密室と眠り姫(1)

 十月三十日、十四時四十五分。一通のメールが新聞部のメールアドレスに送られてきた。

 メールの送り主は誰だかわからない。ランダムな英数字のアドレスを使っていた。「新聞部の過去の記事について話がある」との旨で、話し合いの場所として提示されたのは新聞部の部室。時間については「これから」とあった。

 神楽大学の公認サークルである新聞部は四人のメンバーで成っているが、このような手合いの相手は決まって僕の役割だった。理由は単純。僕以外の新聞部三名は現在、全員海外留学に旅立っていってしまっているのだ。大学図書館内でメールを受け取った僕は、部室へと急行した。

 新聞部の部室はS校舎地下の最奥。部室に続く廊下の明かりはやや薄い。しかし音は遠く曲がりくねった通路でも楽々と届くようで、同じ階のどこかで練習しているエレキギターの音がエコーして聞こえてきた。そういえば三限前もこれと同じ演奏をここで聞いたのを思い出す。その時も同じ箇所でつまずいていたが、大丈夫だろうか? 学祭はもう三日後にまで迫っている。

 部室の入り口で弾む息を整える。腕時計を確認すると、現在時刻は十四時五十分。メールが届いてからまだ五分しか経っていない。

 ポケットの長財布から学生証を抜き出す。この大学の学生証はICカード機能を備えていて、部室や図書館など学内施設の利用のほか、講義の出席確認などにも用いられている。ドアの横に取り付けられた銀色のICカードリーダーに学生証をかざす。ロックの解除を知らせる軽い電子音は、ほとんどギターの音に掻き消されていた。取手を握り、引く。

 暗い室内に足を踏み入れたその時、奇妙な違和感に包まれた。その感覚を後回しにして、まずは入り口近くのスイッチに触れて明かりをつける。すると違和感の正体がにわかに姿を現した。

 部室の中央で、見知らぬ女子学生が寝ていた。

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