第34話 何だか楽しくなってきたよ


 俺達の態度に、真夏は呆れたような表情をする。


「まぁいいや、食べて行くの? 案内するけど……」


 流石さすがは『海の家』、お昼時は繁盛しているようだ。


「いや、持ち帰りだ」


「そ、じゃあ、向こうに並んでね」


 注文して整理券を受け取るタイプのようだな。

 あまり、こういう外食は慣れていない。


 雛子は『ハンバーガー』でいいとして――

 姉さん達には外の屋台で、定番の『焼きそば』と『かき氷』だろうか?


 駐車場の方へ行けば、キッチンカーも来ている筈だ。

 普通に考えるなら、莉乃と手分けして並んだ方が効率はいいのだが……。


 男性の客も多いためか、莉乃はフードを被って、俺の後ろに隠れた。

 この様子では、混んでいるここで並ぶのは止めた方が良さそうだな。


 一度、駐車場の方を見てからにするか……。


「分かった――ああ、そうだ……その制服、似合ってるな」


 俺は真夏にそう返した。


 水着の上にシャツを着るだけかと思っていたが、アロハシャツの南国風ファッションだ。髪には花飾りをつけている。因みに男性はパナマハットだ。


「でしょ♥ ありがと――あっ、休憩時間になったら連絡するから……じゃあね、リノ――頑張ってね☆」


「はい? マユちゃんも頑張ってください」


 どうやら、莉乃は意味を理解していないようだ。

 多分、デートを頑張れという意味だろう。


 つまり、俺と良い感じになれ――という事だ。

 正直、今日はもう一杯一杯なので、これ以上頑張られると俺が困る。


 軽く手を振り、真夏と別れると、


「どうしました。ユーキくん?」


 莉乃が俺の顔をのぞき込む。内心、俺は溜息をくと、


「俺から離れるなよ」


 そう言って、莉乃の手をつかんだ。


「はわわわわっ」


 莉乃は慌てたが、俺は手を離す事はしなかった。

 雛子には悪いが、戻るのが少し遅れそうだ。



 ▼    ▽    ▼



「背中にダイレクトアタック!」


 雛子がそう言って、背中に飛付とびついて来る。

 どうにも、置き去りにした事を怒っているようだ。


「あはは、妹さんは甘えん坊だね」


 と真夏。お昼も終わり、休憩時間という事で合流し、海で遊んでいる。忙しくなるのは夕方からのようで、長めの休憩時間――いや、自由時間といったところらしい。


 俺の記憶は正しく、『海の家』を経営しているのが親戚で問題ないそうだ。

 どうにも、男の子の友達来ていると言ったら、OKが出たとか――


 その辺は理解があるそうだ――いや、多分それ、親戚の人は勘違いをしていないか?


「どう、ユーキ? キミが選んでくれた水着は……そそるかい?」


 真夏はそう言って、セクシーなポーズを決めた。

 どうして、そういう聞き方をするのだろうか?


 もしかして――彼が選んでくれた水着なんだ――とでも言ったのではないだろうか? そりゃ、親戚の人も勘違いするだろう。


「ああ、そそるそそる――って、俺を挑発してどうする気だ⁉」


 何だか、普通にめるのも恥ずかしい。

 似合う似合わないの前に、身体のラインや肌の色も込みだからだろう。


 具体的にめようとすると、何だかエッチな感じがする。

 そんな訳で、取り敢えず、乗り突っ込みで真夏に対応していると、


「兄さん、最初から思っていたが、筋肉がついたな……いい身体だ」


 雛子が俺の身体に手をわせてくる。


「止めろ、雛子――くすぐったい」


「おっ、どれどれ……ふむふむ、確かに硬いですなぁ」


 ピタピタと真夏が俺の腹筋周りを触る。


「真夏まで……引っ付くなよ」


「兄さんのクセに生意気だな……えいっ」


 と雛子。敏感なところをつまみやがった。


「そこはダイヤルじゃない――回すな!」


「どれ、ボクも……」


 真夏がスゥッと背中に指をわせる。


「ひゃうっ」


 思わず声を上げてしまった。


「あはは、可愛い声! 何だか楽しくなってきたよ」


「あたしもやるぞ!」


 二人とも調子に乗り過ぎだ。このままでは、俺も変になる。

 それに、これは俺の知っている海での遊び方ではない。


「ええいっ! 止めろ!」


 そう言って、雛子をゆっくり降ろし、俺は二人から距離を取った。

 だが二人は両手をワキワキとさせ、ジリジリと近づいてくる。


「莉乃、助けてくれ……」


 救援要請をするが、振り向くと莉乃も二人と同じ姿勢を取っていた。


「は、はひ! こ、これはですね……いい身体だなと――」


 男性恐怖症の設定は何処どこにいったのやら――いや、良い傾向なのか?

 しかし、莉乃に抱き着かれたら、俺の理性は完全にアウトだろう。


 策を巡らす必要がある――何か……何かないだろうか?


「あっ! ほら、雛子――あっちで飛び込みをやっているぞ」


 指を差す。陸から少し離れた場所に、飛び込み台が設置され、子供が並んでいた。


「おおっ! だが、海の上だ……」


 一瞬、目を輝かせたが、泳げない雛子は途端とたんに残念そうな顔をする。


「真夏、悪いけど……雛子は泳げないから、一緒に飛び込んでやってくれないか?」


 と頼む。今度は真夏が目を輝かせた。


「ホント☆ 妹さん、ボクと一緒に行こうか?」


 どういう訳か、雛子と仲良くなりたいらしい。

 雛子は少し悩んだ後――では、よろしく頼む――と言って真夏の手を取った。


 真夏はホクホクとした笑顔で、砂浜を歩いて行った。


「あたしは――お前の拳では死なん!」


 と雛子。どうやら、その台詞で海に飛び込む事に決めたようだ。

 今更だが、そういうの――いったい何処どこで覚えてくるのやら……。


「にゃにゃ~ん♪ あの娘も可愛いにゃん☆」


 後ろからの突然の声に、俺はビクッと反応してしまう。


 振り返ると、そこにはあごに手を当て、品定めをするように二人を見詰める小鳥ちゃんが居た。

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