第4話

メッセージで午後から集まれないかと送ると、すぐに返事が来た。場所はいつも先輩と来るカラオケを指定された。問題ないと返事をして俺は軽くノビをしてゆっくりと準備を始めた。


店の前に時間より少し早めにつき、先輩を待っていると少し遅れて先輩がやってきた。


「ごめんなさい。出る前にお父さんに呼び止められちゃって」


「大丈夫です。呼び出したのはこっちですし」


じゃあ入ろうかと先輩に手を引かれカラオケに入店する。早速だが、本題を切り出す。


「先輩が犯人ですよね。学校の」


「そうだけど?」


先輩は何を当たり前のことをと言った様子で軽く首をかしげる。

さらりと垂れる黒髪と少しあどけない態度と整った顔立ち。間違いなく美人の部類入る彼女は人殺しだった。


「依頼があったの。200万で2人。学内でなるべく多くの人に知られて見られるようにしてほしいって。安い仕事だったけど、私なら学校に入るのもカンタンだから。それに、前にあの二人宮沢君にちょっかい掛けてたらしいじゃない。そんな縁もあったしちょうどいいかなって」


「わざわざ袋に詰めたのは何でですか? 別につき落として殺してもいいでしょう? それに突き落とさなくても教室でとか」


「袋に詰めたのはそれぞれ落とすの面倒だったから。知ってると思うけど、飛び降り自殺って意外と死ねないのよ? あの高さならもしかしたら死なない可能性あるし、学校内だとちょっとね。ほらその教室で授業受けにくくないかしら?人が二人死んでた教室なんて。昇降口前なら人通りも多いし外だから掃除もしやすいかと思って。バラバラ死体が袋に詰められて落ちてくるってシチュエーションなら幽霊とか祟りとか噂もたたないじゃない?」


自殺に見せかけるならともかく明らかに他殺なら捜査が行われないわけがない。

が、先輩の所属している集団はこの街の中であればかなり影響力もあるらしく、警察内にも協力者がいるらしい。既にこの件の捜査は形だけで、数年後に適当に殺した人間に罪をかぶせる算段は付いているという事だ。

それなりの権力を持っている団体も先輩たちの集団の手を借りているからギブアンドテイクな関係という事だろう。


「まぁいいじゃない。せっかくカラオケに来たんだから歌いましょうよ」


先輩は曲入れて歌いだした。流行りのJPOPだ。何となくテレビで聞いたことがある気がする。

こうして遊んでいる姿を見ると普通の学生だが先輩は所謂殺し屋だ。依頼を受けて相手を処理して報酬を得る仕事をしているのだから殺し屋と言って差し支えないだろう。

歌を歌い終えると先輩は歌わないのかと聞いてきたが気分じゃないと答え、空になったグラスに飲み物を注ぐため部屋を出た。


ドリンクバーでジュースを注ぎながら、先輩に告白されたときのことを思い出す。特に代わり映えもしない日常に嫌気がさして、ああこれがあと3年続くのかと憂鬱になり、フラッと屋上に向かうとたまたま鍵が開いていて屋上に足を踏み入れたのだ。

将来の事を考えるのも、これから何か目標を見つけて努力するのも面倒だと思っていたし、ちょうどいい機会だから飛び降りて死のうかと思い柵を超えようとすると先輩に声をかけられた。


「君、そこから飛ぶの?」


「ええ、まぁ……飛ぶってよりかは落ちるって感じでしょうけど」


「なんで?」


「特にないけど、将来とか色々面倒なんで。せっかく屋上空いてたしちょうどいいかなぁと」


「そっか、じゃあ私と付き合おうよ」


 まったく意味が分からなかった。


「……なぜ? 同情ですか?」


「ちがうよ。私に殺させてほしいの。私が君を一番きれいに殺してあげられると思うから。一緒に死に方を相談して、その通りに私が殺してあげる。それまで付き合おうって話。それにそこから落ちても死ねないよ?その下教師用の出入口前で屋根あるから、ちょっと高さが足りないと思う。思いっきり飛んでその先に落ちるとか別のとこから落ちても運が悪いと死ねないかも?」


先輩はどうかなと笑顔で問いかけてきた。確かに外を見ると屋根がありここからだと少し地面から近かった。そこまで運動神経がいいわけでもないので、その先に飛ぶのも難しい。


「飛び降りて死ねないと結構痛いらしいよ。それに病院で中途半端に治されたら最悪。だったら睡眠薬とかで寝てると所をこう、ぐさーっと一突きした方が確実だよ」


なんでそんなに詳しいんですか? と聞きたくなった。そういうジャンルのものにはまってしまっているイタイ人なのだろうかと思った。

だが、俺には告白と死に方のレクチャーがとても誠実に感じた。別に死ぬ身なのだから先輩の暇つぶしに付き合ってもう少しだけ生きてもいいだろう。

こんな俺が誰かの役に立てるならそれもいいだろう。


「……名前を聞いても? 付き合う相手というか、殺される相手の名前くらいは憶えておきたいので」


「私は、黒野京子。私は私と付き合って、それで一番きれいな死に方をしよう」


それから先輩の仕事を知った。先輩は今はきれいに殺すのは練習中だから確実に上手に人生で一番きれいな方法で殺せるようになったら殺してあげると俺に言った。

だから俺は先輩に殺されるその日まで彼女に付き合うことにした。

俺が彼女に殺されるのはいつか分からないが、注文は一つだけだった。


――高い所から落としてほしい。

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落ちるのを待つ間。 さめねこ @same_dog

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