第15話 転校生で遊ばないで


 始業式が終わり、教室に戻ってきた俺達は、担任からの挨拶を待っていた。


 今の時間は二年生である俺達と入れ替わる形で、三年生の先輩達が始業式を行っている筈だ。その後は、教科書の販売となる。


(莉乃の分も購入する必要があるかな……)


 新しい担任は『兎尾羽とびはね瑠奈るな』という女性の教師で、生徒には人気があるようだ。

 確かに美人ではある。クラスの連中(特に男子)は喜んでいた。


 しかし、彼氏がいるらしく――その話を聞いた途端、男子のテンションが下がった。逆に女子は盛り上がる。


 俺としては、莉乃も同じクラスと聞いていたので――担任が女性で良かった――と素直に思っていた。


 先生の自己紹介が終わった所で、転校生である莉乃の紹介だ。

 当然、男子は――女子が転校してきた――ということで、再びテンションが……。


 ――上がらない?


「何だ、式衛の彼女かよ……」「彼氏持ちの女子に興味はありません!」

「どうせなら、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者だったら良かったのに――」

「そんな人が居たのなら、私の所に連れて来てよ」


 ――以上。


 可笑しいな? 俺の想像していた展開と違う。

 魔法以上の愉快が限りなく降り注ぐと思っていたのだが、不可能なようだ。


 そんな微妙な空気の中、先生に呼ばれ、莉乃が教室に入って来た。

 こんなに可愛い女の子が現れて、そんな薄い反応とは――何だコイツ等。


 ――いや、今は莉乃の心配だ。


 案の上、緊張して……いや、男子の視線を意識しているのか?


「……っ」


 自己紹介をする筈が上手く話せないようだ。

 仕方が無いので、俺が代わりに自己紹介をしよう。


 ――莉乃が自己紹介をしないんだったら、自分ですればいいのよ!


「式衛勇希です。趣味は『料理』。特技は『家事全般』です」


 お前じゃねぇーよ――と男子からブーイングの嵐。

 式衛サイテー――とは女子だ。


 ――くっ……キツイ一年になりそうだ。


(いや、クラス替えが無いため、三年も一緒だから……)


 ――キツイ高校生活になりそうだ。


 先生は困った表情を浮かべていたが、莉乃から事情は聴いているのだろう。

 特に注意されるようなことは無さそうだ。


 一方、莉乃の方は、俺がクラスの連中から集中砲火を受けているのを見て――何とかしなくちゃ――とパニックになっているようだ。


 俺は予め決めていた合図を送る。

 右目の下の辺りを指で四回触れる――というモノだ。


 ――テル。


 いや、意味は教えていない。俺が勝手に作った合図だ。

 莉乃は気が付いたのか、唇の下の辺りを指で触れた。


 ――ワカリマシタ。


 という意味だ。二人の間にだけ伝わるそれは、何とも気恥ずかしい。

 だが、その結果、莉乃は少しは落ち着いたようだ。


「ええと、彼女は春野莉乃さん。一身上の都合により、今日からこのクラスで皆さんと一緒に学ぶことになります」


 空気を読んだのか、兎尾羽先生が代わりに声を上げた。


「皆さん、仲良くしてあげてね――では、席は……」


「はい、式衛の膝の上が空いてます!」


 と植田。透かさず、俺にサムズアップする。


 ――グッジョブ! オレ――とでも思っているのだろうか?


 全然、グッジョブではない。むしろ、公開処刑だ。


「はいはい、転校生で遊ばないで――」


 と先生。だが、


「でも、そうね――転校して来たばかりだし、悪いけれど……植田くん? 今日は春野さんと席を代わってあげて」


 臨機応変に対応する。


「へーい」


 元々、席は決まっていない。

 植田は適当な返事をすると空いている席へと移動した。その際、


「先生に名前、憶えられたぜ」


 とささやく。


 ――悪い意味でな。


 心の中で俺は呟いた。


「あ、あの、ユーキくん……よろしくです」


 と莉乃。何を改まっているのやら――だが、恥ずかしそうな表情もまた可愛い。


「春野さん、嬉しそうな所悪いけれど、学級委員を決めたら、直ぐに席替えをして貰うからね」


「は、はひっ」


 先生の言葉に、莉乃はビクンっと反応する。

 その様子が面白かったのか、クラスから笑い声がこぼれる。


 この後は、出席番号順に自己紹介が始まる。残念ながら、俺の紹介は無い。

 莉乃は皆の顔と名前を覚えようと一生懸命だ。


 ――偉いな。


 と感心する。それが終わると、先生がこの後の予定を説明する。

 莉乃の様子から、またパニックになりそうだ。


(やはり、教科書は俺が購入した方が良さそうだな……)


 莉乃の選択科目を確認しておこう。

 残りの時間で、先生は一年間のスケジュールを簡単に説明した。


 うちの高校は二年生の秋に修学旅行があるため、その話題で再び全員のテンションが上がった。


 俺としては、姉さんは兎も角、雛子を放って置くのは心配だ。

 莉乃はというと――元気が無い。恐らく、場所が北海道というのが原因だろう。


「莉乃、大丈夫か?」


 俺が訊くと――

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