第9話 悠希の楽しい(?)昼食
まあ結果として、俺の人生が終わる事はありませんでした。
とはいうものの、男子から浴びせられる視線・・・もとい死線に、針の
今はそれを何とか搔い潜り、屋上で弁当を広げているんだけどね。
メンバーは、俺・穂香・唯・凛・美咲である。
いや、さすがに教室では無理だって・・・
あの状況の中、このメンバーに囲まれて教室で食事なんてさ・・・
だから逃げるしか選択肢がないわけよ。
そんな訳で、屋上に避難したわけよ。
広いし、落ち着くし・・・
ああ、言っておくけど、この学校の屋上は出入り自由だからな?
というか、教室のカオス状態から抜け出してすんなり屋上に来れたのは、あの場に美咲が現れてくれたおかげである。
唯までも俺の所に来て、周りがわちゃわちゃしてきた所で・・・
「ちょっと穂香?私を呼びに来たのに、いつになったら私の所に来てくれるの?」
と、美咲が笑いながら近づいてきたのだ。
それも絶妙のタイミングで、かつ俺の周りの会話をバサッと切る感じで。
俺にはわかるが、色々と収拾がつかなくなりそうなのを理解し、誰も不快に感じさせない言葉を選んだ上で助けてくれている。
今まで、俺と雪ちゃんから一歩引いて見ていたせいなのか、空気を読むことに関しては天下一品なのだ。
ほんと、美咲様様ですわ。
そして美咲は・・・
「とにかくお昼にするとしても・・・こんな状態じゃ食べにくいから、他の場所に移動しない?」
そう言ってスムーズに誘導してくれたのである。
・・・直哉はどうしたって?
・・・
彼の犠牲は無駄にはしない・・・
って、そういうわけじゃなくて・・・
美咲が移動を促した時に、俺が直哉と話した内容というのが・・・
「というわけで直哉・・・申し訳ないが一人で食ってくれ」
「何でだよ!俺を除け者にすんなよ!」
「じゃあ聞くが・・・さっきのやり取りを見て、お前はあの娘達の話に入っていけるのか?」
「・・・そう言われると、自信ないな」
「そうだろう?」
「だったらお前はどうなんだよ?」
「俺か?」
「ああ、そうだよ」
「ふっ・・・入っていける自信なんてあるわけねえだろが!!」
「何で逆に、そんな情けない事を自信満々に言ってんだよ・・・」
「仕方ないじゃんかよぉ・・・行きたくないけど、兄や幼馴染の立場としては行くしかないんだよ」
「あ、うん・・・なんか、すまなかった」
という事なのである。
どう考えても、女子4人に囲まれて女子の会話をされてしまったら、俺なんか話に入っていけるわけがない。
だから行きたくはない。
じゃあ逆に直哉を連れて行って、男同士で話せばと思うかもしれないが・・・
あのメンバーなら俺が話に入れるかどうかは別として、間違いなく俺に話を振ってくるだろう。
そうすると結局、直哉が1人でポツンとなってしまう。
さすがにそれは申し訳ない。
だから今回は直哉にはご遠慮願ったのである。
そんなこんながあった中、今の屋上へ至る。
もうこうなったら、俺も開き直って弁当を堪能するしかない。
ちなみに、うちの学校は生徒に優しい。
というのも屋上の入り口の所に、地べたに座れるように大きめのシートが用意されているのだ。
それを遠慮なく使わせてもらっている。
学校様様である。
ちなみに座る配置だが、俺の左側には唯が右側には穂香が陣取っている。
もう、この布陣は定着しつつあるな・・・
そして俺達の向かい側に、美咲と凛が座っていた。
各々が準備を終えた所で、唯が口を開く。
「あはっ!お兄ちゃんとお昼だぁ!やっと念願が叶ったよ~♪」
唯は本当に嬉しそうに言いながら、俺にぴったりと肩を寄せ付ける。
もうね・・・
こんな顔を見せられて寄り付かれると、俺は何も言えないし抵抗も出来なくなるの・・・
くそっ、唯は既に俺の弱点を知っているのか!?
・・・いや、本当に純粋に思った事を口に、そして行動しているだけだろうな。
結果として、俺はそれに弱いというだけである。
だって、こんな素直な娘が妹だなんて可愛すぎるし・・・
デレても仕方ないじゃん!?
でも、だからこそ・・・
女性を感じさせないでほしいのだが・・・
「そうよね。兄さんと学校で昼食を取れるなんて、本当に幸せ・・・」
穂香もそう言って、俺の肩に頭を預けてくる。
いや、だったら昼食を取ろうよ!
俺に身を寄せ付けてないでさぁ・・・
そうは思いつつも、俺の心も幸せに満ちている事は否めない。
そんな中・・・
「ところで、お兄ちゃん?これ何?」
「ちょっと、唯ちゃん!これって言わないで!?」
唯が俺に尋ねてきたのも無理はない。
正面にいたはずの凛が、気が付けば
・・・足が痛いです、凛。
胡坐を組んだ足に座られたら痛いんです・・・
でも、そんな事は直接言えず、耐える俺・・・
「あはっ、ごめんなさ~い!あまりにも自然にお兄ちゃんの上に座ってるからビックリしちゃって、つい」
そう、俺も一瞬何も不思議に思わない程、ナチュラルに座っていた。
「ふふん。こう見えて・・・ゆっちゃんの妹歴は、唯ちゃんや穂香よりも長い先輩なんだからね?」
いや、だからそれ何なの!?
俺の妹って職業か何かなの?
妹の先輩後輩って、マジで何!?
つーかそれ以前に、凛は普通に唯の先輩だろうが・・・
そっちはどうでもいいのかよ・・・
「へえ、そうなんだぁ!じゃあ、これからよろしくお願いしますね、妹先輩♪」
「えへへっ、こちらこそよろしくねっ♪」
妹先輩とか、ほんと意味わからんし・・・
唯も穂香同様に、普通に受け入れているし・・・
妹同士(?)で、何か通じるものでもあるのか?
もういいや・・・
深く考えるのはやめよう・・・
「というか、お兄ちゃんはやっぱり凄いね!どこにでも妹がいるんだね♪」
・・・あの、やめてくれませんか?
俺に見境無く妹を作っているような言い方をするのは・・・
とは思うものの・・・
唯のキラキラした、本当に嬉しそうというか尊敬しているような目で見られると・・・
しかも、腕を絡ませて更に密着されたりしたりなんかしたら、やはり何も言えなくなる俺・・・
俺達が、そんなやり取りをしていると・・・
「もう。あんた達、何やってるのよ・・・」
と、美咲は苦笑いを浮かべながら呟く。
そして・・・
「はあ、もう・・・仕方ないわね。じゃあ、私はこうさせてもらおうかな?」
美咲はそう言って俺の後ろに回ると、俺の背中に自分の背中を預けてきた。
美咲の背中があったかい・・・
・・・って、それはおかしいだろ!
なんでそうなるんだよ!!
なんで美咲まで、俺に密着してんの!?
この広い屋上で、俺の半径50cm以内に全員が集まる・・・
いや、だからもっと広々と有効に使おうよ!!
なんで家でも外でも、俺の周りは密になるんだよ!!
いつもだけど、人口密度高すぎんだよ!
「今日はお兄ちゃんの作ったお弁当だから、楽しみなんだよね♪」
俺が一人嘆いている中、唯はそんな嬉しい事を言ってくれる。
とはいえ、いつもそうだがメインで作っているのは朱美さんである。
俺はその手伝いをしていると言うだけ。
それに、今日はたまたま俺が手伝ったが、弁当に関してはローテーションで穂香や唯も手伝ったりしているのだ。
「うん、私も兄さんと一緒に兄さんのお弁当を食べるの、朝から楽しみにしてたの」
・・・もう!!
何なの!何なの、この娘達!
俺をどこまで悶えさせれば気が済むんだよ!
浮かれちまうじゃんかよ!
「いいな、いいなぁ!ゆっちゃんのお弁当美味しいんだよねぇ。私もお弁当作ってもらおうかなぁ・・・」
いや、凛も嬉しい事を言ってくれるのはいいが・・・
凛の言葉からわかるように、今までも俺の弁当を散々分けてやっただろうが・・・
そんな会話をしつつ、皆自分の弁当を美味しそうに食べ始める。
つーか、気づいたけど・・・
穂香と唯にぴったりくっつかれ、凛が俺の足に座っているこの状態だと・・・
俺が飯食えなくね!?
美咲は背中だからまだいいけど・・・
いや、よくねえよ!?
美咲までもが、俺の背中にくっついている意味わかんないよね!?
もう俺の感覚もおかしくなってきてるな・・・
そんな事を考えていると・・・
「はい、兄さん。あ~ん」
穂香から、玉子焼きを箸でつまんで差し出されました。
・・・えっ!?
それを食べろと?
しかも、一度自分で食べた箸をそのまま使ってるよね?
・・・いや、おかしくね!?
それって、兄妹でやる事じゃないよね!?
もう、兄妹の域を超えてるよね!?
いつもだけど・・・
「ほらっ、兄さん?早く食べないと昼休み終わっちゃうよ?」
くっ!
そんな事を言われてしまっては、食うほかないじゃないか・・・
俺は仕方がないと言い聞かせ、意を決してそれを口に入れる。
「んっ」
うん、なんかさ・・・
穂香が使った箸という余計な調味料のせいで、普通の玉子焼き以上に甘く感じるんだけど・・・
「美味しい?兄さん」
「あ、ああ、美味いよ」
いや、玉子焼きは俺が作ったんだけど!?
自分で作った物を美味いっていうのもどうなの?
せめて、朱美さんが作った物を出して聞いてくれない?
「じゃあ今度はこっちね、お兄ちゃん♪はい、あ~ん」
いや、確かに・・・
確かにさ、凛が俺の足に座って背中を預けてきているから、俺が自分で食うには難しいんだけどさぁ・・・
さすがに、食べさせるのはやめてくんない?
と思いつつも、穂香からは食べたのに唯からは食べないという選択肢はないのである。
だから・・・
「んっ」
食べますよ・・・
食べるしかないんですよ・・・
しかも、やはり余計な調味料のせいで、普段よりも甘く感じる玉子焼き。
「どう?お兄ちゃん、美味しい?」
「あ、ああ、もちろん美味しいよ」
いや、だから!
せめて俺が作った物じゃないものを下さい!
というか、貴方達の兄妹感は絶対に間違ってますよ!!
そして凛は凛で・・・
「じゃあ、私にはゆっちゃんが食べさせて下さい」
いや、何でだよ!!
確かに凛は俺の腕の中にいるけどさ!!
おかしな事ではないかもしれないけどさ!
・・・いや。
良く考えろ悠希。
どう考えてもおかしいぞ?
もう、やばみ・・・
やばみちゃんですよ・・・
どうも、今の環境に考え方が染まってきてしまっている・・・
そして頭も徐々におかしくなってきている・・・
俺は状況と自分の頭のおかしさに気づき正気に戻ろうとしたのだが、凛は餌を待つひな鳥のように口を開けて待っている。
このままでは、このひな鳥が飢えてしまうのである。
従って、口に餌を運ぶしかないのである・・・
もう状況のおかしさに、俺の思考も完全におかしくなってきた。
訳の分からない正当化をしつつ、俺は箸を持つ。
「で、凛は何が食べたいんだ?」
「う~んとね、じゃあ・・・この唐揚げがいいなっ♪」
俺は一応、食べたいものを聞いてから凛の口に運ぶ。
「う~ん、ゆっちゃんに食べさせてもらう唐揚げは、また格別に美味しいねっ♪」
「そ、そうか・・・それはよかったな・・・」
そんな事を言われても困ってしまう。
なにせ、あまりやりたくない事なのだから・・・
現にほらっ・・・
穂香と唯も羨ましそうに見ているじゃん・・・
「あのね、凛先輩?私と・・・場所変わってくれちゃったり・・・なんかしません?」
唯は遠慮がちに上目遣いで目を潤ませながら、凛にお願いをしている。
・・・ほら・・・ほらっ!!
こんな事になるんだよ!!
しかも、その上目遣い!!
可愛すぎるだろが!!
そんな事されたら、誰も断るやつなんているわけないだろが!
「うん、いいよ~!じゃあ唯ちゃん、こっちおいで!私がゆっちゃんの隣に移動するから」
「あはっ!ありがとうございます!凛先輩♪」
ほら、やっぱり・・・
というか、なぜ俺の事なのに俺に確認しないの!?
だって、そこには俺の意思は存在しないからなのです・・・
シクシク・・・
俺は心の中で泣きながら、移動を終えた凛に食べさせられ、そして唯には俺が食べさせる・・・
「うん、本当だね!お兄ちゃんに食べさせてもらったら、格別に美味しいね♪」
「そ、そうか。それはよかったよ・・・」
唯も本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる。
そしてもちろん・・・
これで終わるわけがないのです・・・
「じゃあ唯?今度は私と代わってもらえる?」
「うん、いいよ~!お姉ちゃんも、お兄ちゃんに食べさせてもらいなよ♪」
俺はやるとは言ってないんですけど・・・
と、そんな事は口が裂けても言えない俺・・・
そんな事を考えている間に、穂香が俺の足に座る。
いや、もうさ・・・
唯は完全に年下だし、凛も見た目が年下っぽいから何となく許容できるけど・・・
穂香は妹とは言え、同い年だし色んな意味でやべえ!!
ちょっと、ドキドキしちゃうじゃんかよぉ!!
もうね、頑張って意識しないようにしていたけど・・・
俺の前に感じる穂香の背中も・・・
俺の両隣の凛と唯の二の腕も・・・
俺の背中に寄りかかっている美咲の背中も・・・
俺の4方が全部、やわっこくてあったかいんだよ!!
ぬくもりに囲まれて、やばいんだよ!!
そんな俺の気持ちなど関係なく、俺は同じように両隣から食べさせられつつ穂香に食べさせなければならないのである。
そして、穂香も俺から食べて嬉しそうに満足すると、更にローテーションが始まりそうな雰囲気が・・・
もう、マジで勘弁してください・・・
そう俺が困っていると・・・
「ほんと、皆して何やってんのよ・・・」
と、さすがは困った時の美咲さん。
呆れた笑いをしながら、助け船を出してくれる。
そして・・・
「穂香達は家でも、いつもそんな事をやってるの?」
と、美咲は俺と背中合わせのまま、俺の正面に居る穂香に声をかける。
やはり、流れを切る事に関しては天下一品です!
良いくす・・・おっとぉ、良い美咲さんです!
いや、ていうか・・・
助けてくれるのは有難いんだけどさ・・・
せめて、俺から離れて互いに顔を合わせて話してくれないかな?
俺がそう思っていると、俺の足に座っていた穂香はくるっと向きを変えて俺と向き合うように正面を向いた。
「ちょっと、美咲聞いてくれる!?」
そして、そのまま俺に抱き着くような姿勢を取り、俺の背後にいる美咲に話しかけたのである。
・・・って、違う!!
違うんだよ!!
確かに顔を合わせて話をしようとしたのかもしれんが、俺が思っているのと違う!!
俺を挟んでって事じゃないんだよ!!
俺の顔の横に、穂香の顔がある・・・
やべえ・・・
頬がくっつきそうです・・・
俺の意思とは関係なく、吸い寄せられそうです・・・
しかし、俺は何とか鋼の意思で押しとどめる。
「うちでは・・・お行儀が悪いからって事で、お母さんがさせてくれないの」
「ふ~ん、そうなんだ?あの朱美さんにしては、意外ね」
どの朱美さんだよ!
と、ツッコミたい・・・
「そうなの。でも、私達にはダメと言いながら、お母さんは兄さんとイチャついてるのよ?」
「・・・何それ?」
・・・何それ?
俺も美咲と同意見です・・・
俺にそんな記憶はございません・・・
「それがね、兄さんが料理の手伝いをしている時に、お母さんが味見と称して直接手で食べさせてるのよ!?それだけじゃなくて、兄さんからも直接手で食べさせてもらってるのよ!?ずるいよね!?」
「・・・ああ、うん。そう・・・ね。って、なんか同意しかねるかな・・・(気持ちはわからないでもないけどね・・・)」
ああ、確かにそんな事したような気がしないでもないような・・・
・・・いや、だって仕方ないじゃん!!
味見してほしいって言われて、直接手で口に運ばれたんだよ!
拒否しようとしたら、朱美さんが上目遣いで目をウルウルさせんだよ!!
断れるわけないじゃん!?
しかも、指にタレが付いているから残さず綺麗に取ってねとか言われて・・・
朱美さんの指を綺麗に・・・
それが終ると、今度は自分が味見したいと言って俺の手から直接・・・
もちろん、俺の指も綺麗になりましたよ・・・
・・・ああ、もちろん。
興奮したさ・・・
興奮するに決まってるだろ!!
むしろ、しないわけないじゃん!?
あれは、マジでやばかった!
俺の理性が崩壊しかけたよ!!
もうほんと、何て事してくれてんだよ!
これじゃあ母と息子というより、恋人か夫婦じゃねえかよ!
と、叫びたくなったが、朱美さんの嬉しそうな顔を見たら・・・
そんな気も失せるよね・・・
俺がそんな事を思い出している間も、穂香は俺の顔の横から後ろを覗いて美咲と話している・・・
いい加減、俺から離れて普通に話してくれませんかね・・・
俺の理性を崩壊させたいのですかね・・・?
シクシク・・・
そして、俺が心の中で泣いていると・・・
「いいなぁ、ゆっちゃん家。楽しそう・・・私も桜井家に住もうかなぁ?」
と、凛がぼそっと呟くのであった。
いや、もうやめて!!
俺の精神を脅かさないで!!
俺の理性崩壊の日まで残り僅かである事は、間違いないのであった・・・
いや、絶対に崩壊させねえよ!?
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