第14話 唯とのデート
タイトルを変更いたしました。
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「お兄ちゃん、今度はこっち行こ~!」
「わかったから、そんなにグイグイ手を引っ張るなって」
俺は今、大型の商業施設にいる。
そして嬉しそうにはしゃいでいる唯に、手を引かれながら見て回っている。
なぜこういう状況になっているのかというと・・・
朝、唯が俺を起こしに行けば部屋におらず、代わりに穂香を起こしに行ったら隣に俺が寝ていたから・・・
というわけではない。
い、いや、それも少なからず原因の一つではあるんだけど・・・
確かにいつもの如くずるいと言って、今度は唯と添い寝する事を確約されられてしまったけど・・・
ま、まあそれはいいとして・・・
唯は元々、今日は俺とどこかに行きたいと思っていたらしく、朝食後に誘われたのだ。
穂香は友達と約束があるらしく、朱美さんも遠慮して今日は2人で行っておいでと言ってきたのである。
穂香も2人で楽しんでおいでと言いながら、「今日、予定入れなければよかった・・・」とボソッと若干悔しそうに呟いたのが聞こえたような気もするけど・・・
そして朱美さんは朱美さんで「そのうち親子デートを楽しみにしているわ」と、笑いながら呟いていたような気がする・・・
・・・
ま、まあ出かける前の事なんてどうでもいい。
とにかく、そんな事から俺は唯と2人で出かけたってわけ。
ただ、唯は俺と出かけたいというだけで、特に何をするという事は考えていなかったようなので、とりあえずはウインドウショッピングでもしようかと、この大型商業施設に足を運んだのである。
唯も「お兄ちゃんと一緒なら、どこで何をしてもいいよ~♪」と言っていたので、今も本当に楽しそうにしている。
そんな唯の嬉しそうな顔を見るだけでも、正直ほっこりするのだが・・・
ただね・・・
今更ながらにして思うのは・・・
なぜ・・・
俺達は手を繋いでいるの??
しかも、これって・・・
俗に言う恋人繋ぎってやつでは・・・?
しかも、家を出てから一回も離してくれません・・・
むしろ絶対に離さないとばかりに、結構力強く握ってきている。
こんなに周りに人がいる中で、正直言うと・・・
物凄く恥ずかしいです・・・
でも、あまりに嬉しそうで可愛い唯を見ると、直接手を離してと言えず・・・
せめてもの抵抗として、俺が手を離してほしい事を訴えるべく、握っていた指を開いたりすると・・・
唯は俺にちゃんと手を握れとばかりに、唯の握る手に力が入るのである。
「あはっ、こうしてお兄ちゃんとデート出来るなんて嬉しいなぁ♪」
しかも、こんな風に満面の笑顔で可愛らしい事を言われてしまったら・・・
俺もほっこりして・・・
まあ、いっか・・・
と思ってしまう。
それに唯は、こうしていつも無邪気な様に見せているが、これでいて意外と人を見ている。
というのも、本当であれば今の様に思いっきり甘えたいんだと思う。
でも穂香や朱美さんには、もちろん甘える事もあるのだが、俺から見れば少し遠慮している様子が伺えるのだ。
まあ、それはそうだろう。
女性なら、甘えられるよりは甘えたいと思う人の方が多いのだろう。
ただ穂香は姉であり、朱美さんは母なのだ。
年上である彼女達からすれば、唯に甘えてほしいとは思うかもしれないが、本人達だって甘えたいと思う事だってあるはず。
それは2人の俺に対する態度から見て間違いないと思う。
唯もそれがわかっているから、彼女達に甘えるにしても一線を引いてしまっているのだと思う。
逆に俺は男であるからには、甘えるよりも甘えられる方が嬉しい。
まあ正確に言うのなら、頼られる事が嬉しいという事。
そう感じている俺の事も唯は理解している。
さらに言えば、唯は人の機微にも聡い。
分かり易く言えば、空気を読むのが上手い。
美咲も空気を読むのが上手いが、美咲とはまた違ったものであるのだが。
まあ何が言いたいかというと、唯は思いっきり甘えてもいい人や、そのタイミングなどを見極めているという事。
その人が、今は遠慮してほしいと感じているのであれば絶対に甘えない。
逆に甘えていい時に甘えたとしても、その人がそろそろやめてほしいと思えば、それを感じて離れるなど。
じゃあ、俺の時もそうしろよ!と思わなくもないが・・・
それは唯達が俺に何をしようとも、最終的にはさっきの様に許してしまう事もわかっているからなのである。
まあ、長々話してしまったが、結局何が言いたいのかというと・・・
物凄くいい娘だという事である。
・・・
つーか、もう・・・
俺も大概にして、完全なシスコンになりつつあるな・・・
だから自然とこんな事を言ってしまう。
「俺は、唯がそうやって楽しそうにしている姿を見るのが嬉しいな」
「本当!?えへへっ、よかったぁ!じゃあ、今日は一杯楽しもうね♪」
俺の言葉で更に嬉しそうにする唯は、握る手をランランと大きく振ってはしゃぐのであった。
・・・・・
その後、唯に引っ張られ色々見ながら、今は女性服の店にやってきている。
これから夏に向けての服を見ておきたいんだとか。
なんで俺も一緒に?とは思ったが、男性目線での意見も欲しいとの事。
というよりも・・・
「お兄ちゃんに、唯の色んな恰好を見てほしいの♪」
という事らしい。
そんな言葉に唆されて、唯が選んだ服を試着するから見てほしいと言われ試着室前にて待つ。
そして・・・
「お兄ちゃ~ん!着替え終わったから確認してくれる?」
「あ、ああ、それはいいけど、着替え終わったのなら自分で開けたらいいんじゃないか?」
唯は着替え終わったというのに、試着室のカーテンを自分で開けない事を疑問に思う。
それに俺に開けろと言うけど、女性が着替えている試着室を開けるのは若干抵抗があるんだよ・・・
「だって似合ってるかどうかわからないから、他の人に見られたくないんだもん・・・だから、少し開けてお兄ちゃんだけが見えるようにして確認してくれる?」
「ああ、そういう事なら・・・」
唯なら何を着ても似合いそうだから、恥ずかしい事なんて何もないと思うんだけどな。
でも、俺にはわからない女心というやつなのだろう。
それに、俺にはどんな姿を見られても大丈夫だと信頼されているようで、ちょっと嬉しい。
そう思って、俺は少しだけ開けて中を覗いてみると・・・
「ぶっ!!」
思いっきり吹いてしまった・・・
というのも・・・
開けた俺を待ち構えていたのは・・・
裸ワイシャツの唯でした・・・
いや、パンツは履いているんだけど、ブラは外してボタンを留めずに前は全開である。
もちろんボタンを外しているだけだから、胸は隠れてはいるけど・・・
大き目のワイシャツだから袖から指先がちょこんと出ているだけであり、裾もミニスカくらいの長さがある。
非常に可愛い・・・
って、そうじゃないだろ!!
俺も実況してんじゃねえよ!
俺が言った唯のどんな姿でもって、流石にそういうのは想定してないの!!
しかも、そんな姿を俺に見られて、何で嬉しそうなの!?
少しは恥ずかしがれや!
つーか、隠せや!!
やめて!
マジでやめてくれ!!
俺を興奮させないで!!
いや、興奮してんじゃねえよ俺!!
てか、そもそも・・・
「ちょ、ちょっと唯!!着替え終わったんじゃなかったのかよ!?」
そう、着替え終わったと聞いたから覗いたんじゃないか!
むしろ、何でブラまで外している!!
「ええ~、だって・・・お兄ちゃんは、こういうの好きかな?って」
・・・・・
ええ、好きです・・・
非常に大好きですよ・・・
今だって目が釘付けに・・・
って、違う!そうじゃないだろ!!
服屋に来てるんだから、服をちゃんと試着しろよ!!
「す、好きとか好きとかじゃなくてだな・・・ちゃんと試着した姿を見せて下さい・・・」
「あはっ、やっぱりお兄ちゃんはこういうの好きなんだね♪大丈夫、次からはちゃんと試着するから。最初だから、ちょっとした冗談だよ~♪」
・・・
俺、好きとか嫌いとかって言おうとして、好きしか言ってねえじゃん・・・
全然誤魔化せてねえじゃん・・・正直すぎる・・・
心の中で喜んで・・・じゃなくて!
泣いている俺とは裏腹に、唯は楽しそうにしていた。
まったく、冗談にもほどがあるんだよ・・・
そして、その後はちゃんと試着して・・・
って、ミニスカメイドじゃん!
・・・今度はチャイナじゃん!!
何で、次々と俺のピンポイントをついてくんの!?
てか、ここは普通の女性服の店だよね!?
どこにそんなのあったんだよ!!
どこまで、俺を喜ばせ・・・違う!
戸惑わせれば気が済むんだよ!!
と、次々に俺の心を刺激する恰好を見せて楽しむ唯に、弄ばれる俺であった・・・
もちろんその後には、きちんとした唯に本当に似合う可愛い服も着ていましたよ。
色んな意味で・・・ごちそうさまでした。
・・・
色々試着した唯だったが、特に何も買わなかったようだ。
「何も買わなくていいのか?」
「うん、今日はこの後もお兄ちゃんと遊ぶ予定だし、荷物にもなっちゃうから。だからまた今度、お小遣いを貯めてお兄ちゃんの気に入ってくれた服を買いに来るよ♪」
という事らしい。
荷物になる事に関してはコインロッカーにでも入れておけばいいと思うが、どちらかというと服は結構高いしお金の面を気にしての事なんだろうな。
親父に毎月お小遣いをもらっているとはいえ、バイトをしていない唯にとっては節約したい所なのだろう。
っていうか、親父に言えば喜んで買ってくれると思うんだけどな。
むしろ親父は、そのために・・・
朱美さんや娘達を喜ばせたくて、前以上に仕事を頑張ってくれているのだし。
もちろん親父は俺の事も想ってくれているけど、俺自身はバイトしたりして負担をかけずにやってきているから、なおさら朱美さんや娘達の為にお金を出す事も可能なはず。
俺が親父に金の面を含めて、ほぼほぼ頼らない事を寂しそうにしていたし。
頼れば喜んでくれると思うけどな。
まあ、俺にも頼ってほしいと思っている親父の気持ちには申し訳ないと思うが、俺は男だし親父も理解してくれている。
だから、親父には俺の代わりに彼女達に尽くしてやってほしいと思うし、彼女達も親父に頼ってほしいと思う。
まあ親父には、唯の服の件を含めて今度チラッと伝えておくか。
そんな事を考えていると、笑顔の唯に再び手を握られる。
その唯の笑顔を見て・・・
ずっとこの笑顔でいさせてやりたい。
いや、もっと笑顔にさせたい。
と俺自身も唯や穂香、朱美さんの為に何かできる事を精一杯しようと心に強く誓った。
そして唯に手を引かれながら店を出た後、少し喉の渇きを覚えたため唯に声をかける。
「唯は、喉渇いてないか?」
「うん、そうだねぇ。楽しくてちょっとはしゃいじゃったから、喉が渇いちゃったよ」
「そっか、じゃあ何か飲み物を買おうか」
「うん!・・・あ!じゃあ、あれにしようよ♪」
唯がそう言いながら指を指した先は、スムージーの店であった。
・・・喉が渇いた時に、スムージーって喉が潤うのだろうか?
そう疑問に思いながらも、唯が飲みたそうにしているし俺に
唯に手を引かれてスムージーの店の前にやってくると・・・
「唯は何が飲みたい?」
「う~ん、どうしようかなぁ・・・あ、お兄ちゃんいいよ!?私自分で払うから」
俺が唯に飲みたいものを尋ねた事で、俺が何しようとしているのかを察したらしい。
「いいから、気にするなって。何でもかんでもってわけにはいかないかもしれないし、こんなもんくらいでって思われるかもしれないけどさ、たまには兄らしく良い恰好させてくれよ」
「たまにはって・・・(私にとって、お兄ちゃんは普段からお兄ちゃんとして優しくて頼りになって恰好いいんだけどなぁ・・・)でも・・・うん、わかったよ!ありがとう、お兄ちゃん」
俺が冗談半分で兄として格好つけさせてくれと言うと、唯は何かをボソッと呟いた後に満面の笑みで頷いてくれた。
何を言ったのかは気になるけど、とりあえずは注文を決めるとするか。
「で、唯は何にする?」
「う~んとね、じゃあ・・・アボカドスムージーがいい♪」
ほんと、女性ってアボカドが好きだよね。
まあ、体にも美容にも、そしてダイエットにも良いと聞くし。
正確にはダイエットに良いというよりも、栄養素が高く高カロリーであるため減量食として良い事と、食物繊維が高く出すもの出した上で腸を綺麗にしてくれるから、食べても太りにくいという事らしいけど。
まあ、そんなどうでもいい情報は置いといて。
とりあえず、唯の分と一緒に俺のも注文してお金を払い、出来上がったスムージーを2つ受け取る。
「はい、こっちが唯の分」
「うん、ありがとう!お兄ちゃん♪」
俺が差し出したスムージーをスルーして、唯は俺に抱き着いて来た。
両手を塞がれている俺は唯の行動を阻止出来ず、なすがまま抱きつかれるしかない・・・
いや、唯に対して拒否なんて最初から出来るはずもないのだけど・・・
・・・っていうか、こんな所で恥ずかしいんですけど!!
とは思うものの、そんな事は言えない俺は焦りながら唯に別の事を訴えかける。
「いや、ちょっと!受け取って!?」
「あ、ごめんね!なんか嬉しくって、つい」
うん、まあ・・・
唯が本当に嬉しそうで楽しそうで何よりです・・・
もうね、唯がそんな笑顔を見せてきたら、何でも許せちゃう気がするんですよ・・・
俺から離れた唯は、スムージーを受け取ると飲み始める。
「う~ん、美味しい♪」
・・・本当に幸せそうな顔しながら飲むよな。
唯を見て微笑ましさを感じながら、俺も自分のスムージーを一口飲む。
「あ、お兄ちゃんは何にしたの?」
俺が飲んでいる姿を見た唯は、そう尋ねてくる。
「ああ、これはミックスベリーだよ」
やっぱり、俺としては酸味が欲しい。
だから甘そうなものばかりの中、酸味のありそうなベリー系にした。
「それも美味しそう・・・」
・・・唯は上目遣いで俺を見ている。
もう、それだけで何を言いたいのかわかっちゃうよね・・・
特に、上目遣いに弱い俺・・・
「・・・こっちも飲んでみるか?」
と、俺が唯に聞いてみると・・・
唯の顔にパアッと笑顔が咲き誇った。
「うん!飲みたい!ありがとう、お兄ちゃん♪」
・・・ほんと、可愛いわ。
こんな妹が出来て、本当に幸せだわ。
てか、それはいいとして・・・
ま、まあ兄妹なら回し飲みくらい普通だよな?
そう思いながら俺が自分のスムージーを唯に差し出すと・・・
唯はカップを持つ俺の手ごと握り、そのまま飲みましたとさ・・・
・・・こ、このくらい兄妹なら、ふ、普通だよな?
「んっ、んっ・・・はぁ・・・うん!ベリーも美味しいね♪特にお兄ちゃんに飲ませてもらったから格別に♪」
いや、俺が飲ませたわけじゃないんですけど!?
俺がそう心の中で突っ込んでいると・・・
「あ、お兄ちゃんごめん。お兄ちゃんの手にスムージーが飛んじゃった」
と言って、スムージーが付いた俺の手をペロっと綺麗に舐め取ってくれましたよ。
こ、この、く、くらい、なら・・・兄妹だったら・・・
普通じゃねえ!!
さすがにこれは普通じゃねえよ!!
しかも、めっちゃペロペロ舐めてんじゃん!!
更には吸ってるじゃん!
絶対に、もう残ってないだろが!
と嘆いている俺に、顔を上げた唯はニコッと良い笑顔を見せる。
・・・はあ、この笑顔に弱い俺。
そして・・・
「はい、お兄ちゃん!私のもどうぞ♪」
だよね?
わかってた・・・
俺は諦めて、唯のスムージーを飲んでいると・・・
「あっ!お兄ちゃん、あれって凛先輩じゃないかな?」
そう言って、少し離れた場所にいる凛を手で指し示していたのであった。
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