佐倉の自己紹介と状況説明(4)
記事に一通り目を通すと、彼女はすっと目を細めた。
「一つまずい点があるよ。新聞記者さん」
「まずい点?」
「この小泉さんの免許証が写っている写真なんだけど」ぽかんとする僕に、彼女は記事内の一つの写真を拡大して見せた。「背景に写り込んでいるものから、撮影場所がうちの部室だと分かってしまう」
目を凝らすと、写真の隅の方に白い影が映り込んでいる。
「……これだけでわかるものなの?」
「この後ろの白いの、うちの部室にある着ぐるみでしょ。独特のシミがついているから、うちの部員なら誰もが気づくと思う」
しまった。そこまで確認していなかった。
「この写真は小泉さんの情報をリークした人からもらったんでしょう? じゃあその人はうちの部員の誰かってことかな」
「忠告どうもありがとう。今後気をつけるよ」と僕は苦笑いで言った。
「で、誰なの?」
「……え?」
目を逸らす僕に、彼女がたたみ掛ける。
「とぼけないで。今回のいたずらの犯人を見つけ出す上で、手がかりとなるのは佐倉くんに送られてきた例のメールでしょ? メールの内容から言って、前回新聞部に情報提供した、おそらくはうちの部員の誰かが今日のメールの差出人と同一人物である可能性が高いと思うんだけど」
「いや、まだそうとは限らないよ。前にアポを取った時のメールアドレスと、今日送られてきたアドレスは違っているし」
どこまでもシラを切る俺に、彼女の目尻が吊り上がる。
「ねえ、わたしに教える気はないの?」
僕は正直に言った。
「……
すると森さんはため息まじりに、「こんな状況なんだし、わたしにも聞く権利があると思ったけどな。でもそういうことなら無理にとは言わないけど」と、意外にもあっさりと引いてくれた。聞き分けがよくて助かる。
そう安心したのも束の間、今度は別の角度からの質問を加えてきた。
「じゃあ佐倉くんが今回の記事の件で会ったことのある人のなかで、誰かあなたに恨みを持っていそうな人に心当たりはない?」
目を瞑り、今回の記事で関わった関係者の顔を順番に思い浮かべる。
「小泉さんは、僕に真相を話せて気持ちがすっきりしたと言ってくれた。それから小泉さんの嘘を教えてくれた人物は、僕に対して恨みがあるとは思えない。……その線で行くと臭いのはミスコン主催団体の二人かな。でもその二人は既に退学処分が下されているんだ。実名や顔写真も記事で公開されたし、校門に立っている守衛さんに見つかったらたぶん追い返される。それにそんな二人がこの大学に来たらちょっとした騒ぎになるだろうし、僕の耳にも届くはずなんだけどな」
一呼吸おいて、補足する。
「それに、新聞部に恨みがあるのなら、単にうちのノートPCを破壊するだけで良い。森さんをここまで運んできたり、メールで僕を部室に呼びつけてきた意味が宙に浮いてしまう」
「それじゃあ、あのメールは今回の事件の犯人をミスコンの不祥事の関係者だと思わせるためのミスリードの可能性も出てきたわね」
ミスリードとは芝居がかった言い回しだ。ドラマの見過ぎかもしれない。
「森さんの方で、恨みを持たれている人に心当たりはない?」
「さあ、ないと思うけど。それにもしわたしに恨みがあるのなら、わたしに被害を与えるやり方は一つじゃなかったはずでしょ」
確かに森さんに恨みがあるのなら、彼女の損害がほぼゼロというのはおかしい。
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