第47話 ストロベリー
白亜さんから地図を渡され、定番ではあるが果物を買ってジュディさん宅へお見舞いへ行く。
ジュディさんの住む六本木にあるマンションの最上階に到着。
白亜さんや麗はダブルワークをしているし、どちらも自分のお店を持っているから、ある程度余裕があるのは分かるけれども、ジュディさんが別の仕事をしているのは聞いたことがない。
幽霊保護課の公務員としての給料だけで、六本木の最上階のマンションに住むのはどう考えても無理なのに、どうして彼はこんなところに住んでいるのだろう。
疑問に思いながら、ジュディさんの部屋番号を押すと、インターン越しに彼の返事をする声が聞こえ、入り口のロックが解除される。
マンションの小綺麗なエレベーターに乗り、最上階のジュディさんの部屋の前に到着すると、ジュディさんが部屋のドアを空けてくれる。
「ジュディさん、ご無沙汰してます」
「オゥ……葵サン。わざわざお見舞い、サンキュー」
ピンクのサテン生地のパジャマ姿のジュディさんはやつれているようで、元々白い肌がさらに青白く、頬はこけている。
リビングに案内され、ソファーに腰掛ける。
ジュディさんは冷蔵庫から缶コーヒーを持ってきて渡してくれる。
「お構いなくて大丈夫ですよ。果物を持ってきたのですが食べます? 苺なんですけど」
「ストロベリー、大好きデス! 一緒に食べましょう」
「良かった。洗ってきますね」
「イエイエ、僕が」
ジュディさんは苺をザルに入れてヘタが着いたまま洗い、戸棚からデザート用のガラスの皿に乗せる。
「苺はヘタの着いたまま洗ったほうが、栄養高いままデスよ」
得意気に話すジュディさんが純粋にかわいい。
「体調は大丈夫ですか?」
「ハイ。この度はご迷惑おかけシマシタ。せっかくお二人がオーストラリアに来てくれたのに。僕も家族にたくさん伝えるコト、あったのに。僕の家族に、ひょっとして少し会ったカナ?」
ジュディさんは悲しそうな表情で問いかけるので、私は曖昧に笑って頷くと、彼は少しだけ無邪気に問いかける。
「僕にソックリな子、いたデショ?」
頭から冷水を浴びせられた気分だ。
ジュディさんは、ルカさんのことを知っているのだろうか。
「葵サン、それは女の子にも会った反応デスね。僕は知ってる。誰かが、僕のフリして生活してるコト」
ジュディさんはスマホをポチポチといじり、「インスタクラム」という写真投稿アプリの画像を見せる。
アカウント名は「ジュディー・ママ」で、前にお会いしたジュディさんのお母さんがアイコンになっていた。
スマホをスクロールし、過去の彼女の投稿を見る。
投稿頻度は少なめで、1ヶ月に一回ほど。ジュディさん母の描いたシドニーの街並みや動物の絵はがきがメインで、時々食べ物や風景の写真が投稿されている。
はっと驚く気持ちがスマホを触る指に伝わり、ぴたりと動きを止める。
長い黒髪、青い目の女性・ルカさんとジュディ母のツーショットだ。
ルカさんは口元を手でグーを作って隠すかわいらしいポーズをしている。
投稿は3年前。
「旅をしていた我が子の帰宅。家族が揃って嬉しい」とコメントされている。
その後も、ルカさんの写真は見つかる。
どれも下を向いたり、目をつむったり、サングラスをしたりと顔全体を決して露わにはしていなかったのは、どこかで関係者に見つかることを恐れているからかもしれない。
「僕の代わりに、この子が僕の家族と会って生活シテル。この子は、僕の家族をダマシテル。ヒドい、どうしてこんなコトするのって思ってました。だから、僕は本当のことを伝えようとしてオーストラリアに行こうとずっと考えマシタ」
俯きながら話すジュディさんの表情は固い。
「でも、僕は日本に来て、幽霊保護課の皆さんだったり、ルームメイトだったりと、たくさんの良い方と出会いマシタ。
僕の考えも、ちょっとだけ変わりました。同じように、この僕にソックリな子も、きっと事情があって、僕の家族と出会って、何かが変わると良いなって。だから、僕はオーストラリアに行くのをヤメタよ」
ジュディさんはふっきれたようにして話す。
彼のなかで、考えに考えぬいた結果が、自らの家族を他人に譲るという考えだったのだ。
「僕はオーストラリアに旅立つはずの日、空港まで来ていたけど引き返した。マンションに戻ってルームメイトに伝えようと思って…たら…」
そこまで話すとジュディさんは真っ青になり、大きく首を振り、近くにあるブランケットを頭から被った。
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