アニメオタクになることがこんなにも大変なこと​だったなんて!

神霊刃シン

CASE1. 春野莉乃の場合

プロローグ

第1話 油断していた!


 ――油断していた!


 というよりも……誰が予想出来ただろうか。

 同居している同年代の女の子が、入浴中に乱入して来るなんて⁉


 落ち着こう、彼女は水着姿だ――いや、無理だろ!


「あ、あの! わ、わた、わたしが……お、お背中を流します⁉」


 そう言って――カーッ――と顔を真っ赤にする彼女。

 北国育ち特有の白い肌が、見る見るうちに色を変えて行く。


(そんなに恥ずかしいのなら、やらなければいいのに……)


 いや、どう考えても姉の差し金だろう。

 大きく澄んだ瞳は涙ぐみ、長く綺麗な髪は濡れても良いようにまとめられている。


 彼女に良く似合う桃色のビキニだったが、そのサイズは小さいようで、瑞々しく肉感たっぷりの乳房が完全にはみ出していた。


 ――どうしよう?


 俺は彼女の身体から、目を離すことが出来なくなっていた。


 彼女の名前は『春野はるの莉乃りの』。

 明日から一緒に、同じ高校へ通うことになる女の子だ。


 男性恐怖症を直すため、地元北海道を離れ、知り合いの居ない俺の家で面倒を見る事になった。


 どうにも、悪魔――いや、姉の友達の妹らしい。

 健全な男子である俺が家に居るというのに、何を考えているのやら……。


 いや、単に俺を使って遊んでいるのだろう。

 俺と彼女の人生をいったい何だと思っているのか……。


「あ、あの、で、出て来てくれないと、そ、その、洗えません!」


 ぷるん……豊満な乳房が揺れる。

 思わず、零れてしまうのではないかと心配になる程だ。


 ――大きいのは分かっていたが、これ程とは……。


 風呂に入っているのは俺の方だというのに、彼女の方が汗ばんでいる。


「いや、莉乃が居るから出られない訳で……タオルか、何か穿く物を――」


(不味いな――俺も十分、テンパっている)


 それもその筈だ――多少天然で思い込みの激しい所もあるが、可愛くて素直な彼女に俺は惹かれていた。


 そんな彼女の裸同然のような姿を前に、平常心で居られる訳がない。


 莉乃は何故か洗面器を渡してきた。


 ――これで隠せということか……。


 そんなお笑いの人みたいな真似、俺にできるのか⁉


「はっ⁉ 分かりました……わたしが浴槽に入ればいいのですね」


 ――いや、分かってないよ。何も分かってない!


「で、出て行ってくれ! そしたら、解決するから……」


「だ、大丈夫です! さ、サクヤさんが、目を瞑っていれば、すべてユーキくんがしてくれると言っていました。そ、それで男性恐怖症なんて直ぐに治るそうです!」


(あの悪魔――いや、姉さん……何てことを――)


「ね、姉さんの言う事は真に受けなくていいから、自分を大切にしよう!」


 っていうか……いけない――のぼせて来た。


「わたし、ユーキくんのこと信じてます!」


 ――ぷちっ。


「いや、こういう時は男を信じちゃダメだか――ら……」


 ――はらりっ。


 やはり、サイズが小さかったようだ。

 いや、最初から仕組まれていた可能性もある。


 ビキニのヒモが切れ、上の水着が落ちた。

 湯気や謎の光は何処どこに行ったのだろうか?


 ぷるるんるん……豊満な乳房が零れ落ちる。

 その巨大さにも関わらず、形は崩れていない。色も綺麗だ。


 だが大きいというのは、それだけで卑猥ひわいなものだ。

 可愛らしい彼女の顔とのギャップが強烈だった。


「はわわわっ!」


 驚いたのはこっちの方だ。いや、それよりも、莉乃は悲鳴を上げる訳でもなく、そのまま――きゅー――と気を失うように倒れてしまった。


 このままでは、倒れた拍子に頭をぶつけてしまう――俺はそう思って、慌てて浴槽から飛び出し、彼女を受け止めた。


 柔らかい、可愛い、そして――大きい!


 バクバクと心臓の鼓動が早くなるのが分かる。

 心臓ってこんなにも大きい音がするものなのか……。


 ――どうやらこれは、のぼせたのが理由では無いようだ。


「せ、成功です!」


 莉乃はそう言って、遣り遂げた表情かおで気を失った。


 ――いや、目的は背中を流すことで、俺を浴槽から出すことでは無い筈だ。


 この状況で、俺にどうしろと言うのか……。

 取り敢えず、その大きな双丘から目を離すことが出来ない。


「クソッ、もう――」


 俺はヤケになり、莉乃をそっと寝かせる。

 そして、飛び出すように洗面所へ行き、タオルを取り、莉乃に投げ付ける。


 隠すことには成功したが、タオル越しでも良く分かる、ぷっくりとした突起物の膨らみが余計にエロい感じになってしまった。


 ――平常心、平常心だ。


 莉乃をお姫様抱っこで抱えると、リビングのソファーへと運び、そのまま、ゆっくりと寝かせる。


 ――風邪を引くといけない。


 何か着せた方がいいだろう。俺のためにも……。


「ちょっと、いつの間に、そんな立派になって……」


 姉さん居たのか――いや、それよりも、俺の下半身を見て言うのは止めてくれ。


「に、兄さん! 男の人のって……そうなるんだ」


 隣の家の幼馴染である雛子ひなこまで――だから、まじまじと見るのは止めて欲しい。


「居たのなら聞こえていただろうが! 助けてくれよ! もうっ――」


 俺は慌てて風呂場に戻った。

 まったく、今更になって後悔する。


 アニメオタクになることがこんなにも大変なことだったなんて!

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