4.軋轢

 シエロは隅の方で本むのが好きなので、いつも教室の隅で本を読んでいる。

 時々俺に内容を教えてはくれるが、猫は本に興味などない。

 母が森を抜けた先にある王都で買ってきてくれた本なのだと、宝物なのだと、いつかそう言っていた。


 正午。日が高く昇っている。

 ちょうど午後の休み時間で、生徒たちは談笑をしていた。

「魔女?本当に魔女なんているの?」

「らしいよ。この村の人間を使って実験をしてるんだってさ」

「怖ーい」


 下らない。中身のない話にシエロはため息をついた。

 眠たそうな顔でシエロを見つめるイグニス。

 と、イグニスの耳が足音をとらえて別の方を向いた。


「シエロさん」

 教室のドアのところにシスターが立っている。生徒は一斉に聞き耳を立てた。

「はい。シスター」

「ちょっとこちらへ」

 生徒たちが会話に集中するふりをしながらも教室の外へ出ていくシエロとシスターを目で追った。


「最近村で流行っている病のことについて、私も信じたくはないのだけれど、魔女が呪いをかけているなんていう噂が立っているというのはご存じ?」

「はい。今朝父から聞きました」


 ***


 教会の外に出るシエロとイグニス。

『結論を言うとね、あなたの飼っている黒猫を良く思っていない人が多いの。残念だけど、その子を連れてくるなら、あなたをここへ入れることはできなくなるわ』

 シスターに言われた言葉を思い返す。

「ばかばかしい」

 残念だけど。なんていわれると余計に腹が立つ。

 大きなため息をつくシエロを、イグニスがゆっくり見上げた。

 シエロは前を向くと

「おいでイグニス。あの人のところへ行こう」

 そう言ってベベルの住むメンダキウムの森へ歩いて行った。


 ***


 私は、辛いことがあるとベベルさんの元を訪ねた。

 ベベルさんは、私にいろんなことを教えてくれた。


 昔、黒猫を飼っていたことや、

 王都の出身であったこと。

 私によく似た妹がいたこと。

 病になった妹を救うために、必死で魔法や薬草のことを学んだこと。

 それでも、妹を救うことはできなかったこと。

 流行病は薬草や魔法では治すことができない事。

 それから、

 魔法や薬草で、人の命は蘇らない事。

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