第14話 実は頭良かったんだ?


「あらやだー、奥さん……彼が噂の『式衛しきもり勇希ゆうき』くんよ」


「えぇーっ! いがぁーい……大人しそうな子じゃないのぉー」


「でも、そういう子に限って、裏で何をしているのか分からないモノよぉ」


「あらぁ、そうなの? 怖いわぁ」


「あなたも見たでしょう? 新学期早々――」


「見た見たぁ、女子と手を繋いで登校なんて――」


「やーよねぇ」「ねぇー」


 職員室に莉乃を送り届けた俺は、教室へ入るなり、植田と梅田の二人に絡まれていた。まぁ、莉乃と手を繋いで登校した俺が悪いのだが……。


「何だ? そのわざとらしい会話は……」


 席は自由なようだ。余裕を持って登校したため、窓側の席が空いている。

 友人二人に対し、目を細めて牽制けんせいしつつ、席に着くと、


「へっへっへ……誰だよ。あのお胸の大きな女の子は?」


「ぐへへっ……勇希くんも隅に置けませんなぁ」


 二人が詰め寄ってくる――面倒臭い。

 似たような名前のクセに背丈まで同じで、顔まで似ている。


 もう、双子でいいだろう。それとも、世紀末の住人なのか?

 ユーはショック!


「主婦から急にゲスっぽくなるのを止めろ――気持ち悪い」


 止めろと言って、止めてくれるのなら苦労はしない。案の上、


「何だよぉ、彼女持ちは余裕ですなぁ」


「ホント――自分は気持ちいいことして貰ってるクセに……」


「どーせ、コイツは気持ち悪いですよ」


「あれ? そこは――オレたち――じゃないのかよ……何でオレだけ?」


 コントを始めた。


 正直、付き合えるモノなら、付き合いたいのだが――生憎、どうやって付き合ったらいいのか分からない。


 そもそも、莉乃は俺が女性に興味ないと思っているので、まずはその思い込みをどうにかするのが先だ――いや、今は莉乃の心配が先だ。


 転校初日で、付き合っていない男子とそういう噂になるのは迷惑だろう。

 手を繋いだのも、彼女の足がすくんだからだ。


「俺を揶揄からかうのはいいが、り……春野さんの前では止めろよ」


 そんな俺の忠告に、


「へぇー、春野ちゃんって言うんだぁ……」


「下の名前は何だよ。教えろよ」


「ヒャッハー、種籾寄越せ!」


「猶更その種籾を食いたくなったぜ!」


「止めろ――お前ら、くすぐるな!」


 二人して、ヤケにテンションが高いな。

 春休みは忙しいと言って、会うのを断っていた所為せいだろうか?


 男だけで花見をしても仕方ない――と言っていたのはコイツ等の筈だが……。


「莉乃さん――って、いったかしら?」


 いつの間に現れたのだろう。声を掛けて来たのは『真夏まなつ真由まゆ』だった。

 突然、男子の会話に入ってくるとは――


「げっ――真夏……」


「式衛……キミって奴は相変わらず、ボクに対して失礼だよね……」


 腰に手を当て、困った表情でそう言った後、


「あの話、皆にしてもいいのかな?」


 と耳打ちされた。ぐぬぬ――確かに困る。

 いや、俺も困るのだが、莉乃が可哀想だ。


「分かった。真夏が憧れの先輩と上手く行くよう尽力――」


「わーっ! ちょ、ちょっとぉ――ストップ! ストォォーーップ!」


 真夏が慌てて俺の口をふさぐ。

 植田と梅田がその様子を見て、ヒソヒソと会話を始める。


「あらあら、浮気かしら?」「浮気だわぁ、これだから男の人って――」


 だから、その演技――


「気持ち悪いから止めろ!」


 一方で、


「な、何で……その事を――」


 顔を真っ赤にしつつも、真夏が耳打ちで聞いてくるので、


「いや……一応、俺も同じ部活だろ(あまり顔は出さないけど)――で、頼みたいことがあると言われて、俺とお前の共通点から推測してみた」


 確か――憧れの先輩が居るので、この高校に入った――と最初に会った頃、言っていたのを聞いた記憶がある。


 つまりは、部活の先輩の誰かだろう――と直ぐに推測出来た。


「キミ、意外に周りを見ているんだね。実は頭良かったんだ?」


「お前も大概だな」


 俺たちは互いににらみ合った後、


「ハハハハハ」「フフフフフ」


 と笑い合った。その様子を見て、植田と梅田の二人は戦慄せんりつしたという。

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