処方1.では、ヒロイン出しておきますね。

第9話 覚悟してくださいね!


「ヒ、ヒ、ヒ、ヒナコちゃん」


 どういうことでしょう。上手く話せません!

 ユーキくんと会ってから、こんなことばかりです。


「どうした。リノ?」


 首を傾げるヒナコちゃん。心配させてしまったでしょうか?

 でも、どういう訳か、自分で自分を制御コントロールできないのです。


 今もお店の中だというのにこのざまです。

 恥ずかしい限りです。


「た、た、た、『大切な人』と言われてしまいました」


 顔が真っ赤になっているのが自分でも分かります。

 そのまま、足に力が入らず、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまいました。


 店員さんも困っていますが、どうしようもありません。


 男の人は皆、わたしの事を『牛女』とか、『おっぱい、絞ってやろうか』とか、変なことしか言いません。


 勿論、ユーキくんも男の子です。

 漫画やアニメには胸の大きな女の子も多い筈。


 もしかしたら、内心では興味津々かも知れません。


 ――だったら嬉しいのですが……。


 いえ、何でもありません。兎に角、アニメオタクという事だけではなく、他の男子と何処か違う気がします。


 彼らときたら、わたしの足が太い事を気にしているのに、『莉乃の足みたいな大根が取れた』と平気でバカにしてきます。


 それは確かに大根ですが『砂糖大根ビート』です!


 ――男子最低です!


「落ち着け、リノ」


 とヒナコちゃん。少し意識が飛んでいたようです。恥ずかしい……。


「む、無理です。はわわわわ~」


「理由を聞こう」


 わたしが立てないことを心配して、ヒナコちゃんがしゃがんでくれました。

 優しいです。それにお人形さんのように可愛らしい。

 こういう女の子の方が、ユーキくんには相応しいのかも知れません。


「さっきから、顔が赤くなったり、青くなったり、忙しいな……」


「す、すみません。実はわたし、ユーキくんのことが『好き』なのかも知れません」


「え? 知っているが……」


 ヒナコちゃんは――何を今更――といった表情をしました。


「はわわわわっ! ど、どうして……」


 で、では――ユーキくんにもバレバレでしたでしょうか⁉ 大変です!


「まあ、落ち着け。店に迷惑だ。まずは立とう――な?」


「はい。店員さんもすみません。迷惑をお掛けしました」


 店員さんは――いえいえ――と言ってくれました。

 わたしはヒナコちゃんに手を引かれ、一度、お店の奥の方に移動します。


「で、ヒナコちゃん。どうして、わたしがユーキくんのことを好きだと……会ったのは昨日が初めてですよ?」


「いや、普通……どうでもいいヤツと下着を買いに来ない」


 はわっ! 正論です。確かに――それは盲点でした。

 ユーキくんが喜ぶと聞いて、それだけで浮かれていました。


「ヒナコちゃんは頭がいいですね」


「良く言われる」


 ヒナコちゃんは――エッヘン――と得意げな様子。可愛いです。


「はう~、でも……これではユーキくんに嫌われてしまったかも知れません」


 ヒナコちゃんが首を傾げました。やはり可愛らしい動作です。

 それに比べ、わたしは『おっぱい』がデカいだけの女――

 やはり、ユーキくんには迷惑でしょうか?


 折角、サクヤさんが遣り直す機会チャンスをくれたというに――


 わたしのことを知っている人がいない場所での学生生活。

 最初は怖かったですが、ユーキくんが居てくれる。

 不思議とそれだけで、頑張れる気がします。


何故なぜそう思うのかは分からないが、兄さんは――いや、そうだな……うん、では兄さんの下半身に聞いてみる――というのはどうだろう?」


 下半身に聞く――言っている意味は良く分かりませんが、ヒナコちゃんが言うのであれば間違いないでしょう。


 下半身に聞くことにしましょう。


「ぐ、具体的にはどうすれば……」


 あまりにも常識にうといわたしですが、ヒナコちゃんが耳打ちで、丁寧に教えてくれました。


「え、オフロで背中を……」


 更に、


「一緒の布団で……」


 でも、そんなの恥ずかしいです。

 顔に出ていたのでしょうか? ヒナコちゃんは、ポンとわたしの肩を叩くと、


「問題ない。あたしも一緒のお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たり、BL小説を買いに行かせたこともある――アニメじゃない、普通の事さ」


 そういうモノなんですね。どうやら常識という眼鏡では覗けやしないようです。

 やはり、都会は進んでいます。


「それが兄さんのためでもある。このままだと女性に興味が持てず、一生独身でアニメばかり見て過ごすだけの大人になってしまう」


 ――それはそれで素敵な世界だ。


 ヒナコちゃんはそう付け加えましたが――それではいけない――と思います。

 アニメじゃない、不思議な気持ちです。


「分かりました。帰ったらサクヤさんに相談して、早速実践です!」


「うむ、頑張れ」


「はい」


 決断すると行動は早い方です。

 まずは下着を購入して、外で待っているユーキくんと合流です。


 年頃の男子は――こういう場所に来るのを嫌がる――と聞いていたのですが、我慢して一緒に下着を選んでくれました。


 それも、日曜朝の女児向けアニメを見ずに――


 わたしのために、そこまでしてくれるユーキくん――その思いに応えるためにも頑張りましょう。夢を忘れた古い地球人ではいられません。


「あ、ユーキくん。お待たせしました。覚悟してくださいね!」


「え? 何……」


 おや、ユーキくんを驚かせてしまったようです。

 何か失敗してしまったのでしょうか?


「おい、雛子。どんな下着買ったんだ⁉ 何でニヤニヤしている。おい、雛子?」


 何やら、ユーキくんはヒナコちゃんとお話しているようです。

 二人は本当に仲が良いですね。やはり、少し羨ましいです。

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