第35話 そんなにはしていません
『
当時、姉と同じ短大に通っていて、気が合うのか、良く家に遊びに来ていた。
俺は『小鳥ちゃん』と呼ぶように強制されていたので、未だにそう呼んでいる。
実家の環境が
――まさか、莉乃の姉だったとは。
小柄で子供っぽく、それでいて姑息な手段を得意とする彼女。
天然で明るく、純真な莉乃とでは、どう考えても結び付かない。
「お姉ちゃん……あまり恥ずかしい事しないでください」
そう言いながら、莉乃は俺の脇腹辺りと指で突きながら言う。
「お姉ちゃんとしては、今の妹の行動の方が恥ずかしいにゃ……」
「はうっ!」
莉乃は顔を赤くして、半歩程離れた。
(別に莉乃なら、普通に触ってくれていいのだが……)
「こ、これは後学のために――」
ゴニョゴニョと言い訳をする莉乃に対し、ほほう――と小鳥ちゃん。
「あのリノをここまで
「べ、別に
嫌らしく微笑む小鳥ちゃんに対し、莉乃が反論する。
「えっと、確認しておきたい事があるんだけど、聞いてもいいかな?」
と俺の台詞に、
「うにゃ?
猫の手を作り、お尻をフリフリする小鳥ちゃん。
「お姉ちゃん、いい年して――そういうの止めて」
と莉乃。彼女にしては珍しく、
「リノったら、こっわ~い――そんなんじゃ、ユッキーに嫌われちゃうにゃ☆」
莉乃は頭を抱えて、溜息を吐いた。
どうやら、
「小鳥ちゃんの仕事って何? もしかして、芸能関係?」
莉乃は過去にトラウマがあるようなので、あまり
莉乃の性格からして、自分から――アイドルをやる――というようなタイプでは無いだろう。
誰かが頼み込んだり、言葉巧みに誘導しなければ――
「そうにゃん☆ それなりの事務所にゃ……本当は地域復興の一環だったんだけど、思ったよりも人気が出たのにゃん。それで他のグループからも人気のある
男性恐怖症になってしまった――という訳か。
まぁ、仕方が無い。
莉乃の場合――アイドルになりたくてなった訳ではなく、皆の役に立ちたかった――というのが理由だろう。
小鳥ちゃんの口振りから――最初は地元の復興のために、莉乃にアイドルをお願いしたのだが、思っていたよりも人気が出て固定ファンも増えたため、事務所が手広くやろう――と計画していたようだ。
転校出来たのも、事務所の力なのかも知れない。
莉乃には恩を着せる事が出来て、事務所は厄介事を遠ざける事が出来る。
まんまと騙されているのか、莉乃は少し、申し訳なさそうな顔をしていた。
話を聞く限りでは――大人の都合に振り回されているだけ――のようにしか聞こえないが、それでも、周囲の期待や応援してくれる人を裏切ったという罪悪感が彼女にはあるのだろう。
俺が言える事は――
「俺は――莉乃が家に来てくれて……本当に嬉しいよ」
莉乃の手を取る。
誰が何と言おうと、彼女の味方でありたい。
「ユーキくん……わたしも、ユーキくんに会えて良かったです♥」
莉乃の大きくて綺麗な瞳に、俺の姿が映る。
「莉乃……」「ユーキくん……」「莉乃」「ユーキくん」
「はいはーい! ストォップ! ストォォップ!」
小鳥ちゃんが俺と莉乃の間に割って入る。
「話には聞いていたけどにゃ……あなた達――しょっちゅう、そんな事してるのかにゃ?」
マジマジと
俺と莉乃は手を離すと、互いにそっぽ向き、顔を赤くして
「べ、別に……そんなにはしていません」
指先を動かし、モジモジとする莉乃。
「そ、そうだな……そんなにはしていない」
――いや、改めて
そんな俺と莉乃を交互に見比べて、小鳥ちゃんは溜息を
「まぁ、いいにゃ――正直、リノが大丈夫そうなら、復帰させようと思っていたけど……にゃん」
「それはまだ無理だろう――俺以外の男性だと、緊張するようだ」
俺の言葉に、莉乃もコクコクと頷く。
「
――おっと、失言だったか……。
ジト目で俺達を見詰める小鳥ちゃん――まぁ、いいにゃん――と言った後、
「じゃあ、ユッキーと一緒ならいいのかにゃ? その胸を遊ばせておくのは
「お姉ちゃん!」
莉乃が珍しく怒る。
「だ、だってぇー、仕事が上手く行かないと、実家に連れ戻されて結婚するしかないにゃん――あ、そうだにゃ! ユッキー、小鳥ちゃんと結婚してにゃ! そうすればリノだって
「お、お姉ちゃん!」
莉乃の怒りが爆発した。
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