第204話 小さな魔導師たち
10名ほどの子供の魔導師。
一斉に魔力が膨れあがる。
ペンダントの力を借りて、能力以上の魔法を紡ぐ。
そして・・・・
やがては持ちうる魔力を吸い尽くし、死に至る・・・
これはあの魔導具のすべての力を使いこなせたら、の話。普通はその手前で本能的にストップさせられる、はず・・・
「ナハトは、別れた時点でも、最終形態までいける、って言われてたんだ。」
バンミが言う。
僕はその声を聞きながら、最近使い倒していた風の魔法で、僕らと魔導師たちの間にトルネードを生み出した。僕の方が早い。
僕の魔法が発動した後、ナハトは石のつぶてを打ち出し、他にも火の玉や風の刃が次々と向かってきた。
けど、全部僕のトルネードより威力は低い。
属性関係なく、トルネードが絡み取り、上空へと押し上げる。
「ペンダントを!」
そのとき、ドクの声が後ろから飛んだ。
いつの間にか呼び出されたドクが到着していたんだね。
ドクの声と一緒にセイ兄とゴーダンが飛び出す。
僕の魔法の両脇から、魔導師たちへと飛び出した。
二人は後方にいる魔導師たちへと目にもとまらぬ速さで走り寄り、すれ違いざま、あっという間にペンダントの鎖を斬りつけ遠くへ飛ばした。
と、見てる間に、ドクの魔力が僕の魔法を貫いて、一人の魔導師のペンダントへ。ピンポイントに注がれた魔力に、容量を超えた魔導具がパリンと音を立てて砕け散った。
唖然としてみんな動きを止めたのを見て、僕はトルネードの魔力を解く。
それを見越して、アンナが一人の元へと近づきつつ、魔力を別の子供のペンダントへと注いだ。
ドクより時間はかかってパリン、と、割れる。
さらに近づいたアンナは、剣をその隣の子のペンダントへと斬りつけた。
「ナハトは僕が!」
残りの魔導師へと僕が走り始めたと同士に、そのとき、バンミが叫ぶ。
思わず振り返ると、
「彼の魔力は僕が扱える。」
そう言って、ナハトの目前へと走った。
僕は残っていた魔導師のペンダントをしっかり掴み、魔力を流す。
簡単にパリンと割れてくれたよ。
その間にドクはもう一人遠距離で破壊。さすがに僕にあのコントロールはないからね。物理的にペンダントを掴んで魔力を流し、パリンってした。
その間あっという間。
またたくまに残ったのはナハト一人。
その前にバンミが佇んでいる。
ナハトは、唖然とした顔で僕らを見て、チッて舌打ちした。
そんな中、僕のところへと、セイ兄がはじき飛ばしたペンダントを集めて持ってきたよ。
ドクとゴーダン、アンナも僕のところに集まってきた。
「アレク、全部壊せるかのう?」
ドクがなぜかそんな風に言った。
ん?
ドクもできるよね。
ま、いいけど。
僕は、言われるままに5つの魔導具を壊したんだ。
「ガァァァァァーーーーー!!」
へ?
そのとき、獣の咆哮のような声がした。
町中で?
思ったけど、違った。
血走った目で、ナハトが僕を見て叫んでいた。
そして今にも僕に飛びかからんとするナハト。
バンミが後ろからそんなナハトを羽交い締めにして止めているけど、ものすごい形相で僕を睨み付けていて、他には何も目に入ってないみたい。
いったい何?
「おまえは!おまえは!一体どこまで馬鹿にする!」
激しい憎悪がまるで物理的に僕を押さえ込むみたい。
僕はアンナの足に無意識にすがりつく。
バンミが押さえてなかったらきっと僕を頭からかじってる。そんな恐怖が僕を締め付けて、僕はガタガタと震えていたんだ。
「そうじゃなぁ、こわっぱよ。これが現実じゃ。お前さんらがその命を賭しても壊せない魔導具を、いとも簡単に、これを含めて7つかのぉ、こんな小さな子が簡単に壊してしまえる。見てわからんか?その前にお前さんらの精一杯の攻撃魔法を片手間に弾いた後での仕業じゃよ。」
ドクが厳しい顔でナハトに言った。
ああそうだ。
ドクは優しいだけのおじいちゃんじゃない。
仮にナハトがまだまだ未成年で、自分のやったことに責任を持てないとしても、それを盾にすることを許すような人じゃないんだ。
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけておるのは、ぬしじゃろ?彼我の実力を分からず自分のわがままを振り回しよってうちの子たちを逆恨みするんじゃない!」
「逆恨みだと!」
「ほうよ。この子アレク、いや、ダーはのぉ、まごうことなき天才じゃ。じゃがのぉ、苦労しらずにこんなばかげた魔力を得たわけじゃないわい。産まれた時からずっと魔力を枯れるまで使い続けるしかなかった、赤ん坊で魔力の道を通さざるを得なかった、そんなこれまでがあっての、この力じゃ。生まれ持った力に過酷な生活で得た力じゃよ。のほほんと育ったおぬしが、羨んで逆恨み、馬鹿にしておるのはどっちじゃ。」
「ふざけんな!そんな髪の色をして、莫大な魔力を持って産まれて、それだけで特別だとちやほや育ったガキが、何が苦労だ!」
「ふー、知らないからしかたがないかのぉ。まぁよい。して、うちのもう一人の子、その子も苦労知らずと思うのかのぉ?」
ドクのその言葉に、ナハトは後ろを振り返った。
バンミがまだ羽交い締めをして、ナハトを引き留めている。
「!」
そのとき、ナハトは自分の腕を締めているバンミの二の腕を見たんだと思う。
マジマジと、腕と顔を交互に見ていた。
バンミは、もともと魔力だけじゃなく腕力も強い方だったけどね、僕らの仲間になって、めちゃくちゃ鍛えられた。その腕だって教養所の時よりずっと筋肉がついている。腕だけじゃなく、全体が数段パワーアップ。もちろん魔力もさらに洗練されているんだ。なんせ先生が極上にして凶悪、だからね。ハハ。
教養所では、ずっとナハトと組んでいて、体を触れる機会も多かったバンミ。そのバンミの変容をナハトは感じ取ったみたいだった。
「おまえ・・・!そうだ、バンミ、魔力を寄こせ!さっさとよこしやがれ!」
・・・
バンミは渋い顔をして、そんなナハトを見ていた。
「ちっ、これだから低脳は!おまえみたいなやつは、力の持ち腐れなんだよ。さぁ、前みたいに私が貴様の力を使ってやるよ。さっさと寄こせ!」
「・・・まだ状況が分かってないのか?」
バンミが静かに言った。
「は?」
バンミは周囲を見渡し、そしてナハトを再び見る。
そんな風に視線を動かすと、周りがみんな自分を、かわいそうな子を見るように見ているのが分かるだろう。
「ふざけんな!私は、私は特選隊だ!リヴァルド様に認められた魔導師だ!もういい!離せ!離しやがれ!この下賜された魔導具で、身の程を知らせてやる。」
そういうと、ナハトは強引にペンダントを握り込んだ。
「やめろ!死んじゃうよ!」
僕は焦って叫んだよ。
でも・・・・
・・・・・・
「あれ?」
何も、起こらない。
僕も驚いたけど、魔法を使おうとしたナハトはもっと驚いてる。
「なんでだ・・・」
ナハトは小さくつぶやいた。
「忘れたのかい、ナハト。俺とずっと訓練をしていたじゃないか。お前の魔力を俺の魔力で支えること、それはお前が俺の魔力を使うんじゃない、俺がお前の命令どおり魔力を支えて使ってたんだよ。ほら、感じるだろ?お前の魔力は訓練どおり、俺の誘導にこんなに素直だ。」
小さく紡がれるバンミの言葉。
その意味を理解するまでの、しばしの間。
「ハ、・・・ハハ、ハハハハ・・・」
呆然としたナハトは、その場に崩れ落ちた。
パリン。
ナハトの手にバンミは自分の手を重ね、ペンダントを破壊した。
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