症例4.気が付くと君に夢中になっていた!

第30話 『おっぱい』を弄ってください!


「神は死んだ」


 ――勝手に殺すな。


「雛子……開口一番、お前は何処の哲学者だ」


 最初は電車での日帰りを計画していたが、姉さんが車を出してくれた。

 莉乃も雛子も人混みは苦手なので、正直、助かったが――


 休みまで取って、いったい何を考えているのやら――いや、単に自分も遊びたいだけだろうか?


 照りつける太陽、青い海、白い砂浜――


「人がゴミのようだ」


 言うと思った――だが、俺達もじきに、そのゴミになる。

 冷めた振りする事で、大人になんてなれないんだ。


「ヒナコちゃん、いけません! 今わたし達に必要なのは主義や主張ではなく、平和を望む心です!」


 何故か既に水着に着替えている莉乃が、ドドーンと胸を張る。


 ――いや、主張し過ぎなんだが……。


 まぁ、家から着て来たのだろう。ちゃんと着替えは持ってきているのだろうか?


 ――ぷるるんるん♪


 その大きな胸が揺れる。心做こころなしか、今日は『おっぱい』も楽しそうだ。


「教えてくれ、兄さん。あたしは後、何人殺せばいい……?」


 季節は夏――そう、俺達は海水浴に来ている。

 雛子と海に来ることなんて、もう一生無いと思っていた。


「冷静になれ――お前が戦えば戦うほど、平和の犠牲が無駄になっていく。もう気付いている筈だ……」


 姉さんは仕事で疲れているため、車の中で少し休むそうだ。

 莉乃の姉である『小鳥ちゃん』とも、後で合流する予定らしい。


 莉乃にしては珍しく、嫌そうな顔をしていた。一泊して明日には帰る予定なので、俺としては、今夜は飲み過ぎに注意して欲しいところだ。


「この世界から巨乳を消す! そのために、あたしは悪になる!」


 雛子はそう言って、莉乃を指差した。

 はいはい――いいから早く着替えような。


「何も恐れないでください! 感じ合える確かな青春は誰にも奪えません!」


 と莉乃――強くなったな。


 俺は雛子の服を脱がした。当然、雛子も服の下に水着を着ている。

 最近は自分で着替えてくれるようになった。


 ――偉いぞ、雛子。


 流石に髪は、まだ俺がセットしている。今日はお団子頭だ。

 さて、まずは海の家で『ビーチパラソル』や『浮き輪』など、一式借りて来よう。


 姉さん達が来る前に設置しておかないと、何を言われるか分かったモノではない。


「悲しみを強さに変える愛など、あたしは信じないぞ」


 雛子はそう言って、莉乃と対峙する。

 脱がせた服をたたんで鞄に仕舞うと、俺は雛子を抱えて海の家へ向かった。



 ▼    ▽    ▼



「ハハハハハ、一匹残らず駆逐してやる!」


 雛子のテンションは、最初からクライマックスのようだ。この間、百貨店で購入した水鉄砲を構え、頭には俺から強奪した水中眼鏡を装備している。


 ――自爆ショーでも開催する気だろうか?


 『ビーチベッド』と『ビーチテーブル』、そして『ビーチパラソル』の設置が完了した。


「待ってろ! 今、浮き輪をふくらませるから……」


 取り敢えず、設置は完了したので、これで姉さん達に怒られることはないだろう。

 それより、雛子が勝手に動き回らないように手を打つ必要がありそうだ。


「まずは準備運動をしろ――莉乃、悪いけど、雛子が暴走しないように見張っていてくれ」


「はい、分かりました。ヒナコちゃん、準備運動をしますよ」


「ハッハッハッ、乳など飾りだ。エロい奴にはそれが分からんのだよ!」


 どうやら、本当は楽しみにしていたようだ。

 ダミープラグによる暴走が始まっている。


 まぁ、内臓電源の活動限界が五分なので、暴走状態になっても直ぐに動かなくなるだろう。


「し、心臓を……ゼェゼェ……捧げよ……ハァハァ」


 案の定、直ぐに動かなくなった。


「まったく……既に限界のようだが、その心臓を誰に捧げる気だ?」


 設置した『ビーチパラソル』と『ビーチベッド』が早速役に立った。

 俺は雛子を抱えると、そっと寝かせる。


「兄さん――う、海は恐ろしいところだ……」


「落ち着け、まだ海に入っていない」


「う、海の向こうには自由がある……ずっとそう信じてた――」


 どうやら、雛子は壁の向こうに行けそうにない。


「あ、あのー、ユーキくん……ヒナコちゃんは大丈夫ですか?」


 莉乃が心配そうに声を掛けて来た。


「くっ、超大型巨乳め……」


 と雛子――うん、大丈夫そうだ。


「いつもの病気だ。問題ない」


「そうみたいですね……」


 莉乃も慣れたのだろう。ペットボトルとタオルを渡してくれる。


「いいか、一度に飲むなよ。冷たいから、お腹壊すぞ」


 雛子は言われた通り、少しだけ飲むと、そのまま横になった。

 タオルを枕替わりし、額にペットボトルを当てる。


 じきに姉さんと小鳥ちゃんも来るだろう。

 それまで、どう時間を潰そうか……。


「そうでした! ユ、ユーキくんに――お、お願いがあります!」


 と莉乃――何だろう? 何だか悪い予感がする。


「どうした、改まって?」


 俺は首を傾げる。莉乃は恥ずかしそうにモジモジと指を動かす。


 ――トイレだろうか?


 やがて、覚悟を決めたのか、莉乃はこう言った。


「ユーキくん! わたしの『おっぱい』をいじってください!」


 どうやら、今度は俺が暴走状態になるらしい。

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