症例1.気が付くとアニメオタクになっていた!

第2話 やっと見付けた!


「――やっと見付けた!」


 春休み初日――折角の土曜日だというのに、俺は朝から姉の言い付けで『大宮』の駅まで出向き、人を探していた。


 運良く(?)キャリーケースを片手に、挙動不審な動きの少女を見付けることが出来たので――声を掛けた――という訳だ。


(突然のことに、驚かせてしまっただろうか?)


 少女は大きな瞳をパチクリさせる。

 写真で見たよりも、ずっと可愛らしい少女だった。


「ひっ! あ、あの⁉ 人違い……では?」


 どうやら、危ない人だと思われているようだ。

 俺はスマホを操作すると、姉の写真を見せた。


「キミ、『春野はるの莉乃りの』さんだよね?――これ、俺の姉さん」


「あっ、サクヤさん――ではアナタが……」


 少女はそう言って、上から下まで、俺をじっくりと観察する。


「聞いていたイメージより、ずっとカッコイイです……」


 何やら小声で呟いたので


「ごめん……何か言った?」


 と聞いてみる。すると、少女は慌てて首を横に振り、


「な、何でもありません! わ、忘れてください!」


 と顔を真っ赤にして言った。


 ――声や仕草も可愛い。


 本当にあの悪魔――いや、姉さんの関係者なのだろうか?


 何だか、放って置けないタイプの女の子だ。

 なるべく、自然な感じで笑顔を作ると俺は自己紹介をした。


「俺は『式衛しきもり勇希ゆうき』――よろしくね! おっと……」


 後ろから来た人にぶつかられてしまった。


 ――ドンッ。


 壁に手を突き、何とか彼女との衝突を防ぐ。

 だが不覚にも、彼女――春野さんを壁に押し付けるような形になってしまう。


 少しクセのある長い髪に、微かに汗を掻いた額。大きく澄んだ魅力的な瞳――そして、小さなピンク色の唇。


 正直、こんなに近くで異性を感じたのは初めてだった。

 思わず、息を呑む。


 ――春野さんも同じだったのだろうか?


「は、はう~っ(////)」


 顔を真っ赤にし、目を回している様子だ。


「悪いっ!」


 なるべく平静を装って、俺は彼女から離れる。


「い、いえ! わ、わたしも急だったモノで、必要以上におど、驚いてしまい――」


 何やら慌てふためいている。

 その様子が微笑ましくて、ついつい笑みを浮かべてしまいそうになったが、


「ここは人が多い。移動しようか?」


 俺は彼女の手を取り、キャリーケースに手を掛けた。


(重い……)


 ズシリ――としたキャリーケースの感覚に驚きつつも、


「あ~、疲れていたら……何処か、お店に入るけど――どうする?」


 と付け加える。


 彼女は――北海道から一人で新幹線に乗って来た――と聞いている。

 初めての場所にたった一人で来たのだ。


 もう少し気を遣うべきだっただろうか? だが――


「い、いえ、大丈夫です! 新幹線ではずっと座っていたので、身体を動かしたいくらいです!」


 と歩き出す。少しテンパっているのか、ぎこちないカクカクとした動きだ。

 失笑しそうになるのをこらえ、


「分かった。電車に乗ろうか?」


 俺はそう言うと、券売機の方へ移動する。一旦、彼女の手を離し、キャリーケースを返すと――待っていて――と告げる。


 そして、必要な切符を購入し、それを彼女に渡した。


「使い方は大丈夫?」


 俺はそう言って、再び、彼女のキャリーケースを手に取る。


(やっぱり、重い……)


「切符専用の改札口があるから、一緒に行こう」


「はいっ――あ、その、ありがとうございます……」


 彼女はそう言って、大人しく俺の後を付いてくる。

 エレベーターを使い、駅のホームへ出ると丁度、電車がきた。

 素早くメールで姉に合流出来たことを連絡すると、その電車に乗り込んだ。


「座る?」


「い、いえ、大丈夫です……」


「じゃ、鞄……棚に上げるから、貸して――ああ、切符は無くさないようね」


「はい」


 そう言って、俺は彼女の旅行鞄を棚に上げた。


「そうだ⁉ 危ないから、吊り革に掴まった方がいいよ」


「分かりました……あの、ユーキくんは座らないのですか?」


「あはは、女の子を立たせて、自分だけ座るとかって『変』じゃない?」


「はい、ユーキくんは『変』です」


 随分、ストレートに言ってくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る