第7話 悠希の友人との日常





 俺が雪ちゃんと美咲に捕まえられた後は穂香と唯に預けられ、前を行く2人はコソコソと何かを相談しながら歩いている。


 そして俺は穂香と唯に挟まれ、3人いるのに2人分くらいの幅になりながら歩いていた。


 ・・・何を言ってんだって?


 いや、これでもかというくらいピッタリとくっ付かれ過ぎてるんです・・・

 むしろ、俺1人分くらいの幅じゃないのかってくらい、ピッタリくっつき過ぎなの!


 いつもだけど・・・

 色んな所がやわこいです・・・温かいです・・・気持ちいいです・・・


 いや、だから!

 そうじゃなくてだなぁ・・・


「ほ、穂香さんと唯さん?あ、あのですね・・・」

「・・・兄さん、何で敬語なの?」


 そりゃ、この状況・・・

 敬語にもなりますよ・・・


「い、いや、だってね・・・?」

「お兄ちゃん、どうしたの?何か辛い事があったの?」


 唯の優しさが胸に痛い・・・


 つーか、辛い事と言うのなら・・・

 この状況がですよ・・・


 俺は意を決して伝える事にする。


「あのさ・・・2人共、くっつきすぎじゃない?」

『??』


 ええ!?

 何で2人して不思議そうな顔してんの!?


 不思議に思うのは俺の方だよね!?

 

 おかしいのは俺なの!?

 違うよね!?ね!?


 そうは思いながらも・・・


「いえ、何でもないです・・・」


 と言うしかなかった。


「ふふっ、変な兄さん」

「あはっ、何だかわかんないけど、元気だしてね!お兄ちゃん」


 俺の様子に笑顔を見せる2人を見ていると・・・


 ま、いいか。


 と、何だかどうでもよくなって、好きにさせる事にしたのであった。

 その俺達の様子を、前を行く雪ちゃんと美咲が羨まし気に見ているとも知らずに・・・



 ・・・・・・



 さすがに学校に近づくと、穂香と唯は適正な距離を取ってくれた。

 というのも、俺達の関係を内緒にしているという訳ではないが、知られると面倒くさいから美咲達以外は誰にも言っていない。


 だからある意味では、学校という場所は安心できる空間でもあるのだ。

 穂香と唯が俺に無茶な事をしないと言う意味でね。


 ちなみに、俺が美咲と雪ちゃんとは幼馴染だという事は、知り合いには周知されている。


 だから、俺がこの4人と一緒に歩いている所を見られたとしても、幼馴染と一緒に登校している所に、美咲の親友の穂香達が合流したとしか思われないって事。


 まあ、そんなどうでもいい事を考えていたら学校に到着。

 そして雪ちゃんと唯は別の学年の為、穂香はクラスが違うため別れる事になる。


「じゃあ、皆またね~」

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、それに雪乃さんと美咲さん、またです!」

「雪乃さん、それではまた。兄さんと唯と美咲は、また後でね」


 雪ちゃんが俺達に挨拶をすると、それに続いて唯も挨拶をしてくる。

 そして、穂香の言葉に俺は・・・


 ん?また後で?


 と、疑問に思ったのだが、まあ放課後とか家に帰ってからの事だろうと深く考える事をやめ、俺と美咲も挨拶を返すと教室へと向かった。


 2人で並んで歩いていると、美咲が口を開く。


「悠希達は、羨ましいくらい本当に仲がいいよね。ついこの間、兄妹になったばかりだというのに、最初から兄妹だったみたいにね」


 ・・・ん?羨ましいって誰に対して?


 とは思うものの、俺と仲が良い事が羨ましいわけないし、親友である自分以上に穂香との仲が良く見えるって事だろうと解釈する。


「まあね。片親同士だった俺達が家族になった事で、きっと互いの穴を埋められたんだろうな」

「・・・そうね」


 美咲に対して、今更隠したところで意味はない。

 俺自身、寂しいとまでは言わなくても、やはり心に穴があった事は否めない。


 だから、そう素直な気持ちを吐露した。


 それに対して美咲は、余計な事を聞いて申し訳なかったような、それでいて安堵した様な複雑な表情を浮かべていた。


 そんな表情を見た俺は、美咲に笑顔を見せながら礼を述べる。


「美咲も、今までずっと心配してくれてたんだろ?ありがとな」

「っ!別に・・・そんな・・・」


 美咲は俺が礼を言うと思わなかったのだろう。

 一瞬、息を飲んだような姿を見せると、照れたようにそっぽを向いた。


 その様子を見て、俺はくすっと笑いながら教室へと入る。


 俺は自分の席に向かうと、後に続いて入って来た美咲も自分の席へと向かう。


 ちなみに俺も美咲も、互いに1年の時に構築した別の友人関係があるため、教室では互いの友人達といる事の方が多い。

 だから、外では美咲と普通に話したりするけど、教室では用事がある時以外はそんなに話さなかったりする。


 そして俺がカバンを机に置いて椅子に座ると、すぐに声をかけてくる者がいた。


「やあやあ!悠希くん!今日も相変わらず、しょぼくれた顔してんなぁ!」


 俺の肩にポンと手を置きながら冗談をかましてきたのは、1年の頃からの友人である高橋直哉たかはしなおや

 さわやかを気取っているが、本人が気取っているだけで実際には全くさわやかに感じない残念な奴である。


 俺が美咲と入ってきた事で、「幼馴染と登校するのは男のロマンだ」とかわけわからん事を常日頃言っている直哉が、俺を妬んで絡んでくるのだ。


 しかし俺は、言われっぱなしは性に合わない。

 俺は何でもやられたらやり返すタイプ。


 特に、直哉が相手なら尚更である。


「いやいや、直哉くん!冗談は顔だけにしておけよ?君以上に、ふざけた顔した奴はいないだろう?」


 だから俺も冗談を返すと・・・


「ああん!?」

「おおん!?」


 奴が睨んできたので、俺もにらみ返す。

 そして俺達はしばし睨み合っていると・・・


「ねえねえ君たち?仲良くてイチャイチャするのはいいんだけど、ほどほどにしておきなよ~」


 もう1人が俺達の側に来て、そう不快な発言をのたまいやがりましたよ。


 彼女の名前は小坂井凛こさかいりん

 セミロングの髪にフワッとしたパーマをかけた小柄で可愛らしい女子だ。

 本当に小柄で150cm無いらしいが、本人曰く「150はあるもん!(四捨五入すれば・・・)」らしい。


 凛も直哉と同様に1年の時からの付き合いで、よく3人でつるんでいて仲が良い。


 とはいえ、今の凛の不快な発言は見過ごせん!


「こらっ!誰が直哉とイチャラブするか!!」

「いや・・・誰も、イチャラブまでは言ってないよ?」


「こんなもんいらねえ!のし付けて・・・いや、のしが勿体ない!そのまま送り返してやる!・・・凛に」

「ううん、私もこんなもんいらない・・・」


 俺と凛のやり取りに、直哉が口をはさんでくる。


「おい、こらっ!なんだその扱いは!俺達は親友じゃなかったのかよ!?」

『えっ??』


 その言葉に、俺と凛は頭にクエスチョンマークを出しながら首をかしげる。

 そして、俺は凛に問い掛ける。


「へえ、凛は直哉の親友だったんだ?」

「いやいや、私は高橋君と親友だった記憶はないから、きっとゆっちゃんの事を言ったんだよ~?」


 俺と凛は、直哉を押し付け合う。

 ちなみに凛は、直哉の事は仲良くなってもずっと高橋君呼びなのだが、俺にはなぜかあだ名で呼んでいる。


「君達・・・俺の扱い、大概ひどくない?シクシク・・・」

「泣くなって、大丈夫だ。ほらっ、凛が慰めてくれるからさ」

「そうだよ。ちゃんと、ゆっちゃんが慰めてくれるから落ち込まないの」


「だあああああ!!だから、俺の押し付け合いをすんじゃねえ!!本泣きすんぞ!いいのか!?あん!?」

『ん、どうぞどうぞ』


 と、俺達は直哉を弄り倒す。

 これはまあ、いつもの通りで仲が良いから出来る事。


 直哉も本気で怒ったり落ち込んだりはしておらず、芸人気質で弄られる事が逆においしいと思っているくらいなのだ。

 むしろ弄られている自分がイケてるとか可愛いとか、わけわからん事を言うような変わり者である。


 とは言うものの、やられっぱなしというのも嫌らしい。

 面倒くさい奴である・・・


「くそぉ、悠希のみならず小坂井まで!ちみっこの癖に!」

「ちょっ!ちみっこじゃないもん!!」


「どこからどうみても、ちみっこじゃん!」

「うぅ~、ちみっこじゃないのにぃ・・・ゆっちゃ~ん!高橋君が虐めるよ~!」


 直哉は俺に反撃をしようとしても全部返される事がわかっているため、ターゲットを凛に定めたようだ。


 そして、ターゲットにされた凛は椅子に座っている俺に向かって泣きついて来る。


「こらこら、人の外見的特徴を弄るもんじゃないよ」


 俺は抱き着いてきた凛の頭を撫でながら、直哉を注意する。


「ええ!?悠希がそれを言うのか?さっき俺の顔を弄ったよな?」

「え?そうだっけ?まあ、先に俺を煽って来たのはお前だし・・・何よりも、直哉だし・・・」

「うん、高橋君だしね・・・」


「なんでじゃあああああ!!」


 俺に文句を言ってきた直哉に、直哉を弄って何か問題あるのか?くらいの感じでいうと、凛も俺に抱き着きながら顔だけ直哉に向けて同意した。

 その様子に直哉は叫び出す。


 というか、凛は完全にウソ泣きで俺に抱き着いていたのである。

 まあ、そこは俺も直哉もわかっていた事だが。


 ただ凛は本当に、背が低い事を気にしている部分もあるので、そこを弄るなと言ったのは俺の本心ではあるのだが。


 かくいう俺も、そういう凛に妹っぽい感じの印象を受けているため、妹の様に接しているんだけどさ。


 何にしても、俺達はいつもこんな感じなのだ。


「さて、そろそろ私も自分の席に戻ろうかな」


 そう言って俺から離れた凛は、ぴょんと身を翻した。

 それと同時に、制服のスカートも一緒に翻す。


 ちなみに、うちの女子の制服のスカートは短い。

 そして俺は椅子に座っている。


 という事は・・・


「あっ!今・・・見えた?見たよね!?」


 凛がスカートを押さえ、顔を赤くしながら必死に訴えている。


「くぅ~!!見えなかった!」

「いや、高橋君はどうでもいいの!・・・っていうか、見たら・・・わかってるよね?」


 直哉は立っていたため、位置と角度的には見えなかったようで悔しがっていると、凛にジロっと睨まれる。


「おかしいだろ!なんで見てもいない俺が怒られるんだよ!?しかもどうでもいいって・・・」

「だって、高橋君だし・・・」


 もう、直哉だしという言葉はお決まりになりつつある。


「それで・・・ゆっちゃんも・・・もちろん見てない・・・よね?」

「・・・いや、もちろんばっちり見た!」


 前にも言ったが、俺は見るものは目を反らさずに見るタイプだ。


「ええ!?まさかの堂々と見た発言!?」


 まさか俺が堂々と言うとは思わなかったようだ。


 しかし、甘い。

 甘すぎる!


 俺は見る時はガン見するし、それを(時と場合にもよるが)隠したりはしないのだ!


「(発言が予想外過ぎるよ!でも、これならどう出るのかな?)・・・うぅ・・・もうお嫁にいけないよぉ」


 最初に何かぼそっと聞こえた様な気がするが、そこはあまりに小声過ぎて聞こえん。


「・・・責任とって・・・くれる?」


 何の責任を取れと言うのかよくわからんが・・・


「ふっ・・・ばかもんが!その程度の事で、俺が責任を取ると思うなよ!?」

「ええ~!?怒られた!?私、怒られたよ!?パンツ見られたのは私なのに!?」

「・・・どんまい」


 俺の反応が思っていたのと違い過ぎたのか、凛は俺と直哉を交互に見ながら狼狽える。

 そんな凛を励まそうと直哉は泣き真似をしながら凛の肩に手を置こうとするが、凛はナチュラルにそれをサッと避ける。


 ・・・うん、直哉もどんまい。


 つーか、以前の俺であれば多少は動じたかもしれないが・・・

 ここ最近、煩悩との戦いに打ち勝っている今の俺に死角はない!

 その程度では屈しないのだ!


 そんな事よりも・・・


「そもそも、凛は誰にもお嫁にやらん!!」

「ええ!?ゆっちゃんは、まさかのお父さん!?」


「違うし・・・せめて、兄と言って」

「うん、お兄ちゃん!」


「お前ら・・・俺は何を見せられてんの?」


 俺達3人でいると大体がノリでこんな事やるから、正直何をやっているのかよくわからん。

 まあ、楽しいからいいんだけどね。


 俺達のやり取りを突っ込んだ直哉自身も、楽しそうにしているし。


「・・・つーか、お前らのその関係性は相変わらずだな」

『ん?何が?』


 そして直哉は俺達を見て、しみじみと呟く。

 それに対して、俺と凛が疑問の声を上げる。


「いや、男女というよりも兄妹という感じがさ。普段も小坂井は悠希によく甘えてさっきみたいに寄り添ったり、ナチュラルに膝に座ってみたり、悠希は悠希でそれを温かい目で普通に受け入れてるし」


 そう、今回のようにノリで楽しむ事も多いが、先ほども言ったように俺は凛を妹の様に感じている。

 それがわかってなのかどうかは知らないが、凛も同じように俺を兄の様に接する時がある。


 その事を直哉は言ったのだが、そういう直哉もそんな俺達を温かい目で見ているんだけどな。


「・・・まあ、そうだな・・・でも、今更だろう?」

「うん、そうだよね。それが心地良かったりもするし、私としては何も問題はないかな?」

「そっか、それならいいんだけどな」


 俺達が納得しているのであれば、直哉としても何も言う事はないという事だろう。


 しかし、この関係が崩れるかもしれない。

 言わば、凛にとっての最大の危機が訪れている事は、この時の俺達には知る由もなかったのである・・・








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