第49話 話し合い

 ジュディさんの話を聞いた後、私はジュディさんに全てを話すように伝えた。

 彼は「いつまでも抱えているわけにはいかない、葵サンと一緒に今日一緒に事務所に戻る」と言う。

 2人で事務所に戻ると、麗が一人寂しげにぽつりと自席に腰掛けている。

 

「麗、ただいま。ジュディさんも来たよ」


「ご無沙汰デス。オーストラリアには行けなくてスミマセン」 


「ジュディさん。体調はいかがですか?」


「ちょっとしんどくて。華菱サンも元気ナイ……」


 麗とジュディさんがやりとりしているうちに、白亜さんのいる会議室に行く。

 

「白亜さん、ジュディさんと戻りました。この件に関していろいろと手がかりがありそうなので、いったん皆で情報共有しませんか?」 

「何か分かったの?」


 真剣な表情の白亜さんの言葉を遮るように、矢切さんは苛立ちを含める声をあげる。


「だから、もうこの件はいいって言ったでしょ。それより、早く私の新しい恋人探しを……」

「あなた、これから新しい恋人を見つけて3年以内に成仏できるとでも本気で思ってるのですか? 本当はまだを諦められないくせに」


 いつになく厳しい口調で吐き捨てるのは宮古さんだ。

 周囲は驚いて彼女を一斉に見る。


「幽霊になってからもあなたが彼の後を追って、彼に気付かれていないのに、何度も彼の名前を呼んでるのを知ってるんだから。だって私、幽霊になったあなたの後をこっそりつけておりましたもの。成仏できなかったら、あなたにまつわる記憶を私が消さないといけないの。短い間だったし、仕事仲間ではあったけど、あなたは……由香さんは、同時に私の友人でもあったのに。そんなことする私の気持ちにもなってくださいませ!」


 宮古さんは崩れるように机にうつ伏せ、声を上げて泣いている。

 矢切さんは宮古さんの取り乱した様子に動揺しながらも、そっと手を延ばして彼女の背をさするが、触れない事実を認識して涙する。


「宮古さん……いや、桜。ごめん。私、自分のことばかりだったよね。何で彼を諦められないのかも、桜や白亜さんに今まで黙ってたことも、この件で嘘付いてたことも全部初めから話すね」


 彼女が嘘を付いていたことが分かり、一瞬だけ宮古さんの瞳が悲しそうに陰る。

 矢切さんは嗚咽を止められないまま、ぽつぽつと話し始める。

 

 彼女は失恋をしてから、自分の顔に問題があるのだと思い、美容クリニックへ整形の相談に行った。

 担当となった美容クリニックの医師に恋に落ち、なんとそのに整形したのちに交際。

 ある日、食事デートをしている時に医師が彼女の名前が「由香」であるのに関わらず「ルカ」と間違えたことが原因で矢切さんは激怒し、テーブルにあったお酒を一気のみして死亡。

 意識もなく、気が付いたら遺体がなかったと宮古さんや白亜さんに話したのは嘘だったと話す。


「彼が私の遺体を部屋に運んだのもしっかり見た。ジュディさんと一緒に住んでいるのも。ジュディさんに必死で話しかけたんだけど、気が付かないのね。それにしても私の今の顔、よく見たらジュディさんにそっくりなのは気のせい?」


 ジュディさんの顔をまじまじと見つめる矢切さん。


「ソーリー。一瞬だけ眼鏡で矢切サン、見えた。ケド、すぐ外しちゃったし、顔も変えてたから矢切サンだとその時は気が付かなかった……」


 矢切さんの話によると、その夜に彼の車に遺体を乗せ、箱根付近のコテージへと移動したらしい。

 残念ながら、具体的にどの場所かは分からないと言う。


「責めてる訳じゃないけど、どうしてこんなに大事なことを隠してたのかしら?」


 宮古さんは聞きにくそうに眉を歪めつつ問いかけると、矢切さんは両頬に手を当ててテーブルに頬杖をつく。

 

「だって、そこで私の遺体を大切そうにずっと見てるし、定期的に東京から足を運んでくれてる。しかも腐らないように特殊な加工をしてくれてるんだよ? きっと私と離れたくなくて遺体を手放したくないんだよ。そんなに私のことを大事に思ってくれる人が、死体遺棄罪になっちゃうなんて耐えられないよ」


「矢切さん、その……」


 バツが悪そうに、ジュディさんと麗と私は視線を合わせ、今までのことを順番に皆に伝える。

 白亜さん、宮古さんは私達の話を聞き終わると同時に矢切さんに視線を移す。

 

「何それ。婚約者が忘れられなくて、私をこの顔にしたとか有り得ない! 庇ってあげて大損じゃん!」


 力強く矢切さんは机を蹴飛ばす動作をするが、足がない事実を再確認し、唇を噛み締める。

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