第12話 悠希は重要な事を忘れる
何だかよくわからないけど、食事中は和気あいあいと楽しく話しながら食事をしていた。
いや、楽しく過ごせるのならそれに越したことはないけどさ。
仲良きことは良きかなってね。
・・・ただ、何か忘れている気がするが。
まあ、思い出せないなら大したことではないだろう。
そんな事を考えながらも食事後の食器を片付け、そのままリビングで寛いでいる。
するとそこに、美咲が食後のドリンクを全員分用意してトレイで持ってきてくれた。
本来なら俺がやるべき事であり、お客様である美咲にそんな事をさせるわけにはいかないのだが、「いいから座ってて」と押し切られたのだ。
まあ勝手知ったるなんちゃらだし、素直にお言葉に甘える事にしたのである。
「はい、どうぞ」
美咲は皆の前のテーブルにドリンクを置いていく。
皆も美咲に礼を言いながら、目の前に置かれたジュースを美味しそうに飲み始める。
そして美咲は、最後に残った俺の分を渡そうとしてテーブルを回ってこようとしたのだが・・・
「いたっ!!」
美咲はテーブルの角に、
ぶつけてしまったのです・・・
すると、どうなるでしょう。
美咲は持っていたトレイをひっくり返してしまいます。
もちろん、その上に乗っていたジュースは宙を舞います。
宙を舞ったジュースは綺麗な放物線を描き・・・
そして、その着地点は・・・
俺の頭でした・・・
しかもよりにもよって、コーラときたもんだ。
シュワシュワします・・・
ベタベタします・・・
髪も服もベチャベチャです・・・
結果、気持ち悪いです・・・
幸いな事にコップはプラスチックだったので、それほど痛くもないしコップが割れる心配もない。
そんな心配はさておいて・・・
俺はそれ以上に・・・
「おい、美咲!大丈夫か!?」
ベチャベチャになった自分はそっちのけで、脛をぶつけた美咲が心配になる。
「うっ・・・だ、大丈夫。私よりも、悠希こそジュースかけちゃって・・・ごめん」
「そんな事は気にしなくていいって。それよりも、湿布持ってくるから貼っておいた方がいいな」
美咲にしては珍しいとは思うが、別にミスは誰にでもあるし怒る事ではない。
ベタベタするのも、洗い流せばいいだけ。
服は洗ってもシミになるかもしれないが、まあ部屋着だしどうでもいい。
そんな些細な事よりも、脛をぶつけて絶対に痛いはずの美咲の方が心配だ。
そう思って、俺は湿布を取りに行こうとしたのだが・・・
「あ、ありがとう。でも悠希は湿布を取りに行くよりも、体がベタベタするでしょう?それに乾いても困るだろうから、先に体を流しておいで」
「いや、でも・・・それに掃除も・・・」
美咲が心配ではあるが、確かにベタベタするのも服が体に張り付いているのも正直気持ちが悪い。
乾いてカピカピになるのも確かに困る。
「大丈夫よ、兄さん。美咲の事は私が見ておくから」
「そうそう、美咲ちゃんの事は大丈夫よ。私も一緒に見ておくし、なによりも美咲ちゃんはこう見えて頑丈なのよ?」
「掃除は私がちゃんとしておくから任せてよ、お兄ちゃん♪」
「そうよ、悠くんは先にベタベタを落としてきなさい?こちらの事は私達でやっておくから、心配しなくていいからね」
俺がベタベタになりながらも渋っていると、穂香と雪ちゃん、それに唯と朱美さんにまで促される。
さすがに皆にここまで言われてしまうと、俺1人がぐずるわけにもいかない。
「あ、ああ、わかったよ。じゃあ、俺は体を流してくるから、あとはよろしく頼むよ」
だから皆の申し出を有難く素直に受けて、そう言った瞬間。
俺を見る皆の目が・・・
キラン!
と、光った様に見えた・・・
えっ!?
と思った次の瞬間には何事もなかったかのように、皆は普段と何も変わる様子はない。
・・・ま、まあ、気のせいだろう。
それよりも俺は自分のベタベタする感触が気になって、正直それ以上深く考える事はしなかったのである・・・
・・・
おおう!
パンツにまでしみ込んでいるではないか!
これはやはり彼女達の意見に従い、早めに風呂に来て正解だったな。
そう思いながら俺は服を脱ぎ、脱いだ衣類は湯を張った桶に浸しておく。
ま、落ちないだろうけど気休めだな。
そう思いながら、俺は風呂場に入り体を流していく。
そして体や髪を洗いながら、ふと考える。
いやはや・・・
それにしても、美咲にしては本当に珍しいミスだな。
美咲は結構慎重なタイプだから、ああいう事ってあまりないんだけどな。
ま、でも別に絶対にないという事もないか。
・・・てか。
そんな事よりも・・・
俺は何か、重要な事を忘れているような気が・・・
・・・
ま、思い出せないなら大した事じゃないか。
重要と言いつつ、大したことではないと訳の分からない事を考えている俺。
なんかさっきから、忘れている事ばっかだな。
何だかんだ言って、雪ちゃんと美咲が来た事でにぎやかになり、それが楽しいと感じているせいかもしれないな。
俺がそう、体だけでなく心もホカホカさせていると・・・
洗面所からガサゴソと音が聞こえてきた。
・・・・・
はっ!!ちょっと待て!
ま、まさか・・・
そうだよ!
俺は今まで何で夕食後の風呂を避けてきたんだよ!
乱入を避けるためじゃねえのかよ!!
バッカ野郎!!何が大した事無いだ!!
大した事あるじゃねえかよ!!
すぐに思い出せや俺!!
ただ美咲と雪ちゃんが来ている中では、さすがに誰も来ないだろうという安心感、更にはさっきのゴタゴタ、かつ俺にまとわりついていた気持ち悪いベタベタ感を早く落としたいという気持ちのせいで、完全に失念しまっていたことは否めない・・・
しかし、間違いなく洗面所には誰かがいる!
いや、誰かではなく、穂香か唯か朱美さんに違いないだろうけど・・・
これはやばい!
もう逃げられない!
と、俺が慌てていると・・・
ガラッ!
・・・
雪ちゃんと美咲が生まれましたとさ・・・
・・・
あまりに予想外過ぎて、思考回路がショートしております・・・
少々お待ち下さいませ・・・
・・・・・
・・・え!?
ちょ、ちょっと・・・ちょっと待て!!
え!?
予想に反して、ゆ、雪ちゃんと、み、美咲だと!?
い、いや、穂香や唯、朱美さんが良かったわけじゃなくてだな!
誰がという問題ではないのだが・・・
それにしても予想外過ぎるだろが!!
「悠ちゃん、お待たせ~!」
いや、待ってねえよ!?
いつ俺が待ったよ!?
「悠希、待たせたわね・・・」
いや、だから!
待ってねえっての!
しかも、美咲までなんだよ!?
こういう事するキャラじゃないだろが!
それにさっき脛をぶつけたのはどうしたよ!?
「い、いや、ちょっと!2人共、なんで入ってきてんのさ!!」
しかも、例によって・・・
俺が見ちゃうだろが!!
俺はもちろんタオルで隠しています・・・
「ちょっと、悠ちゃん?どこ見てるの?」
雪ちゃんはそう言いながらも、ニコニコしながら全く隠す様子は見られない。
「悠希・・・あまり見ないで・・・」
反面、美咲は少しだけ恥ずかしそうに顔を背ける。
・・・いや、だから!!
背けるのは顔じゃなくて、身体!!
それに、恥ずかしいなら身体を隠せや!!
肌を晒すなや!!
そうは思いながらも、隠されない体を堪能してしまふ・・・
雪ちゃんも気が付けば、朱美さん程ではないが立派に育って・・・
お父さんは嬉しいぞ!
・・・いや、お父さんじゃねえだろが俺!!
何言ってんだよ!!
最近こんな事ばっかりで、俺の頭もおかしくなってきた・・・
とはいえ・・・
・・・全くけしからん!!
けしからんボディではないか!!
けしからんのはお前だって?
・・・うっさい!!
隠されないものを、何で俺が目を背けねばならんのだ!!
しかし、雪ちゃんのけしからんボディに比べ・・・
美咲は・・・
・・・どんまい!
「ねえ、悠希?今何か不快な事を考えなかった?」
美咲は俺をジロッと睨む。
こわっ!!
そして、なぜわかるし!!
いや、でも美咲を弁護するわけではないが雪ちゃんと比べてというだけで、美咲は貧相なわけではなく色んな意味で丁度いい魅力的なボディをしているのだ。
これはこれで・・・
「・・・悠希?」
そんな事を考えていた俺は再び睨まれる。
・・・ごめんなさい。
だから、恐いんだっての!!
い、いや、そんな事よりもだな・・・
「つーか、俺の質問に答えてくれっての!なんで風呂に入ってきてんだよ!・・・っていうか、美咲はさっき足を痛めたんじゃなかったのかよ!?」
俺が早く出ていけと言う意味を込めて必死に訴えかける。
そして、美咲は足を痛めて治療をしてたんじゃないのかを尋ねたのだが・・・
「え?ああ、あれは演技よ」
と、美咲に淡々と言われましたとさ・・・
・・・な、なんだと!?
「そうそう、美咲ちゃんに一芝居うってもらったんだよねぇ」
「な、なぜ・・・そ、そんな事を・・・」
俺はある種の、あまりの衝撃に茫然とする。
「だって、悠ちゃん朝言ってたじゃない?俺が風呂に入っている所にだったら、一緒に入ってもいいって」
・・・・・
ちげえ!!
そんな事は一言も言ってねえ!!
俺が入っている所に入って来られて不可抗力だと言ったんだよ!!
むしろ、入ってこないでくれって意味だったんだよ!!
曲解すんじゃねえ!!
「でも、悠ちゃんは私達がいたらもちろんだろうけど、普段も先にお風呂に入る事はないって言ってたもんね。だから美咲ちゃんと2人で話した結果、今回の騒動を起こす事にしました!もちろん、他の3人も了承済みです!」
・・・くそっ!
朝、2人でこそこそ話し合ってたのは、これの計画だったのか!!
さっき、目が光ったように見えたのは気のせいじゃなかったのかよ!!
美咲があんなミスするなんておかしいと思ったよ!!
しかも穂香や唯、朱美さんまでグルだったなんて・・・
「ああ、言っておくけどね、美咲ちゃんは一緒に計画を考えたけど一緒に入る事は渋っていたから、私が強引に引っ張ってきました!」
おい!!
嬉しい事を・・・じゃなくて、余計な事を!!
・・・つーか、どうであろうと、何で俺と風呂に入る事を計画してんだよ!
「だってね、私は悠ちゃんの姉として・・・いつでもどこでも一緒にいたかったのに、お風呂は一緒に入ってくれなくなって・・・ずっと寂しかったんだよ?」
雪ちゃん・・・
雪ちゃんが寂しがっていたなんて・・・
って!
い、いや、流されん!流されんぞ!!
だから一緒に風呂に入る事がおかしいんだよ!
家族でも年頃になれば、一緒に風呂に入る事はないはずだ!
・・・え?ないよね?
いや、そもそも・・・
こんな事は言いたくないが・・・
この時ばかりは言わせてもらう!!
君達は、戸籍上でも血縁上でも家族じゃねえんだよ!!
赤の他人なんですよ!!
それが一緒の風呂に入るのは、もっとおかしいんだよ!!
やばいでしょ!
赤の他人の男女が風呂に入るとかさ!!
そう、俺が心の中で嘆きまくっていると・・・
「ふふっ、悠ちゃんは困惑しているようだけど、どっちにしても悠ちゃんには選択肢は残ってないって事わかってる?」
「はっ?・・・な、なぜ?」
「これも朝言ったよね?悠ちゃんはギルティ間違いないって」
「・・・・・」
何か、もう一つ忘れていると思ったら・・・
それかっ!!
「・・・え?じゃ、じゃあ・・・これが有罪刑なの?」
「ううん、違うよ。これは、ただの家族団欒に決まってるでしょ?この憩いが
え?
どゆこと!?
っていうか、確かに執行猶予は望んだけど、俺は心で思っただけで口にだしてないよね!?
なんでわかったんだよ!
つーか俺にとっては、これが罰なのですが・・・
シクシク・・・
い、いや、とにかくそれは置いといて・・・
「じゃあ・・・俺がこの状態を拒んだら・・・?」
「もちろん、執行猶予期間中による悠ちゃんの
「ぐっ・・・ち、ちなみに・・・そ、その有罪刑は・・・な、何を・・・」
「それは、悠ちゃんには・・・これからの人生を
宦官、それは・・・
貴族や宮廷などに仕える去勢した男子の事である・・・
・・・
いや、律儀に宦官の言葉の意味を説明している場合じゃねえだろが俺!!
ってか、おかしいだろ!!
普通なら、俺が2人と風呂に入る事が有罪確定になるんじゃないの!?
2人の生まれたままの姿を見たからこそ、俺はムスコと永遠の別れをしないといけないんじゃないの!?
なんで雪ちゃん達と一緒に風呂に入る事が、刑を免れる手段なんだよ!
一緒に風呂に入らないと、刑を執行ってなんだよ!!
どう考えても逆だろが!!
つーか、考えたら刑が重すぎる!
俺のせいじゃないのに・・・
しかも、普通なら絶対・・・
うら若き女性と風呂に入らないようにしようとする、俺の方が正しいはずなのに・・・
くそっ!
俺はムスコと永遠の別れを取るか、男としてウハウハするかのどちらしかないのか・・・
まだ未成年である我がムスコと離れ離れになるわけにはいかない・・・
そう考えたら確かに雪ちゃんの言う通り、選択肢は残ってねえじゃねえかよ・・・
・・・って、あれ?
なんか変じゃね?
今、俺が考えた選択って・・・片やマイナス、片やプラスしかなくね?
そりゃ、選ぶなら誰でもプラスを選ぶよね?
・・・
いや、違うっつーの!!
そもそも、俺の選択肢の考え方がおかしいんだっての!
ウハウハじゃねえよ!
ウハウハしてんじゃねえよ俺!!
さっきは否定したが、彼女達とは家族同然だろが!
欲情したらダメなんだよ!!
俺は理性を保たないとダメなんだよ!
だから2人共、出ていって下さい・・・
シクシク・・・
俺は心の中で葛藤し、泣き始める。
「はいはい、泣かないの」
なぜ美咲は、俺が心の中で泣いている事がわかるし!?
「ほらっ、もう悠希も潔く諦めなさい。私が体を洗ってあげるから」
美咲はそう言いながら、俺の右腕を取る。
しかも、その腕は・・・
おっふ!
俺の腕を美咲が抱えるように持ったもんだから、弾力のある美味しそうな果実が俺の腕に当たってるじゃねえかよ!!
そのせいで、変な喘ぎ声が出そうになったじゃねえかよ!
「ふふっ、美咲ちゃんも覚悟を決めたみたいね。素直になってくれて、私も嬉しいわ」
「べ、べつに、そういう訳じゃないって・・・ここまで来たなら、さっさと終わらせて出たいと思っただけよ」
「ふふっ、わかったわ。そういう事にしておいてあげる」
「も、もう・・・お姉ちゃんてば・・・」
あ、あのぉ・・・
そういう話は家に帰ってからしてくれませんかね?
雪ちゃんが美咲に話しかけるたびに、美咲が動くもんだから・・・
モニュモニュが・・・ね?
「じゃあ、私はこっち側を洗おうかな」
あふん!
俺が油断している所に、雪ちゃんが俺の左腕を取った。
それはもちろん・・・
フワッフワのマシュマロに包まれて・・・
・・・いや、だからさ!!
変な喘ぎ声が出そうになったじゃねえかよ!!
もうやめてくれよ!!
そう思っていた俺の耳には、ガサゴソと何か良からぬ音が聞こえたような・・・
そして思い出す・・・
俺が風呂に入ると言った時、
「ちょ、ちょっと・・・つかぬことをお聞きしますが・・・」
「ん?な~に、悠ちゃん」
「何よ?悠希」
「あ、朱美さん達は、掃除をしているんだよ・・・ね?」
「何言ってるの?悠ちゃん」
「そんなの、もうとっくに終わっているはずよ」
・・・・・
ガラッ!
「兄さん、お待たせ!」
「お兄ちゃん、待った~?」
「ごめんなさい、悠くん。お待たせしちゃったわね」
・・・・・
だから、誰も待ってねえんだって!!
何で皆、俺が待ち望んでいたかのように言うんだよ!!
そして、何で普通に入ってくるんだよ!!
せめて水着・・・最悪でもタオルで身体を隠してから来いや!!
じっくり見ちゃうだろ!
堪能しちゃうだろが!
って、そうじゃないんだって!
皆は俺の家族!
家族なんだから、異性を感じさせるのはやめてくれ!!
つーか、しかもさ・・・
いつもだけど、なんで俺の周りは人口密度が高くなんだよ!!
俺の周りにだけ集まるのはやめてくれ!
しかも、風呂場だけは本当にやめてえええええ!!
という、俺の心の叫びは誰の心にも響かないのであった。
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