第3話 俺って『変』なのか?


 ――俺って『変』なのか?


 否定できない自分が居る。


「あっ、いえ、そういう意味ではなくて――わたしの地元――北海道では、周りにいた男の子たちはもっと、自分勝手といいますか……乱暴といいますか……」


「それはきっと、春野さんが可愛いからだね」


「あ、可愛い⁉」


 彼女は再び顔を赤くすると――とんでもない――と左右に首を振った。

 謙遜けんそんしている訳では無いようだ。普通に照れている。


「じゃ、そいつ等は見る目が無いんだよ。可愛い女の子には優しくするし、世話を焼きたくなるものさ――春野さんは可愛いよ」


「は、はわわわ~(////)」


 ――おっと、調子に乗り過ぎたかも知れない。


 俺としては思ったことを言っただけなのだが、軽い奴だと思われただろうか?


「ゴメンね。忘れて――俺って、気が利かない所があるから……」


「い、いえ、男の子に『可愛い』と言われたのは初めてでしたので……ああ、近所のお爺ちゃん、お祖母ちゃんからは――めんこい――とよく言われていましたよ」


(めんこい? ああ、『可愛い』って意味か……)


 ――今度、使ってみよう。


 凄く可愛いは――『なまらめんこい』――でいいのだろうか?


「へぇー……あ、そうだ――もう少しで大きな駅に着くから、何かあったら直ぐに言ってね」


「はい……きゃっ!」


 ――ガタンッ。


 電車が揺れた。バランスを崩したのか、春野さんがよろけたので受け止める。


 ――むにゅ。


 着痩きやせするタイプなのだろうか?

 見た目よりも少し、肉付きがいいようだ。

 微かに花のような甘い香りがする。


「大丈夫?」


「ひゃ、ひゃい」


 ひゃい? 春野さんは慌てて俺から離れた。

 嫌われたかな?――いや、恥ずかしがっているだけか……。


「す、すみません――あの、わたし、その、重たく……」


「いや、全然気にならないよ。むしろ、軽いくらいだと思ったけど……それより、春野さんを助けることが出来て、得した気分だよ」


「はわわわっ――い、色々あって、わたしの容量が……限界です。ご、ごめんさい」


「いいよ、謝らなくて――今のは役得ってヤツだしね」


 春野さんはうつむいてしまった。余程、自分に自信が無いのだろうか?


「自信を持って、春野さんは凄く可愛くて、魅力的な女の子だよ」


「はわわわっ! あの、あのっ」


「――取り敢えず、何処かに掴まった方がいいね」


「はい……(////)」


 春野さんは手摺に掴まると、それきりうつむいたまま黙り込んでしまった。


 ――少し、遣り過ぎただろうか?


 こういうところが――気が利かない――と言われる所以ゆえんなのだろう。


 姉の教育方針で女性に対しては、今みたいな態度で接するのが当たり前になっていたのだが――最近、どうにも可笑しいことに気が付いた。


 自重じちょうした方がいいのかも知れない。


 ――次からは気を付けよう。


「ごめんね、変なことばかり言って――」


 まずは謝罪をする。


「いえ、いいんです! むしろ、もっと言ってくださ――いえ、あの(きょろきょろ)……や、やっぱり、東京は人が多いんですね!」


 そう言って、春野さんは窓の外に視線を向けた。

 電車初心者に、『池袋』経由は辛かっただろうか?


「『大宮』は埼玉だけどね……」


「でもでも、埼玉県民の方は――ほぼ東京――と言っていましたよ?」


「千葉県と埼玉県の人間は、良く地元のことをそう言うんだよ。埼玉県民の場合は『大宮』の他に『浦和』のことも――ほぼ東京――て言っているらしいね」


「そうなんですね? でも、何のためにそんなことを……」


「さぁ、考えたことも無かった……今度、友達に聞いておくよ」


 そんな他愛もない会話で終わる筈だったのだが――


「でも、ユーキくんは想像していたより、ずっと優しくてカッコイイので驚きました」


「そうかな?」


 意外に高評価だったようだ。正直、照れてしまう。

 ニヤニヤが止まらないので、口元を手で押さえる。


「はい! サクヤさんからは――重度の『アニメオタク』で、現実の女性にはまったく興味を示さない――と聞いていました。わたしなんかで申し訳ありませんが、もっと練習して、女の子と普通に話せるようになりましょうね!」


 彼女はそう言って、屈託の無い笑みを浮かべた。


「わたしと一緒に、もっと現実の女の子への『愛』を知って行きましょう!」


 ――何ですと⁉

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