第202話 領主邸門前へ急げ
「大変です!領主邸の門前で敵の魔導師たちと冒険者が激しい戦闘を繰り広げています!負傷者も多数。このままでは被害が甚大になる怖れ。助力を願う、とのことです!!」
魔導師だって!ザドヴァの魔導師っていったら、下手したらあのドーピング・・・
「ペンダント型の魔法具、つけてなかった?」
思わず、僕は立ちあがって、スタッフの人に怒鳴るみたいに聞いちゃった。
「えっと、そこまで報告は・・・。とんでもない強さの魔導師が複数、ということぐらいで・・・」
とんでもない強さ、って冒険者が言うんだもん、それなり、だよね。
僕は、お隣のバンミと顔を見合わせた。
バンミも、僕と同じことを思っているんだろう。
バタバタ・・・
僕たちが動こうとする前に、2つの影が、部屋を飛び出した。
セイ兄とアーチャだ。
「僕も!」
バンミと一緒に飛び出そうとした僕。
ガシッ
僕の胴体をがっしりとホールドする腕で止められちゃった。
早く行かなきゃ!
焦る僕の頭を、押し込むようにガシガシ撫でるのはゴーダン。
「まぁ待て。バンミ、お前もだ。お前はダーと行動しろ。」
バンミが頷く。けど、僕は行かなきゃ。あの魔導具を使わせちゃダメだ!
「ダー、行くなとは言ってない。だから待て!」
腕から出ようとしても、全然無理。
ちょっと涙目になって僕を抱えているゴーダンをキッと睨んだけど、ゴーダンってば僕を見てもないじゃない!
「すまない。ザドヴァの魔導師はちょいとやっかいな魔導具を持っててな。その対処ができるのは、知っている俺たちぐらいだと思う。そういうことで宵の明星のトレサ行きは、こっちの対処を終わらせてからにさせて貰う。皆は悪いが先行しててくれ。なぁに、すぐ追いつくさ。それと、うちの拠点に凄腕の治癒魔法を使うもんがいる。怪我人は拠点に連れて行って欲しい。そっちへの人員も頼む。バンジー、マリン、それでいいな。」
二人は大きく頷いた。
「あと、誰か博士を現場に呼んでくれないか。」
「ジムニ。」
ゴーダンの呼びかけに、すかさずバンジーがそう言ってジムニを見たよ。
ジムニは頷くと、走って出ていった。
「怪我人の誘導もジムニにさせてくれ。あとは先にトレサに向かう。」
バンジーが言った。
僕ら3パーティ以外は、あんまり状況が分かってないみたい。
でも、セーシアさんの声がけで、みんな動き出した。
すでに戦闘態勢が整っているチームから、閉じられた門をなんとか抜けて各個トレサへ向かうようだ。
さすがに高ランカーばっかり。あっという間に行動に移して、出掛けていく。
そんな様子を見て、ゴーダンが「行くぞ。」って一言。
僕を抱きかかえたまま、走り出す。
バンミも、アンナも、一緒に走り出す。
うんそうだね。僕が走るより、ずっと早い。
でも、なんか荷物みたいで悲しい・・・
ひどい・・・・
領主邸までたどり着いて、感想は、その一言だった。
来るまでの道は、ほぼ冒険者によって沈静化していて、時折、相手の騎士たちと戦っている、という感じ。これなら大丈夫、って、素通りしつつ急いだんだけど・・・
対峙しているのは、何人かの冒険者のみ。
道路の上にはたくさんの冒険者が、血まみれだったり、黒焦げだったり・・・
道路、と言ってるけど、ささくれ立ってる。
土魔法で、隆起させたり、尖らせたり。
そして、そんな様子を見ている人達。
何度も見かけた、ローブ姿の魔導師たちだ。
そして・・・
やっぱりだ。
その首に掛かるのは、強引に魔力を引き出す、あのブローチ・・・
対峙している冒険者の、真ん中にいるのは、剣を構えたセイ兄だ。
セイ兄の斜め後ろ。
アーチャがどうやら、風で結界を張っている。
倒れていたり、一応まだセイ兄の後ろで構えている冒険者たちをもすっぽり囲むその結界で、なんとか一息ついてる、って感じだろうか。
僕たちが到着した時には睨み合いになっていた。
「お前らザドヴァの魔導師だな!悪いことは言わない。ペンダントは使うな!」
到着したゴーダンが大声で声をかける。
ドーン!
と、同時に、アンナの火の玉が、魔導師たちの目の前で炸裂した。
「すげー・・・」
アンナの魔法の威力に、冒険者たちからの感嘆の声があがる。
「あんたたち、よく頑張ったね。後はあたしらに任せな。余裕のあるやつらは、怪我人をうちの拠点まで運ぶんだ。治癒魔法使いがいるからね、そこまでがんばりな。」
パッと顔を輝かせる冒険者たち。
支え合って、後方へと後ずさる。
それに、アンナがもうすぐ来る予定のジムニについていくように指示を出した。
僕はそんな様子をゴーダンの腕の中で見ていた。
目の片隅で、冒険者たちが避難する様子を追っていたけど、僕の目は彼らを見ていなかった。
ゴーダンはそうっと僕を地面に下ろす。
僕は、よろよろと前へ進む。
「なんで・・・」
アンナの放った魔法の火の玉は魔導師たちの目の前で炸裂した。もちろん牽制だ。だけどその威力はそれなりで、地面に着弾した魔法の煽りで爆風が魔導師たちを煽ったんだ。
その煽りを受けて、深く被られていたマントのフードがめくり上がる。伏せた顔を忌々しげにこちらに向ける中央の男。いや、まだまだ少年。
僕はその顔から目が外せなかった。
僕の足はヨタヨタととりつかれたように前へ進む。
そのとき、震える手が僕の肩に乗っけられた。
ゴーダンやセイ兄とは違う、まだまだ小さな柔らかい手。
僕は無意識にその震える手に自分のさらに小さな手を重ねたよ。
「バンミ、あれって・・・」
僕の声もちょっと震えている。
僕もバンミも、目は前をむいたまま。
「ああ・・・・。」
僕よりもっとかすれたバンミの声。
「おい、ナハト。お前、何やってんだよ。」
震えるバンミの声は、ベージュの髪の少年にかけられた。
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