第209話 急襲の海路

 トレシュクからミモザへとエッセル号で急ぎます。

 海だしね、遮る物はない。

 4,5日もあればミモザにつくだろう、って。

 陸路で5倍はかかったのは何だったの?まぁ、いろんな村を見れたし、楽しかったんだけどね。

 他の船だと当然もっとかかるよ。

 だいたい7~10日ぐらいだって。

 助っ人の軍のお船はなんと6日で来たって言ってた。団体さんなのに、ものすっごく早いそうです。


 船はとっても急いでるから、今回は釣りとかは無理だね。

 でも、時折襲ってくるのとかは退治する予定。

 ずっと、右っかわに陸地を見つつ走ります。

 この辺りは陸地が崖みたいなところも多いんだけど、海の中も深いから、あんまり陸から離れなくても全速力で走れるんだって。

 海から陸地が見えるけど、時折、馬車とかからエッセル号を見て感心したりしてる商人っぽい人も、海沿いの道にいるんだ。

 かなり近くてお互い顔が見えるから、僕はそんな人達に手を振ったりして、そうしたら、かなりの確率で手を振り替えしてくれたりして、なんだか楽しいね。


 トレサから出航して、トレシュク内の他の3大港沖を通過します。言わずと知れたナオルにマエサル。マエサル港はトレネー領との川境にあるから、これを過ぎるとトレネー領。そして後は小さな漁港がある程度で、ミモザへと至ります。

 トレサとナオル、マエサルは大体同じくらいの距離かな?トレサとザドヴァ国境の山までも同じくらいらしいです。 

 逃げた人達は、ザドヴァ方面へ行ったんじゃないかって噂です。

 何でもね、ザドヴァの方でも同じ日に、反乱っていうかリヴァルド派の名士たちが決起したって話が、出発するとき商業ギルドの方から聞きました。軍港であるリットン港とそこから首都ザドヴァーヤを繋ぐ大通り沿い。船も騎士も一斉蜂起した模様。そっちの方に行ったんじゃないか、なんて、言われてるよ。


 だけどね、何人かの魔力を使ったろうけど、船から消えた人達を移転させるには少ないんじゃなかろうか、って言うのがドクの意見。移転したのなら近場。トレサの港からそんなに離れてないはずだっていうの。

 内部から攪乱されたら、小さな村とかは危ないかもだって。

 少数といっても、少数精鋭。そんじょそこらの冒険者や、村の守護に派遣されるレベルの兵士さんなんかじゃ、ちょっとばかり荷が重い、っていうのが、うちのメンバーの意見です。

 陸地移動のうちや虐殺の輪舞、不屈の美蝶なんかのメンバーとかち合ったらいいんだけど、なんて物騒なこと言ってるよ。


 順調に進む海路2日目夕方。間もなくマエサルっていうあたり。

 ナオルからマエサルの間はわりとなだらかに海と陸が繋がっていて、小さな浜辺もチラホラ見える。それがまたなんだか良い感じで、僕はぼんやりと眺めつつ、海岸線を楽しんでいたんだ。



 と、そのとき。


 ヒューーン、ドッカーン!!


 攻撃?!


 岸の方からでっかい火の玉が飛んできた。

 ネリアの溶岩よりまだでかい火の玉だ。

 それは、エッセル号の張った帆を直撃し、一瞬で燃え上がる。


 何?


 エッセル号の防御力はすごいはず。そんじょそこらの魔法なんてものともしない。  

 なのに、帆が燃えている。


 当然、その反動で船はもみくちゃ。

 みんな慌てて戦闘態勢。

 僕も魔法が飛んできた辺りに目を凝らす。


 そうこうしている間にドクが帆に嵐みたいな魔法をぶつけて消火したよ。大雨が風によって運ばれて、火を急激に冷やしていく。


 岸の方は、複雑な大小の岩が並び、あのかげに隠れているんだ、とは思うけど、いったいどこ? 


 「いた!」

 アーチャが、そう言うと、間髪を入れず、竜巻を飛ばす。

 ピンポイントでとある岩陰を狙ったその竜巻は、ローブ姿の魔導師を空へと舞上げた。

 「死んでる!」

 ママが言う。

 確かにまったく魔力も、生命力も感じられない。

 「ペンダントが砕けてる。」

 アーチャが魔法を解いて、その人を岩の上に寝かせると、そう言った。

 まさか、今の魔法に全生命力まで使ったの?


 僕は唖然として、なんだか背筋が寒くなったよ。


 「来るぞ!」

 誰かが叫ぶ。

 同時に、何百という激しい風の刃が飛んできた。

 なんて数。しかも一つ一つがでっかい刃。

 僕は、慌てて海の水を壁みたいに持ち上げた。

 だめ、これじゃ止まらない。

 慌てて、水を氷へと変化させる。


 バリバリバリ・・・・


 僕の腕の長さぐらいの幅で作った氷の壁に、その何百という刃が突き刺さる。

 ほとんどは、氷を砕きながらも止まったけど、それにも負けず数枚の刃がエッセル号へと突き刺さる。

 氷で威力は押さえたはずが、多少なりとも船に傷つけた。

 氷はバラバラ。

 そのまま海へと落下する。

 その氷の影から、先ほどと同じドクの嵐が海岸を襲った。


 うわぁーーー


 10数人の魔導師やら騎士やらが、嵐を避けるように飛び出してきた。


 けど・・・・


 やっぱり一人。

 風の刃を出した人。

 倒れて動かない。

 命の灯火も消えている・・・


 なんでそんなことができるの?

 自分の命と引き替えに大技1発?

 おかしいでしょ?


 僕はブルブルと震えている。

 誰かが僕の背中から覆い被さった。

 ママの匂い。

 「大丈夫?」

 僕は頷く。

 「あの人たち、魔法1つを撃つために死んじゃった・・・」

 「そうね。」

 「どうして・・・」

 「・・・大切な物は人によって違うから・・・」

 「命よりも?」

 「そう、かもね。悲しいね。」

 「・・・終わらせなきゃ。こんなこと、終わらせなきゃ・・・」

 「ええ。終わらせましょう。悲しい人を終わりにしましょう。」


 僕はもう震えていないよ。

 僕は、ママの手から飛び出した。

 おまけに船からも飛び出した。

 潜水魔法で陸地へと急ぐ。

 慌ててアーチャが来る気配。

 おまけにエッセル号も接岸しようと追ってくる。


 僕は、潜水魔法に使う空気の結界をさらに丈夫にしたまま、躍り出た。


 相手はびっくりして、いろんな魔法を打ち出すけど、僕の結界は貫けないよ。

 僕は、そのまま、魔法を撃ってきた順に風魔法で弾丸を作って撃ち出した。

 貫通しないような空気砲。次々と後ろへ飛んで、気絶する。

 魔導師の人達は撃たれ弱いね。打ち所が悪くなければ、気絶してるだけのはず。

 後ろからやってきたアーチャも、同じように空気砲で気絶させていく。

 他のみんなもどんどん上陸。

 ゴーダンもセイ兄も、あっという間に僕の前へとやってきて、防御をしたと思ったら、さらに飛び出し、騎士の相手をしているよ。

 そして・・・


 多くの敵が沈黙した。


 と、その時・・・


 崖の側から、ゆらりと一人の人物がものすごい形相で現れる。

 戦闘でみんな散らばってたけど、僕をひたりと、睨み付ける。

 気がつくと、そいつの焼け付く視線から守るように、ドクが僕の前に立っていた。

 そいつ・・・

 リヴァルド。


 彼はひとり、ドクと僕に憎悪の目を向けて、杖を突き出した。

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