第25話 それはどうかと思う……


 やっと解放された。そんな気分だ。

 まさか、クラスメイトの女子の水着姿を見て感想を言うことになるとは……。


 いや、確かに莉乃の水着姿は可愛かったのだが――何だろう、この罪悪感。

 絶対エッチなことを想像してしまうに決まっている。


「ここは気分を変えるためにも、料理の事を考えよう」


 ナスにオクラにズッキーニ、パプリカ、トマト、キュウリ……。

 姉さんの好きな枝豆も――


 夏野菜を使ったカレーは勿論、シンプルに焼いてもいいし、オリーブオイルとニンニクで炒めて――いや、莉乃が臭いを気にするかな?


「兄さん――それはどうかと思う……」


 と雛子。折角、気分が乗ってきたというのに――何故、水を差すのだろうか?


「ヒナコちゃんは、本当に野菜が嫌いですね」


 と莉乃。農家の娘として、もっと物申してやって欲しい。

 百貨店での帰りにスーパーに寄り、野菜を買う事の何がいけないというのか。


「オクラは体に良いだろ――納豆に入れてもいいし……」


 しかし、雛子は――うへぇ――と舌を出し、


「ネバネバは嫌いだ。ついでにトマトも……」


 と言い出す始末だ。しかし、そこは考えてある。


「安心しろ――今日買ったのはフルーツトマトだ。甘くて旨味成分もあるから、夕飯はホタテと一緒にトマトクリームのパスタにしような」


 ホタテではなくエビやイカを使うことも考えたが、雛子は昼にハンバーグとフライのセットを食べている。


 トマトは魚介との相性もいい。これなら、雛子も食べられるだろう。


「トマト抜きでいい」


 ああ言えばこう言う。おっと、ブロッコリーを忘れる所だった。

 雛子は更に悲惨な表情をする。


「そうだ……今度、莉乃の実家からトウモロコシを送ってくれると連絡があったな――こっちの夏は蒸し暑いし……莉乃、冷静コーンスープを作ってもいいかな?」


「はひ、正直、ちょっと食欲が無かったので助かります」


「肉だ、肉を食わせろ! 児童虐待だぞ」


 とは雛子。都合の悪い時だけ、子供のフリをするのは止めて欲しいモノだ。


「こういうのは、児童虐待とは言わない」


「くっ、水着を見ていた時より、生き生きしやがって――」


 言ってくれる――お前も水鉄砲を選んでいた時は、生き生きとしていただろうが……。


「ヒナコちゃん……好き嫌いしていると、大きくなれませんよ」


 ――たゆん。


 人差し指を立て、莉乃が忠告する。

 自然と前屈みになるため、その大きな胸が更に強調される。


「くっ、圧倒的説得力っ……!」


 そう言って、雛子は悔しがる。どうやら、今回は雛子の負けのようだ。


 ――手痛く負けた時こそ、胸を張れ!


「その胸が無いんじゃ、ボケェ!」



 ▼    ▽    ▼



 休み明け、学校へ行くと、


「ヒャッハー! 式衛ぃ~、勉強を教えてくれぇ!」


 とヒャッハーの襲撃……間違えた――授業が終わると同時に梅田が泣き付いてくる。


 俺も勉強が出来る訳ではないので、他を当たって欲しい。

 ただ、もうじき期末テストなので気持ちは分かる。


 俺達のような、あまり勉強が出来ない奴らは、比較的範囲の少ない一学期の内に、点数を稼いでおく必要がある。


「おいおい~、式衛くんはオレ達と違って、恋の優等生だぜ」


 と植田も現れた。


 ――コイツ等、本当にワンセットだな……。


「そうでした! もう、夜の保健体育は完璧だね」


「ぐへへっ、勉強も二人なら捗ることだろうぜ」


「がっはっはっ、そうだな――所詮、オレ達とは違う世界の人種だ」


 そんなことが言いたかったのか――


「おい、お前達……一つだけ訂正しておく」


 何だよ――と二人は声を揃える。


「莉乃と二人っきりで、勉強に集中出来る筈がないだろう――」


 あの大きな胸といい、天然な性格といい、あまりに無防備過ぎる。

 俺の理性が試されているとしか思えない。


「た、確かに――」「勉強どころでは――」『ないな』


 分かってくれたようだ。しかし――


「だがよぉ!」「うらやましいぜ!」


 二人が襲い掛かってくる。


「おらおらぁ、リア充は消毒だぁ!」


「ヒャッハー、水だぁ、水ぅ~!」


 燃やすのか、消すのか、どっちだ?


 ――クソぉ~、何て面倒な奴らなんだ……。


「止めろ! くすぐるなっ……」


 そんなおふざけをやっていると、


「ねぇ、二人とも……式衛を借りていいかな?」


 と真夏が声を掛けてきた。正直、今回は助かった。


「あれあれ? 真夏のあねさん……式衛ですね。どうぞ」


 と梅田。何たる下っ端気質! どうぞ――じゃない。


(いったい、何時から真夏が『あねさん』になったのやら……)

 

 ホント、息をするように下手に出るな。


「ちっ、覚えてろよ!」


 とは植田だ。まったく、それはこっちの台詞だ。

 二人して逃げやがって……。


「ふふふ――仲が良いよね」


 真夏が笑う。確かに悪くはないが、素直に頷きたくもない気分だ。

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