第27話 恥ずかしくなってきました!


「いいけど、学校を出てからじゃダメか?」


 流石さすがに校内でそれをやらかすのは、植田や梅田以外の男子からも標的にされ兼ねない。


 あの二人は揶揄からかっているだけだが、可愛い女の子と仲良くしているだけで、攻撃的になる男子もいるからな……。


「いえ、学校の中でなければ意味が……な、何でもありません」


 どういうことだろう……まさか、誰かから告白されたのだろうか?


 俺という彼氏(仮)が居るのに――いや、莉乃の可愛さを考えると十分に有り得る。


「つまり、俺と莉乃が付き合っていることをアピール出来ればいいのか?」


「はわわわわ~、め、迷惑ですよね。ゴメンなさい」


 やはり、相手が俺では荷が重いようだ。

 莉乃に男子を近づけさせないための、防波堤の役目にすらならないのか――


 体力の他に、勉強も出来た方がいいかも知れない。

 次のテストは、もう少し気合を入れよう。


 しかし、今は周囲に関係を見せつける事が重要だ。

 俺が彼氏だということをクラスの連中だけではなく、生徒全員に理解させる。


「謝らなくていい。莉乃ためなら、何でもするよ」


「はわっ♥ い、いえ、その……ユーキくんの周りには可愛い女の子が多いので――な、何でもありません……」


 なるほど、俺にも原因があるのか……確かに、莉乃の事で女子と会話をする機会も増えた。


 男子の中には――この隙に莉乃に近づこう――と考えたやからもいるのだろう。


 ――分かったよ、莉乃。


「ユ、ユーキくんの人間関係をどうこう言うつもりは無くて……ですね――その、わたしがイライラするといいますか、落ち着かないといいますか……」


 莉乃は次第に声を小さくする。


「だったら、こういうのはどうだろう?」


「は、はひ?」


 俺は莉乃に提案した。



 ▼    ▽    ▼



「ほ、本当にこれが効果的なのでしょうか? そのー、わたしとしてはここまでする必要は――」


「周囲の注目は集めている。問題ない……筈だ」


 莉乃の質問に俺は答える。


「い、いえ……疑っている訳ではなく――わ、わたしの方が、恥ずかしくなってきました!」


 今、莉乃は俺のシャツを摘まんだ状態で、後ろを歩いている。

 校内で手を繋いで歩くのは、反感を買う可能性も高い。


 それに校則で禁止されてはいないとはいえ、男女の仲を見せ付けるような行為は公序良俗に反するだろう。


 結果、莉乃には俺のシャツの後ろを摘まんで歩く――という行為で廊下をフラフラしていた。しかし――


 ――意外に注目されるモノだな。


 莉乃は周囲の視線に耐え切れなくなったのか、顔を赤くして俯いている。


 ――問題は歩くスピードだな。


 この位のゆっくりとしたペースが丁度良さそうだ。

 テスト期間中なので部活は無い。直ぐに、生徒達は帰るだろう。


 つまり、俺達の仲の良さを見せ付けるのは――今しかない!


「やあ、リノ! それにユーキ――って、二人とも顔が赤いけど……大丈夫かい?」


 そう言って現れたのは真夏だ。

 彼女とは、いつも妙なタイミングで会うな。


 いや、この辺りで会うというとは、一年の時雨しぐれにでも、部活の連絡をしに来たのだろう。


「マ、マユちゃん⁉」


 驚く莉乃に対し、


「何だい? リノ……ユーキのシャツなんかつかんで――もしかして、校内の放課後デートってヤツかい⁉」


 ――パシンッ。


「まったく、見てるこっちが恥ずかしいよ……」


 痛いっ――何故か俺が叩かれた。一方、


「デ、デート……⁉」


 驚く莉乃――その発想は無かった――そんな顔だ。

 もしかして、俺の解釈は間違っていたのだろうか?


 莉乃の目的は、別の所にあったようだ。


「う、ううっ……」


 莉乃はゆっくりと俺のシャツを摘まんでいた手を離す。

 そして何故か、顔を両手で覆って、その場にしゃがみ込んでしまった。


 まぁ、相当恥ずかしかったのだろう。

 気持ちは痛いほど分かるが、俺まで恥ずかしがる訳にもいかない。


「そんなところだ……それより、真夏がここに居るということは――」


「セ・ン・パ・イ♥」


 突如、背中に衝撃を受ける。腕が伸び、お腹の辺りを抱き締められた。

 どうやら後ろから抱き着かれたようだ。


 こんな事をするのは一人しかいない。


「センパイぃ~、会いたかったっス。何かおごって欲しいっスよ」


 ――嫌だよ。


 そこに居たのは、一年の女子『時雨しぐれ小雨こさめ』だった。

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