5.焦燥

 朝霧の中、いつものようにシエロはベベルの家へ向かっていた。

 滅多に鳴かないイグニスがしきりに鳴いている。


 現れるベベル。

「あら。こんにちは」

 その時、シエロの背後で何者かが角笛を吹くと、木々の陰に隠れていた男たちがシエロたちを囲みこむと、男がベベルに告げた。

「お前が魔女だな。村へ連行する」

「何の御用かしら?」

 問いかけるベベルを遮り男は続けた。

「従わなければこの少女を火にかけることになる」

 表情がこわばるベベル。シエロは不安な顔でベベルを見つめた。

『大丈夫』

 ベベルは、片目を閉じてシエロに微笑みかけた。


 男たちをかき分けて教会のシスターが前に出てきて言った。

「悪魔信仰の罪により、あなたを連行いたします」


 遠くに父の姿が見えた。咄嗟にシエロは理解した。後をつけられていたのだ。

 自分の不注意と父のしたたかさに怒りを覚えた。

「臆病者」


「魔女を連れていけ」

 男たちがベベルを囲む。


 父をにらみつけるシエロ。

「臆病者!!」

 またたく間にベベルは男たちに腕を縛られ、連れ去られてしまった。


 取り残されたシエロは、しばらく呆然と風に揺れる森を見つめていたが、やがて

「ベベルさんを助けなきゃ!」

 そういって急いで森を駆けていった。

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