第19話 素直な気持ちを返信する


「凄いです。流石は美才びさいのヒナコ」


「待てリノ……お前、実はあたしをバカにしているだろ!」


 おや? めたつもりでしたが、失敗してしまいました。

 やはり、中学生は難しい年頃のようです。


「そ、そんなことはありません!」


 弁明しましょう。


「美しくて天才――略して美才ですよ」


「聞いたことない……」


 とヒナコちゃん。ご機嫌斜めのようです。

 また――兄さんに裸で抱き着く――なんて言い出さなければいいのですが……。


 ここはちゃんと釘を打っておく必要ありますね。


「ヒナコちゃん……」


「何だ?」


 ヒナコちゃんの両肩を掴むように、わたしは手を乗せます。

 これで逃げられない筈なので、ちゃんと話を聞いてくれるでしょう。


「ユーキくんはアニメオタクなので、ヒナコちゃんの裸を見て、いやらしい気持ちになったりしません」


 ふー、何とか言えました。

 あれあれ? でも、危険ではないでしょうか……?


 言葉にすると分かることもあります。

 それに何だか、急にムカムカしてきました。


 思わず、ヒナコちゃんの肩を掴む手に力が入ってしまいました。


「わ、分かった――リノ。裸で抱き着くというのは嘘だから……ただの戯言ざれごとだ」


 だから怒るな――とヒナコちゃん。どうやら分かってくれたようです。

 ユーキくんは生身の女性の身体に興味が無い筈です。


 でなければ、わたしは今頃……いえ、それでもいいと思ってしまいました。


 ユーキくんの真剣な眼差し――あれでお願いされると、つい許してしまいそうになります。


 ――いえ、でも待ってください……アニメオタクの方は、幼女の方が好みなのでしょうか?


 やはり、ユーキくんもヒナコちゃんみたいなの方が……。


「怒ってませんよ……ふふふ」


 おっと、少し感情が漏れてしまいました。

 怖いな――とヒナコちゃん。続けて、


「ま、あたしとしては兄さんとリノがくっつくのはいいことだと思う」


「ありがとうございます!」


 やっぱり、ヒナコちゃんは良いでした。

 もう一度、落ち着いて考えましょう。


「でも、ユーキくんは女性に興味がありません……」


 あれ、何故なぜでしょう? また、不安になってきました。


「なのに……わたしが勘違いをして、告白されたと思ってしまったので……き、き、嫌われたりしていないでしょうか? ――は、何ですか⁉ その『面倒な奴』を見るみたいな視線は――」


「いや、すまない――そういえば、そういう設定だったな……あ、いや、こっちの話だ」


 ヒナコちゃんは、コンっと可愛く咳払いをすると、


「あたしから言えるのは一つ――先ずは『おっぱい』をいじってもらえ」


「なっ! そ、それはどういう――」


 触らせる――ということでしょうか?

 確かに効果的ではあると思いますが、流石に覚悟がりますね。


 それにユーキくんは優しいので、今までよりも強引な手が必要かも知れません。

 あれ以上恥ずかしい事など、わたしに出来るでしょうか?


「うむ、耳を貸せ……」


 とヒナコちゃん。わたしは顔を近づけます。

 すると――ごにょごにょ――耳元でささやきます。


「え? 先ずは一緒にバイトを――」


 それにどういう意味が?


「次に水着を買いに――」


 確かに、その通りですが……。


「海で一緒に――」


 なるほど、そういう意味でしたか……流石はヒナコちゃんです。


「リノだって、男性恐怖症が治ってきているのだろ?」


「はい、ユーキくんと一緒だと、男の人と話すのにあまり緊張しなくなりました」


 それを聞いて―――うんうん――とヒナコちゃんは頷きます。


「兄さんだって同じ筈だ。リノに感謝している」


 そうでしょうか? だったら嬉しいのですが……。

 おっと、ユーキくんからメールが来ていました。


 どうやら、心配を掛けてしまったようです。

 ユーキくんは優しいですからね――


 わたしも覚悟を決めました。

 今のわたしに出来る事――それは素直な気持ちを返信する事です。


 ――今なら『暗黒星』も見付かりそうです!


「これでよし――です!」


 ヒナコちゃんにも見せましょう。


「いや、それ――見付けちゃダメなヤツだぞ……」


 ヒナコちゃんは不安そうに言いましたが、今のわたしなら、何だか行けそうな気がします!

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