃」


 そう言って、俺は莉乃の頬を――ペチぺチ――と軽く叩いた。


「はひ? す、すみま――ひゃんっ!」


「今度はどうした?」


 正気を取り戻したと思った矢先、莉乃が声上げる。


「い、いえ……凄く硬いモノがお尻に当たっています」


 ――ああ、ゴメンなさい。


 生理現象なので、どうしようもない。

 俺には謝る事しか出来なかった。


「何ぃっ! それは興味あるな……是非、確認しよう!」


 と雛子。起き抜けのクセに、何でそんなにハッスルしているのだろうか⁉


「こ、これって……やややや、やっぱり、わたしで――」


 嬉しいです――と言いつつ、カーッ、と今にも沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にし、両手で顔を覆うと、莉乃はそのままへたり込んだ。


 いや、今、俺の上に座り込むとか止めて欲しい。

 後、胸も仕舞って欲しい。


「や、やりましたね♥ こ、これで――その、初めてが、わたしで良かったでしょうか?」


 いや、何も良くないし、何か誤解している。


「兄さん、パンツを下げていいか?」


 ――いい訳あるか!


「あーらら、じゃ、お姉ちゃんはコトリと食事に行って来るから、後はごゆっくり――ムフフ♥」


「ちょ、待ってサクにゃー! せめてパンツを穿かせて!」


「兄さん、引っ掛かって脱がせられないぞ」


「ユーキくんはわたしの事が……えへへ♥」


 ああ、もうっ、収拾がつかないな――この状況は!

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