密室と眠り姫(4)
表紙の題は『神楽大学付属小学校向け舞台台本』とあった。それを見てすぐにピンときた。これは二部演劇研究会の台本だ。この大学には大学公認の演劇サークルが二つある。一つは規模の大きな一部演劇研究会。もう一つは規模が小さく、付属の学校向けに演劇を披露している二部演劇研究会だ。
台本を開く。一頁目にキャストの紹介があり、その後にそれぞれのセリフや役者の動きについて書かれた文章が続く。興味深いのは、所々にある落書きのような書き込みだ。キャストのセリフや動きについて書かれた文章の下の余白スペースに、棒人間のイラストが頻繁に登場している。またその棒人間は長方形のマスの中で、ページによって別々のポーズをとっている。さらに面白い点は、棒人間の背が伸びたり縮んだり、数が増えたり減ったりしている点だ。棒人間を囲う長方形も、ある時は横長であり、またある時は縦長になったりしている。だがその長方形が斜めになることはないようだ。踊る棒人間は台本のキャスト紹介のページを除くページに不定期的に現れ、それは最後のページまで続いていた。
ぱらぱらとページをめくっていると、その途中で栞のようにして挟まっていた紙を発見した。それはA四用紙を二回折りたたんだペラ紙だった。開いてみると、そこにはキャストや脚本、小道具などの役割分担について、部員の名前が列記されていた。見出しには太文字の明朝体で『役割分担表』とある。
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【役割分担表】
キャスト:内藤奈緒・
舞台監督:本田穂乃果
脚本:本田穂乃果・森美月
衣装メイク:倉持佳奈
美術:内藤奈緒
小道具:鳥谷徹
音響:森美月
広報・撮影:森美月
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キャストの小泉航太の上には二重線が引かれ、その上に鳥谷徹と書かれていた。
この表の中に、目の前で静かに眠り続けている彼女の名前があるかもしれない。少し考えてみる。
眠る直前まで読んでいたと思われる台本。踊ったり増殖したりする棒人間。それを囲う長方形。情報を整理すると、ある一つの可能性が頭に浮かんだ。
撮影の役割を担っているのは一人だけだった。小さく、その名を口にする。
「
彼女がゆっくりと瞼を上げた。
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