第7話 アイツら無敵か?


「すみません……やはり、アニメショップから回るのでしょうか?」


「無論」


 ――違うよ。


 春野さんからの俺への質問に対し、何故か雛子が答える。

 というか、アニメオタクの設定があったのをすっかり忘れていた。


 何故か彼女の中では――アニメオタクである俺は現実の女性に興味が無いから安心だ――という思い込みが成立している。


 雛子には既に理由を話しているので、協力はしてくれるだろうが――


(問題は学校だな……)


 ――まぁ、なるようにしかならない。


「先ずは、春野さんが生活するのに必要な日用品から見て周ろう……人混みは苦手だったよね?」


「兄さん、あたしも苦手だ」


 雛子が挙手する。胸を張って言うことではないが、今日は機嫌がいいらしい。

 いつもは無理矢理にでも外に連れ出しているので、いい傾向だ。


「そうだったな……ごめん。ゆっくり、見て周ろうか?」


「はい」「うむ」


 俺たちはホームセンターや雑貨屋を見て回った。

 


 ▼    ▽    ▼



「で――何故に下着屋?」


 ランジェリーショップといった方がいいのだろうか?――いや、そうではない。

 確かに下着は必要だけど、俺は要らないだろう。


「はい、サクヤさんからの指示です。いきなり女性に興味を持つのは無理なので、まずは下着に興味を持っていただく作戦です!」


 ――うん、可笑しいよね。


 気が付いて欲しい――それでは、ただの変態だ!

 雛子が笑いをこらえている。


「兄さん、頑張って―――プフーッ」


 ――さてはコイツも知っていたな……。


 どうやら全員、姉さんと共謀ぐるのようだ。


「はい、わたしとヒナコちゃんに似合う下着を選んでください!」


 うん、往来で言う台詞じゃないな。何人かがこっちを振り向いたぞ。

 そして何故、雛子のも選ぶ必要があるんだ?


「兄さん、『セクシー』なのを頼むよ」


 コイツ、調子に乗りやがって――

 『セクシー』とは無縁な存在だろう。お子様パンツで十分だ。


「さあ、荷物は店員さんに預かって貰って、行きましょう! 大丈夫です。お金はサクヤさんから頂いています」


 と春野さん。何で、そんなにやる気なのだろう。

 まぁ、姉さんが何か吹き込んだのだろうけど――


「わたしがお役に立てることは、こんなことぐらいですから――」


 春野さんがグッとガッツポーズをした。


 健気だ――いや、出来る事は他に沢山ある。

 落ち着いて考えて欲しい。現実を見てくれ……。


 ここで逃げ出したい所だが、男性恐怖症の春野さんと引き籠りニート予備群の雛子を置いて行く訳には行かない。


 そんなことをした場合、事件に発展する未来しか見えない。

 待て、慌てるな、これは孔明の罠だ!――いや、姉さんの罠だ。


「分かったよ」


 というか、春野さんに合うサイズがあるのかは分からないので、先ずは店員さんに測って貰うのが先だろう。


 彼女のサイズなら、嫌でも制服から透けてしまう筈だ。

 何か対策も必要だろう。


 雛子には、こういった下着は早い気もするが、背伸びしたい年頃なのかも知れない。年上の男性に下着を選んで貰った――というのも、一種のステータスになるのだろうか?


 あたし、大学生の彼氏が居るの、今日も車で迎えに来てくれるって、じゃあね……みたいな感じか?――いや、雛子の場合、犯罪のにおいしかしない。


 そんな事を考えている間に、測定も終わる。


「大変です。また、大きくなっていました」


 春野さんが態々わざわざ言いに来る。そんな報告、今は要らない。

 他の女性客の視線が痛い。早く帰りたい。


 しかし、二人は際疾きわどい下着のあるコーナーの方へと移動して行く。

 店員さん、止めてください! どう見ても、二人には絶対必要ないでしょ!


「リノ、これは本当にブラジャーなのか? 帽子じゃないのか?」


「ヒナコちゃん、被っちゃダメですよ。あ、ユーキくん、わたしにも合うサイズがあります。こっちです」


 と春野さんが手を振る。


 ――畜生、アイツら無敵か? 無敵鋼人なのか? 大胆にも程がある。


 アニメオタクになったばかりに、こんな目に合うなんて――どうか、知っている奴に会いませんように……。


「ユ、ユーキくん……や、やはり、わたしみたいな女の子には、こういったお洒落な物は似合わないでしょうか? それとも大きいのは……お、お嫌いですか?」


 しゅん、と落ち込む春野さん。

 雛子と店員さんが――コイツ最低だな――みたいな目で俺を見てくる。


「そんなことないよ! 春野さんが可愛いから、どれも似合うと思って、迷っていただけさ!」


「ホントですか⁉」


 春野さんが――にぱっ――と笑顔になる。

 どうやら、俺も本気を見せる時が来たようだ。


 だが、そこへ――


「あれ、式衛?」


 聞き覚えのある声に――俺は恐る恐る、後ろを振り返る。

 そこに居たのは、同学年の女子『真夏まなつ真由まゆ』だった。

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