第21話 遣りたい事と出来る事
疲れていたのだろう。調理師の人は仮眠を取っているようだった。
タオルをアイマスク代わりに顔に乗せている。
「てっきり、料理はユーキくんが作っているモノだと思っていました」
「いや、流石にそれは――俺は仕込みを手伝うくらいだよ……まぁ、
手を洗い、準備されていた賄いをテーブルの上に用意する。
いつもはサンドイッチなど、軽めのモノで手早く済ますのだが、今日は莉乃が居るため、人気メニューであるオムライスを用意してくれたようだ。
「莉乃は、ゆっくり食べてていいよ」
予想では、
本来はコーヒーと店の雰囲気を楽しむための場所だ。
固定ファンが居るから、何とかやっていけるが、今後も続けていくためには新規の客を獲得する必要がある。
駅周辺が再開発でお洒落になり、人が集まって来ている今がチャンスだ。
メニューを改良して、女性客を増やし、SNSで拡散して貰うのが正攻法だろうか?
例えばオムライスにしても、季節限定メニューを追加するくらいはやってもいい。
――後で白雪さんに相談してみよう。
そのオムライスだが、莉乃にも好評だったようで、ペロリと平らげてしまった。
お腹が空いていたのもあるだろうが、俺が作ったモノより美味しそうに食べている様子だった――ちょっと悔しい。
「そういえば、
俺は気になっていたので聞いてみた。
「はい、アイドルの仕事をしていましたので、接客は得意です!」
確かに接客はするのだろうが、アイドルは給仕の仕事までしないと思う。
会いに行けるアイドル――という訳でもなさそうだ。
しかし、思い付きで始めた『ゆるキャラ』みたいな感じだと思っていたので失念していた。実は地域に密着した形の真面目な仕事をしていたのかも知れない。
「それに……今は農家も野菜だけを作っていればいい時代ではありません――野菜もブランド化して存在を知ってもらい――ただ、お店に並べるのではなく自分達から宣伝して売りに行く必要もあります!」
と莉乃。何だか、今日はカッコイイ。
「牧場のレストランへ野菜を持って行って、地産地消の限定メニューを提供したり――小さい農家さんも居るので、拘りの野菜など、それぞれ作ったモノを持ち寄って、通販としてセットで販売したり――はうっ、そういえば、この間、ユーキくんが作ってくれた野菜ケーキが見た目も綺麗で美味しかったのです! レシピを教えていただけますか? もしかしたら、『道の駅』の新しいメニューになるかも知れません……いいですか?」
巨乳のメイド少女にお願いされて、断れる男子がいるだろうか――否。
「雛子が野菜を食べないから、作っただけだよ……役に立つのなら、後で教えるね」
「ありがとうございます♥ え、ええと――」
莉乃は立ち上がると、スカートの裾を掴んで持ち上げた。
そして――
「ありがとうございます――ご主人様♥」
と一礼する。ここはそういうお店ではないのだが――やはり、メイド服は最強のパーツのようだ。
(どうしよう、可愛い生き物がいる……)
よし、持ち帰ろう! ――いや、一緒に暮らしているんだった。
「えへへ♥ ユーキくんと一緒だと、遣りたい事と出来る事が、どんどん増えて行きますね♥」
正義執行――どうやら、最強のパーツはメイド服ではなく、彼女の笑顔そのモノだ。
▼ ▽ ▼
「任務……完了――自爆する」
と雛子――頼むから、俺を困らせないで欲しい。
季節は六月の中旬を過ぎ、すっかり梅雨になっていた。
「何を言っているんですか、ヒナコちゃん⁉ 可愛い水着が沢山ありますよ!」
莉乃がはしゃいでいるように見える。何だが、今日は楽しそうだ。
やはり、バイト代が入ったのが嬉しいのだろうか?
てっきり、修学旅行の旅費にすると思っていたのだが……まぁ、また夏休みにバイトをすればいいか。
「あたしにはスクール水着で十分だ!」
店内でその発言はどうかと思うが、雛子だから仕方が無い。
そもそも、スクール水着自体、
今日の雛子の髪型は三つ編みだ。二つ結びのおさげにしてやった。
白いワンピースに青を基調としたリボン。
白いつば広帽子――いや、帽子は今、俺が預かっている。
黙っていれば、避暑地に遊びに来たお嬢様――に見えるのだろうが、どうやら、お気に召さなかったようだ。
それにしても――
「さぁ、行きましょう! ヒナコちゃん」
「いーやーだぁ~、ひ、人の話を聞け!」
(二人はすっかり仲良くなったな……うん、良い事だ)
莉乃から――ヒナコちゃんを連れて、三人でお買い物に行きたいのです――と言われた時は少々驚いた。
この時期特有のジメジメとした空気の中、空調設備が整った快適な室内から、どうやって雛子を引き
(まぁ、水着を選ぶと聞いた
どうせ、雛子が莉乃に何かを吹き込んだのが
そして同時に、俺も必要ないと思うのだが――
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