第28話 百点を上げます


「あ、あの……ユ、ユーキくん! こ、このは⁉」


 おや、莉乃は復活したようだ――いや、まだ顔は赤いままか……。

 少し怒っているような気もするが……どうしたのだろう?


「あ! リノりんセンパイっ! チ~っス、期待の新人『時雨しぐれ小雨こさめ』で~す。あけおめことよろ!」


 相変わらず、頭痛が痛い感じのキャラだな。

 これも、莉乃を一人で部室に行かせたくない理由の一つだ。


無暗むやみに男子にくっ付くな――と言っているだろ」


 俺は時雨を引きがす。


「あぁ~ん、センパイ……酷いっス――まぁ、そんな連れない態度もセンパイの魅力っスね☆」


 パチン☆――とウインクを決める時雨。


「初めて言われた――」


 溜息を吐き、肩を落とす俺に対し、


「いえ、ユーキくんは優しいです!」


「そうだ、ユーキは良い奴だぞ」


 莉乃と真夏が時雨に言う。


 ――まずは先輩に対し、もう少し敬意を払うように伝えて欲しい。


 時雨は最初、キョトンと間抜けな表情をしていたが、何か得心がいったのか、


「なるほど~、センパイはモテモテっスねー。やはり、あっしのにらんだ通り――センパイからは、ダメな女を惹き付ける何かが出ているようっス」


 ダメな女を惹き付ける何か――何それ怖い。


「そんなもん出てねーよ――それより、学校ではもう少し、先輩に対する口の利き方を気を付けた方がいいぞ」


「はい、分かったっス」


「そういう態度を良く思わない連中もいるからな」


「へっへ~、センパイの思いはしっかり伝わりやしたぜ」


 本当だろうか?


 しかし、どうして俺の周りには、こう、下っ端臭のする連中が多いんだ?


「知っているようだが、一応、紹介しておく――こちらは『春野莉乃』さん。四月から、この学校に転校して来た」


 よろしくお願いします!――と莉乃、時雨は――よろ~――と返す。

 うん、全然伝わってない。知ってた。


「残念ながら、こういう奴だ。彼女は一年の『時雨しぐれ小雨こさめ』――実はバイト先でも会っている。たまに客として来て、俺にたかろうとする困った奴だ」


「ふふん♪ マメな女のアプローチっス♥」


(全然、嬉しくないアプローチだな……)


「軽音部の一年で『ドラム』をやっている――この見た目の割に結構パワーがあって、リズム感もいい……ただ、少し走り気味なところがあるから、フォローする必要があるな」


 そう言って、俺は時雨の頭をポンポンとする。

 褒めたつもりは無いが、どうしてそんな嬉しそうな顔をするんだ?


「後、意外に人のことを良く見ている。普段はこうだが……(俺以外に対しては)気遣いが出来るようだから、相談相手に向いているかもな」


『…………』


 何だろう? 莉乃と真夏の視線が痛い。


「センパイ……そういうところっスよ」


 何処か悟った表情の時雨――何がだよ!


「じゃ、顔合わせも済んだんだ……俺達はもう行くからな!」


「えー、折角なんで、あっしとデートしてください!」


 ええいっ、俺のベルトを引っ張るな!


「こんなに可愛い彼女が居るのに、何故、俺がお前とデートしなければならないんだ?」


「か、可愛い……彼女――」


 莉乃は何やらつぶやいている。一方、時雨は俺のベルトから手を離すと、


「あーあ、真夏センパイ、振られちゃましたねー」


 と真夏を見た。いや、時雨――俺はお前に言ったんだが……。


「え⁉ 何でボク……」


 と驚く真夏。


 ――時雨の言う事は、いちいち気にしない方がいいぞ。


「彼女……えへへ♥ 作戦成功です」


 莉乃の様子がまた可笑しい。


「莉乃、大丈夫か?」


 心配になってたずねると、


「は、はひ! も、問題ありません。彼女です!」


 ――まぁ、正確には彼女(振)だけどな……。


 いや、それだと振られたみたいになるな? 内心苦笑すると、莉乃は続けて、


「きょ、今日のユーキくんには百点を上げます」


 と言い放つ。


 ――え? いつもは何点なんだ……気になる。


「で、莉乃……どうする? まだ、続けるか?」


「いえっ、もう目的は果たしました!」


 俺の質問に莉乃はそう答える。どうやら、いつの間にか問題は解決したようだ。

 まぁ、デートと意識してしまった以上、莉乃には続けるのが難しかっただろう。


「えっと、どういう事っスか?」


「ああ、そういえば……彼氏が友達に彼女だって紹介してくれなかった――と教室で話していたな。紹介されないなんて、魅力がないんじゃないの――だったかな?」


「何スか――それ?」


「さぁ、ボクに聞かないでくれ」


 真夏と時雨が何やらヒソヒソと話している。

 俺としては、莉乃の悩みが解決した事が嬉しい。


 そんな莉乃の感情に呼応するように、外も明るくなっていた。

 梅雨の晴れ間――というヤツだろう。

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