第26話 一緒に帰りましょう!


「ま、今回は助かったよ……礼を言う――ありがとう」


 俺がそう告げると――どう致しまして――と真夏が返す。

 水着の件以来だろうか、よく話掛けられるようになった。


 まぁ、部活の他に『莉乃』という共通点もあるので、普通の流れだろう。


「で、何の用だ?」


「部活の話だよ。しき……いや――ユーキがあまり顔を出さないからね」


 急に下の名前で……。

 正直、真夏は美人なので、あまり仲良くすると他の男子が嫌がらせをしてくる。


 まぁいい……真夏が悪い訳ではない――


「そもそも、名前を貸しているだけだ。入部の条件も――裏方でいい――という話だったしな」


「いやいや、莉乃も入ってくれた事だし、カッコイイところ、見せる機会チャンスじゃないの?」


 恥を掻く――の間違いではないだろうか?


 いや、それよりも――


「待て――莉乃も同じ部活に入った――っと言ったな」


「うん、ボクがユーキも同じ部活だって教えたら――じゃあ、わたしも入部します! ――って直ぐに『入部届』を持ってきたよ」


 ――莉乃らしいというか、何というか……。


 俺は頭を抱える。その様子が気になったのか、


「――っていうかユーキ……大事にするのは分かるけど、拘束し過ぎじゃない?」


「言いたい事は分かる」


 自分でも、そう思うのだが――


 真夏は少し呆れた様子で、


「一人で電車に乗るな――って言ってるそうじゃないか……今だって、俺と一緒じゃないと部活には行かせない――そんな顔をしていたぞ」


 これは友達としての助言だろう。傍からはそう見られている――という事だ。

 実際、その通りなので反論の余地が無い。素直に認めよう。


 しかし――


「あの莉乃だぞ……軽音部――あの個性的な連中の事を考えると、あまり会わせたくはないな」


 それにまだ、俺以外の男性には苦手意識がある。

 男性部員とは上手く話せないだろう――というのも理由の一つだ。


「あはは……確かに変人――個性的だよね」


 俺達もその変人に含まれているのだが、敢えて言う必要はないか……。

 変人同士が集まると、相乗効果で更に可笑しなトラブルを起こし兼ねない。


「後、莉乃を一人で電車に乗せてみろ。痴漢に遭うに決まっている――エロい身体しているお前が悪い――などと開き直られたら、それこそトラウマになりそうだ」


「あはは……うーん、否定出来ないよ」


「唯でさえ無防備なんだ――スマホで胸の写真やスカートの中を撮られて、ネットにさらされる未来が俺には見えるんだが……お前はどう思う?」


「……」


 言い返さない――ということは真夏もそう思っているのだろう。


 まぁ、彼女を責めたい訳ではないので、この辺にしておくか……。


「おっと、本題がまだだったな――この時期に部活の話という事は『学園祭』か……」


 また雑用を適当にこなすとするか――


 だが、今年は莉乃と一緒だ。少し楽しみだったりする。


「そ、ボク達の唯一の活躍の場!」


 サムズアップする真夏。


 ――いや、それでは不味いだろう。


 仕方が無い。テストが終わったら、清掃のボランティアを兼ねて、老人ホーム辺りで、何か簡単な演奏でも出来るようにセッティングするか……。


「分かった。連絡先を交換しよう。莉乃には俺が伝える」


「お、何だかヤル気だね。お願いするよ☆」


 スマホを取り出して、お互いに連絡先を交換した。


「おー、これが男子の連絡先かぁ」


「いや、そんな初めて男子と連絡先を交換したみたいな反応をされると困るんだが……」


「ん? ユーキがボクの初めての相手だよ」


 言い方に気を付けて欲しい――いや、莉乃と仲が良いということは同類なのかも知れない。


「それは光栄だが――俺じゃなくて、先輩に使った方がいい台詞だったんじゃないのか?」


 真夏は――ハッ、しまった!――という感じの表情を浮かべる。


 やれやれだ。


「どの道、テスト期間だ。莉乃の紹介を兼ねて――終わってから集まる――ということでいいだろう」


「そうだね」


 他の連中にもそう伝えておくよ――と真夏は言って、席に戻る。


 その後ろ姿を見て、俺は――久しぶりに人前で演奏しようか――と考えてしまった。



 ▼    ▽    ▼



 下校時刻――外は梅雨時に相応しい、どんよりとした曇り空。


「ユーキくん、一緒に帰りましょう!」


 と莉乃。珍しいな――態々わざわざ言いに来るなんて……。

 俺が莉乃を置いて帰る訳がない。


 いつもはもっと自然な感じで一緒に帰っている筈だ。

 それを皆にアピールするような形で――


(まさかっ! 一緒の家で暮らしていることを言ったのではないだろうな……)


 俺は莉乃をジーっと見詰める。


「どうしたんですか? ユーキくん」


 莉乃は不思議そうに小首をかしげる。


 ――可愛いな……畜生ちくしょうっ!


「いや、何でもない――一緒に帰ろう……」


 俺は鞄を持つと、席から立った。既に何人かの生徒は姿を消している。


「あ、あの――ユーキくん」


「何だ?」


「て、手をつないで帰るのはどうでしょうか?」


 はて? もう学校には慣れた筈だ。

 知っている男子相手なら、過度の緊張もしなくなったと思っていたが?


 手をつなぐ必要はない――と思う。

 やはり、何かあったのだろうか? 心配になる。


「ダメですか?」


 ――ダメじゃないです!

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