第206話 トレサ沖、開戦
海を行くこと数時間、トレサの港が目に入ります。
町の中、港の近くで、膨れあがる魔力がいくつか感じられたよ。
どうやら戦いは始まっているらしい。
ちょうど港が目に入った頃、続々と出航する軍艦らしき物が出てきたんだ。
見える範囲で4,5艘。出てくると、船から魔法が港に向けて発射された。
港側からも、魔法が飛んでるね。
どうやら港からと船からの撃ち合いになってるみたいだ。
僕らのとこから視認はできるけど、多分まだ届かないね。
「アレク、潜水艦を出すんじゃ。」
ドクが言ったよ。
僕は、リュックから海に向けて潜水艦を出した。
「アーチャ。潜水艦を動かせるな?冒険者を何人かこちらに乗せる。魔導師中心に誘導を頼む。」
ドクが言ったから、潜水艦へとアーチャは飛び乗った。
いつの間に練習してたのか、アーチャはすぐに潜水艦をすごい勢いで港に向かわせたよ。
もともと、エッセル号の機動力を上げるって目的もあったから、小さい分速さも出るように作ってるんだ。付属も付けたままだから、あれをデカくしちゃうと多少スピードも落ちるけどね。今は一番小さくしてるから、あっという間に到着するだろう。
それにこの世界では唯一の潜水艦。
水の中に沈めてしまえば、そんなものがあるなんて、想像もしてないはず。
鍛冶師たちの救出に使ったとはいえ、まだまだこんなものがあるって認知されてないよね。相手に見つからずに港に着岸、ってのも難しくはないだろう。
そんなアーチャを見送って、僕らは大きく海側から、挟み撃ちになるような形で、相手の船に向かったんだ。
潜水艦に比べたら遅いっていっても、そこはドクとカイザーのスペシャル仕様。そんじょそこらの船に比べて、ずっと足は速いよ。
近くまで行くと、全部で8艇もの船があった。
その1番でかいのが、旗艦で間違いなさそうだね。
その船は、どうやらエッセル号に負けないぐらいの防御力がありそうだ。
他の船に当たった、でっかい溶岩、たぶんネリアの魔法でも、傷がついていないよ。ちょっぴり射程距離が長くてギリギリ当てたって感じだから、多少威力は落ちてるけど、その横の船は、甲板が燃えてて慌てて消火活動してるから、やっぱり旗艦は丈夫に出来てそうです。
ドッカーン!!
僕の射程に十分入った端っこのお船。
力任せのどでかい岩をお見舞いしたよ。
港と逆から現れた敵艦に、どうやらパニック状態。
ゴーダンがいいよ、って言ったからね、僕は力一杯の岩を投げつけたんだ。
さすがに大人2人分は直径がある球体がお船の頭に乗っかったら危険だよね。
ほとんどの人がなんとか避けたみたいだけど、お船は傾いて、斜めになってゆっくり沈み始めたよ。
一丁上がり!
見てると、パニックになって、どんどん海に飛び込む、相手の乗組員。
魔導師が多いのか、ローブ姿。
上手にローブを使って浮いてる人もたくさんいたから、海に投げ出された時用の訓練もしてるんだろうか。
ほとんどの人が、近くにいた味方の船に向かって泳いでる。
何人かは港まで泳ぐつもりなのかな?
ううん、どうやら、離れた所のお船の方が早く救出してもらえるって算段のようだね。
とにもかくにも、お船を捨てて、アップアップしてるみたい。
「おうおう、さすがに派手だねぇ。」
そうこうしていると、どうやら潜水艦で運ばれた冒険者がこっちに乗ってきたみたい。って、バンジーは魔導師じゃないじゃん。船に乗っても役立たずだよね?
そう思ったら、なんだか、虐殺の輪舞と不屈の美蝶は全員こっちに来ちゃったみたい。
タタタタ、って走って僕の側に寄ってきたネリアは、
「まったく相変わらずめちゃくちゃね。なんでこの距離で当たるのよ。それに何?あの規格外の岩は!一発で船を沈めるって、ほんと、あんたバカでしょ!」
相変わらずです。
潜水艦から出てきたのは、他にも知らない冒険者。といっても、ギルドの会議室でチラッと顔は見たけどね。
いつもの2パーティと違って初めましての人達だから、遠慮がちに、ていうより、おそるおそるって感じで、僕たちに寄ってきたよ。
で、なんだかザワザワしてる。
え?僕?
あの岩は僕の魔法だけど?
はぁ。なんでこんなことでプチパニックしちゃう冒険者を連れてきたかなぁ。
「あんたの非常識を知ってる冒険者はトレネーにしかいないわよ。」
「でも、噂はあったんでしょ?ほとんど嘘だけど。」
そんな会話をしてたんだけど、どうやら、他の人の射程にも入ってきたみたい。
こっちのお船にもバカスカ魔法を撃ち込んでくる。こっちからも魔法とか弓とか反撃が始まった。
まぁ、エッセル号自慢の防御力に、今はドクが一方通行の結界を張ってるからね、振動ぐらいで、全然問題はありません。
てことで、ネリア、こっちからも攻撃しなきゃ。みんな戦闘開始してるよ?
ネリアもバカスカ溶岩を撃ち込みます。って言いたいところだけど、火魔法と土魔法?なんで?さっきの溶岩、旗艦以外には効きそうだよ?
「あんなもん撃ってたらすぐに魔力切れよ。あんたと一緒にしないで。」
「ねぇ、僕も真似していい?」
ネリアが複合魔法の溶岩を使えるのは知ってたけど、ちゃんと見たのは初めてなんだ。しっかり見たから、できそうです。
「はぁ?私がいったいどれだけ苦労したと・・・ってまぁいいわ。見てて上げるからやってみなさい。」
「やったぁ!」
詠唱は聞いてないし、どっちにしてもそんなの覚えられないからイメージで。
さっき旗艦に撃ち込まれた魔法と、前世の記憶で火山から吹き出すマグマをしっかり思い描く。
エイッ!
「うそ・・・」
つぶやくネリアの声が聞こえる。
あらら・・・・
やっちゃったかも。
ネリアのは岩の周りに火が纏わり付いたって感じの火の玉みたいなやつ1個だったんだ。それでも纏わり付いてる火が隣の船をちょっと燃やした。
でも、僕は火山噴火を思い描いちゃったから、放物線にドドドドド・・・て。
中の岩自体は僕のが小さかったんだけどね。
野球のボールみたいなのが、どろどろの炎と一緒に、敵の船に降り注いじゃった。
シーン・・・・
敵も味方もちょっと止まったよ。これ、時間が止まったんじゃないよね?
ドッカーン!
しばらくして、なぜか爆発音。そして、ゴーッて、船が火に包まれた。
火だるまになった人達が海に落ちていくけど、無事、だろうか・・・
火はダメ。
絶対ダメ。
溶岩はもっとダメ。
逃げる時間なくなっちゃう。
「ガキがーーーーー!!!」
その時、そんな声が聞こえたような気がした。
と、同時に旗艦の船首がこちらへと向いて、すごい速さで向かってくる。
ほぼ一番遠いぐらいにいたその旗艦は、強引に間の船をぬって、なんだったら、ぶつかりながら、一直線、最短距離で向かってくる。
それぞれに、相手にしていた船のみんなもそれに気付いたようで・・・
「気をつけろ!囲まれるぞ。」
旗艦以外の船も、次々と習うように、こちらに船首を向けて、大急ぎでやってくる。
港はとりあえず無視したのか。
相手は旗艦入れて4艇まだ残っている。
こっちはエッセル号ただ1艇。
旗艦近くにいた船は、沈めた船よりも強そうで・・・
無傷、といっていいような船が、僕らをゆっくりと、いや、船のレベルで考えるなら猛スピードで、囲もうとしていた。
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