第207話 1vs4
僕らの乗る船はエッセル号ただ1つ。
対して相手は4艇。
お互い魔法を撃ちながらにしては、なかなかのスピードで接近中。
しかも、向こうはこっちを囲むように陣形までとってきている。
さらには、すでに落とした船よりも残っている船は魔導具かなんかで強化されてるみたい。それに乗っている魔導師のレベルも高くて、はっきりいって弓も魔法も大部分が弾かれちゃってる。
僕の魔法は当たればそれなりの被害を与えてるみたいだけど、やっぱりこの強さじゃ難しい。溶岩を含む火は危険すぎて、乗ってる人の被害が怖い。本当は無慈悲にやっちゃうべきかもしれないけど、まだ僕にそれだけの覚悟はないんだと思う。敵かもしれないけど、一人一人は信念だったりしがらみだったり、思いを抱いて向かってくるわけで、なんていうか、大量殺戮兵器、みたいなことはやりたくないんだ。
今ね、アーチャがね、何人かを連れて潜水艦で救助活動をしてるんだ。海に落ちて危ない人を敵味方関係なく、拾ってる。
ここに来る途中に、僕が海に落ちたら死んじゃうね、って話してたら、じゃあ拾おうって、みんなが計画してくれたんだ。
死ななくて良いなら死なない方が良いって。
だから、逃げる時間を作れる形で船を沈めたい。
土魔法はいいと思ったんだけどね、最初みたいなの。
でもさすがに一度見てるとね、協力して弾いたり、船を移動させたり、よけちゃう時間を与えちゃってる。
風魔法は、ウィンドカッターをあちこちで撃ってる人も多いけど、対策は万全。僕はトルネードのでっかいので船を囲もうとしたけど、どうやったのか消えちゃった。そもそもあれって、維持が難しいんだよね。船を囲むだけの大きさだと、コントロールに難あり、でした。
いっそのこと水?
ハハ、船自体水に強くできてるしね。
僕がちまちまと色々試していたら、僕を知らないこっちの冒険者にビックリされちゃった。子供が魔法を使うことだけでもビックリだけど4属性ってなんだ!だって。
すっかり忘れてたけど、2属性でもレアで、だからこそそれを複合させることのできるネリアは自分がすごい魔導師だってプライドを持ってるんだよね。
だけど、今、こっちは人も船も少ないんだから、出し惜しみは出来ません。
ってことで、外野は無視してやってたら、相手からの魔法が多くなってきて船が揺れちゃって、おっとっとっ、てなっちゃったんだ。
そんな僕を見て、慌てて支えてくれたおじさんが、
「てめえら、こんなちいこいのが頑張ってるのに何ぼやっと見てるんだ!坊主に負けるんじゃねぇ!!」
って、耳が痛いぐらいの大声で言ったんだ。そうしたら、そうしたらみんな盛り上がっちゃって、バカスカ魔法を撃ちだした。
「坊主、まだ行けるか?」
「坊主じゃないよ、ダーだ!」
「おう。ダーか。それだけ元気ならまだ行けるな。だったら、あの中心の木、狙えるか?」
そのおじさんは、竜骨を差してるみたい。僕はカイザーに教えて貰ってるからね、船のことは随分詳しくなったんだ。あれは竜骨。船の大黒柱だ。
「重みのある、そうだな大きめの重い石をぶつけてみな。防御は俺がやってやる。攻撃だけに集中しろ。」
そういうとおじさんは、バンジーみたいなでっかい盾を背中から外して僕の頭の方に屋根みたいに掲げたよ。
僕は頷いて、僕の頭ぐらいの大きさの石をいっぱい打ち出した。
と、そんな攻防が続くこと、どのくらいだろう。
向こうからも、こっちからも、ちょっとずつ攻撃が減っていく。
魔力切れでリタイアの魔導師が増えてきてるみたい。
さっき、僕が攻撃していた船がやっと沈んで1対3。
なかなかに厳しい、かも・・・
包囲網は、それでもどんどん小さくなってきて、なんとなくみんなに焦りが出てる。
僕もそんなに大きな魔法を使ってないとはいえ、正直へとへとです。
と、そのとき
ドーーーーン!!ドーーーン!
大砲?2発も?
一番こっちの船に近い相手の船がバキバキって音を立てたよ。
帆が完全に破壊されて、右往左往している。
僕は、後ろを振り返る。
船がいっぱい?
「フー、間に合ったか。」
いつの間にか側に来ていたドクが言った。
僕の防御をしてくれていたおじさんも盾を下ろして、後方を見る。
「あれは、・・・・味方か?」
「ミモザ沖でタクテリア軍が待機していたはずじゃでのぉ。先日領主別邸から押収した謀反の証拠を王に届けたのじゃが、援軍がなんとか間に合ったようじゃのぉ。」
「は?あんたら・・・何も言えんな。しかし、良くこの短期間で王都に往復できたな。」
「ホッホッホッ。さすがにそれは無理じゃろ。なぁに、ちょうど国王がバカンスでミモザにおってのぉ、ついでにミモザの海軍と合同演習を近衛辺りとしておったんじゃないかのぉ。」
「・・・・そういうことになってる、ということかい。なんなんだ。あんたら宵の明星ってのは。」
「ホッホッホッ。単なる冒険者パーティじゃよ、のうアレク。」
「へへへ。」
っていうか、僕も知らなかったよ。
王様、まさかのミモザまで来てたの?
フットワーク軽すぎだよね。まぁ、この前会ったとき、領主が絡んでたらなんとかしなきゃな、みたいなことを言ってたような言ってないような・・・
こうなることは分かってて準備してた、ってことなんだろうけど、奔走した身としては、ちょっとばかり納得できないかも・・・
でもいいや。
なんとかこっちも無事だし。
って、ホッとしたんだけど・・・
相手の船、無事なの2艇。
早っ!
船首を巡らせて、離脱を始めたよ。
弾幕のつもりか、質より量、みたく、細かい魔法や矢を届かなくてもバカスカ撃ってる。
向かってくる軍の船も10艇以上ありそうだし、多勢に無勢、なんだろうけど、味方の人いっぱい溺れかけてるの無視しちゃだめでしょう?
それにしても早いね。まぁ、エッセル号なら追いつけるけど、軍のお船は追いつけないかも。
あ、ゴーダン、スピード上げたね。
おっとっとっ、てなってる人多数。
僕は・・・・
盾のおじさんがキャッチしてくれました、ハハ。
てか、どうするつもり?まさか体当たりで止めようとかしてない、よね?
そのとき
「ダー、なんでもいいからアレを止めろ!何やっても怒らねぇ。足止め優先で行けぇ!!」
ゴーダンから全力OKの合図ってことだよね。
僕も結構魔力減ってる。
中途半端で失敗、の方が怖いね。
1回こっきりの挑戦。
全力の魔法を使おう。
ドクを見る。
大きく頷いてくれる。
後はみんなに任せれば良いか。
エッセル号はぐんぐん近づく。
2艇を同時に捕らえなきゃ。
ここは海。
海の危険は潮流、だよね。
そうだ!
一度川でやった洗濯機。
海をグルグルやれば止まるよね。
そう、あれは・・・
渦潮って言うんだ!
水の下の方からグルグル。
水魔法。そして風を動かしてトルネードみたいに。
強くするには重力でひっぱる。
イメージはバケツに入った水をこぼれないようにグルグル回す。
水・風・重力。
回れ、回れ、回れ。
底の方から潮を掴んでグルグル回せ。
上に行くほどでかくなる。
蟻地獄みたいに、引きずり降ろせ。
グルグルグルグル・・・・
僕はイメージする。
渦潮だ。
船2艇、巻き込む大きなうねり。
はじめは小さく。
徐々にそれ自体がうねりをおこし、勝手に遠心力ででっかくでっかく。
捕まえた!
2艇の船が渦に捕らえられる。
グルグルグルグル
お水をまわせ。
グルグルグルグル
海を回せ。
グルグルグルグル
あれれれれ
ぐるぐるぐるぐる
目が・・・ま・・わ・・・・る・・・・
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