第15話 はしゃぐ悠希


 連日の猛暑により脳がオーバーヒートを起こして、書けない日々が続いておりました。

 投稿が遅くなり、誠に申し訳ございません・・・



 ―――――――――――――――




 唯が指し示していた場所を見ると、確かに凛がいた。


 彼女もウインドウショッピングをしているのか、店の外から色々と眺めながらテクテクと歩いている。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「ん、なんだ?」


「凛先輩に声かけて誘ってみようよ」

「・・・いいのか?」


 俺は唯がそう提案してくる事に驚いた。


 自惚れるわけじゃないが、本当なら2人で遊びたいと思っていたのでは?と思ったからだ。


 だから俺は凛には申し訳ないと思いつつ、また今度誘う事にして今回は声をかけるつもりがなかったのだ。


「うん、お兄ちゃんと2人で遊びたい気持ちもあるけど、お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんじゃないからね!」


 唯はそう言って楽しそうに笑っていた。


 朱美さんや穂香もそうだけど、本当にこの子達は自分の気持ち以上に相手の事を考えるよな・・・


 我がままを押し通せとまでは言わないが、皆が皆もう少しくらい自分を優先してもいいと思うのに。


 とはいえ、今回は唯がそれで構わないと言うのであれば俺が拒否する理由はない。


「わかったよ。じゃあ凛に声をかけてみて、大丈夫そうなら一緒に遊ぼうか!」

「うん!」


 俺の言葉で唯は更に笑顔を見せる。

 そんな唯に俺も笑顔で返すと、2人で凛へと近づいて行く。


 立ち並ぶ店を眺めなら歩いていた凛は、俺達が近づいている事には気が付いていない。


「お~い、凛!」

「こんにちは~、凛先輩!」

「・・・えっ?あれ、ゆっちゃんと唯ちゃん?」


 ある程度近づいたところで俺達が声をかけると、ようやく気が付き驚いていた。


「こんにちは~!今日は2人だけなんだ?ここに何しにきたの?」


 確かに唯と2人で出かけるのは珍しい。

 それに俺達の関係を知った凛からすると、尚更唯と2人だけなのは意外だと思われたのかもしれない。


「ああ、皆は都合が悪くてね。今日は唯と2人で遊びに来たんだよ」

「へぇ、そうなんだね」


「凛は何してたんだ?」

「私は特に予定が無かったから、適当にプラプラしに来ただけだよ」


「そっか。じゃあさ、凛さえよければ俺達と一緒に回らないか?」

「えっ?いいの?だって・・・」


 凛は俺が誘うとは思っていなかったようだ。

 というのも、俺の言葉を聞いた凛はチラッと唯の方を見たので、唯が俺と2人で兄妹水入らずの方がいいと思っているとでも考えたのだろう。


「ああ、全然構わないよ。それに、これは唯からの提案だしな」


 だから俺は、凛を誘うのは唯の提案であり何も問題無い事を伝える。


「えっ?そうなの?」

「はい、私も凛先輩と一緒に遊んでみたかったんです」


「でも、本当にいいの?」

「あはっ、凛先輩は優しいですね!でも気にしないでください。確かにお兄ちゃんと2人だけで遊びたい気持ちはありますけど、お兄ちゃんとはこれからいつでも機会がありますからね♪でも、この3人で遊ぶのってこの機会を逃すと中々ないと思うんですよねぇ」


 唯が大丈夫と答えても、凛は更に念を押して確認していた。

 それに対して唯は、凛が一緒でもいい理由をきちんと説明する。


 唯はやはり、周りをよく見ているし状況もよく考えている。


 確かに俺と唯と凛の3人で遊ぶという事は、本当にタイミングが合わないと難しいと思う。

 だって唯と穂香は仲良いから普段なら常にセットの様なもんだし、他にも雪ちゃんや美咲、直哉なんかの誰かが俺と一緒に居る可能性が高い。


 そう考えると、やはりこの3人だけで遊ぶ事なんて二度と無いような気がするな。


「そっか、そうだよね!うん、ありがとう!じゃあお言葉に甘えて、私もご一緒させてもらうね♪」


 凛はそう言って満面の笑顔を見せるのであった。


 とはいえ、俺達は何をするかは全く決めていない。

 それは凛が合流した所で変わらない。


 だから・・・


「じゃあ、これからどうする?」


 と、凛に聞かれても答えられないのだが・・・


 それよりも・・・


 凛は唯の反対側となる俺の右隣にちょこちょこと寄ってくると、ナチュラルに俺の手を握って来た。


 ・・・え?

 ちょっと待って!?


 なんで手を握るの??


 しかも凛まで、恋人繋ぎなんですけど・・・


 確かに凛に声をかけた時の視線が、俺と唯が手を繋いでいる部分にチラチラ向いていた気がするけど・・・


 だからって、なぜ・・・


 そうは思うものの、ニコニコして楽しそうな凛に対して何も言えない俺・・・


「い、いや、凛を誘っておきながら申し訳ないけど、特に何をするかは考えてないんだよな。プラプラしながら色々見ている感じでさ」


 俺は動揺しながらも、凛の質問に対して誤魔化すように答える。


 実際の所、さっきも言ったように俺と唯は特に目的があったわけではないので、すぐには思いつかない。


 すると、凛から提案が出される。


「じゃあ、私行ってみたい所があるんだよね~。そこでもいい?」

「ああ、いいよ」

「うん、私も大丈夫ですよぉ!」


 凛がどこに行きたいのかはわからないけど、こうして提案してくれるのはありがたい。

 もちろん、俺と唯に否やはないのである。


「で、どこに行くんだ?」

「ふふっ、内緒っ♪着いてからのお楽しみだよ~!」


 と、凛はもったいぶって教えてくれない。


 まあいいかと思いながら、凛に手を引かれて連れてこられた店に入ると・・・


 俺はその光景にあまりの衝撃を受けて、微動だに出来なくなった。


 その店と言うのが・・・


「ニャ~」

「ンナァ~」


 そう、猫カフェである。


 ・・・やだっ、何これ!可愛い!!

 モフモフしたい!つぶらな瞳に万歳!


 と俺も心の中で訳の分からない事を考えてしまうほどに、はしゃいでしまうのも仕方ない・・・よな?


 仕方がないと言ってくれ!!


 それほど可愛い猫たちに囲まれているんだから!


「あははっ、ゆっちゃん目が輝いてるね♪やっぱり、こういう所好きだと思ったよ!」

「あはっ、お兄ちゃん可愛い~♪」


 だって、しゃあないじゃん!

 俺は動物が全般的に大好きだが、中でも特に猫が好きなんだからさ。


「私もずっと来たいと思ってたんだけど、1人だと何となく来づらいというかタイミングというか・・・」


 そう、確かに凛の言う通り。


 俺も興味はあったし、絶対に来たいとは思っていた。

 だけど、何となく来る機会を逃していたのだ。


 いや、別に本当に猫好きなら1人で来ればいいのかもしれないけどさ。


 ただまあ1人で来た場合、思いっきり可愛がっている姿を他の知らない客に見られると・・・


 って考えたら、恥ずかしくて思いっきり愛でる事は出来ない気がするんだよね・・・

 自分を抑えつつ、軽く撫でる事しか出来なさそう・・・


 多分、凛も同じ事を考えていたのだろう。

 だから、今まで来ることが出来なかったのだと。


 でも知り合いと一緒に来れば、ある程度は遠慮することなく猫を可愛がれるだろうから。


「・・・凛の気持ちは本当によくわかる。俺も来たかったけど、1人だと何か気が引けるよなぁ」

「あ、やっぱりゆっちゃんも?」


「ああ・・・だって1人だと、何となく周りの目が気になるし。でも、知り合いと来れば気兼ねなく猫と戯れる気がするもんな」

「そうそう、そうなんだよねぇ」


 やっぱり凛も、俺と同じように感じていたらしい。


「だったら、今日はお兄ちゃんのはしゃいでる姿を見れるんだね♪」

「い、いや、そこまではしゃぐつもりはないけどさ・・・」


 唯は楽しそうにしているけど、さすがにそう言われると恥ずかしい・・・


 と、考えていると俺の側に猫が寄ってくる。


「お、珍しい!ラグドールじゃん!ぬいぐるみという意味の名前だけあって、本当に美人な顔してるよな。それに定番のアメショーとスコティッシュフォールドも寄って来た!更にヒマラヤンにアビシニアン、そしてマンチカンまで!なんか俺に懐いて来るんだけど!やばい、なんかテンション上がる!」


 なぜかラグドールを皮切りに、他の猫も続々と俺にすり寄って来た。


 床に座って1匹を撫でると、他の猫も撫でろと催促してくる。

 撫でてあげた猫はお腹を見せ、撫でていない猫は俺に身体をこすり付けたり、胡坐をかいている俺の足に乗って身を乗り出したりして構ってくれと言ってくる。


 やばい!何これ!可愛い!!


 俺は夢中で猫たちと戯れていると・・・


「あはっ、言った側からお兄ちゃんがはしゃいでる!可愛い~♪」

「本当だね!ゆっちゃん可愛い~♪」


「というか、お兄ちゃん詳しいんだね!見ただけで猫の名前がわかるなんて、本当に猫好きなんだぁ!」

「うん、そうみたいだね!動物好きな事は知ってたけど、ここまで好きだったんだね♪」


 猫と戯れている俺を見ながら、凛と唯が楽しそうに話している。


 はっ!

 やばい!恥ずかしい所を見られた!


 いや、てか・・・

 猫の可愛さに気を取られていたが・・・


 可愛いのは俺じゃなくて猫だろが!

 俺じゃなくて猫を見なさい!


 俺はもう猫に夢中です!


「それにしても、ゆっちゃんは随分と猫達に好かれてるね」

「うん、猫ちゃん達も猫好きな人がわかるんですかねぇ?」


 唯が言ったそれは、よく聞く話だよな。

 動物も人をよく見ているから、動物好きな人の事がちゃんとわかるってさ。


「ねえねえ、ゆっちゃん?」

「うん?」


 猫と戯れる俺に、凛が問い掛けてくる。


「その子達の中では、誰が一番好き?」

「う~ん、それは難しい質問だな・・・どの子も可愛すぎて甲乙つけがたい!」


「まあ、そうだよねぇ」

「ああ」


 凛は俺が決められないという事は、想定済みだったようだ。


 そんな凛はロシアンブルーを腕に抱いて、愛しそうに撫でている。


 そして・・・


「というか、お兄ちゃんに寄ってきている猫ちゃん達を見ていると、なんか気づいた事があるんですけど」


 と、唯がエキゾチックショートヘアを抱きながら凛に話しかける。


「え?なに?」

「えっとですね・・・このラグドール?はお母さんに似ている気がするし、アメショーはお姉ちゃんに似ているかなぁって」


「へえ・・・唯ちゃんのお母さんとは会った事ないからわからないけど、確かにアメショーが穂香っぽいのは分かる気がするよ・・・じゃあ、このスコティッシュは唯ちゃんだね!そしてアビシニアンが美咲かな?」

「ええ!?美咲さんは確かにぽいですけど、私はこんなに可愛くないですよ~?・・・それなら、ヒマラヤンは雪乃さんで、マンチカンは凛先輩ですね♪」


 猫達を愛でながら2人の会話が聞こえたけど、言われてみれば確かにみんなそれっぽい。


 超絶美人なラグドールに、整ったすまし顔でかなり人懐っこいアメショー、丸っこくて人を惹き付ける可愛い顔のスコティッシュ、端正な顔立ちで人懐っこいけど一歩引いているアビシニアン、ふわふわしておっとりとしているヒマラヤン、ちっちゃくて可愛くて活発なマンチカン。


 ・・・うん、確かにそっくりだ。


 でも凛がマンチカンっぽいというのは、凛が怒りそうな気が・・・

 いや、実際可愛いし雰囲気的にそっくりではあるんだけどね?


「え~!?ちょっと、それって私がこんなに手足が短いって事~!?」


 ほらっ!


 って、マンチカンの特徴ではあるけど、誰も凛の手足が短いとは言ってないんだけどな。


「違いますよぉ。そんなわけないじゃないですか!ほら、こんなにちっちゃくてコロコロしてて可愛いからですよぉ♪」

「うう、可愛いって言われるのは嬉しいけど・・・ちっちゃく・・・ないもん」


 いや、凛よ・・・

 残念だが、直哉のように弄るつもりは全くないが、小さいのは間違いないんだよ。


 でもそれが、俺の中では凛が妹のように可愛く思える部分でもあるんだけどな。

 まあ、それだけじゃないけど。


「唯ちゃんに悪気が無いのは分かってるからいいけど・・・それよりも、ゆっちゃん?」


 凛も唯が純粋に言っている事がわかっているから、そんなに怒っているわけではないらしい。


 てか、その矛先が俺に向いたんですけど・・・


「な、なに?」


 ニヤリとした、凛のその目が恐いんですけど・・・?


「じゃあ、今のを踏まえて・・・この子達の中で誰が一番好き?」

「あっ!それ、私も聞きたいなぁ♪お兄ちゃん!」

「ちょっ、おい!それはおかしいだろ!!」


 そんな事言われたら、尚更決められるわけないじゃん!!


 そう思う俺に、唯と凛はニコニコしながら俺に詰め寄ってくる。


 座っている俺が、その圧力にじりじりと押されていくと・・・

 ずるッと手が滑って後ろに倒れた・・・


 すると・・・


 ラグドールとアメショーとスコティッシュが俺の顔に寄ってきて舐め始め、ヒマラヤンとマンチカンが撫でろと俺の手に身体をこすり、アビシニアンは俺の腹の上でじっと俺の顔を見ていた。


「あはっ、本当に今の私達の関係みたい♪」

「ふふっ、そうだね!穂香と唯の積極的な感じと、美咲の一歩引いている感じが出てるね!雪乃先輩やお母さんの事はわからないけど」


「うん、お母さんも雪乃さんもこんな感じですよぉ!もちろん、私から見た凛先輩もね♪」

「あははっ、そっかぁ」


 ・・・仲良き事は美しきかな。


 いや、そうじゃなくて!

 見て笑ってないで、助けてくれよ!


 めっちゃ、顔をペロペロ舐められてるんですけどぉ!

 手にガッツリ身体をこすり付けられてるんですけどぉ!

 腹に乗られているせいで起き上がれないんですけどぉ!


 色んな意味で動けないんですけどぉ!!


 とは思いつつ、猫に囲まれている幸せと・・・

 2人が仲良く楽しそうにしている姿に、心をほっこりさせるのであった・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る