第201話 作戦会議

 「集まってくれて感謝する。」


 大きめの会議室に全員着席したのを見て、ギルド長はそう言いつつ頭を下げたよ。


 「聞いているとは思うが、今、この領都は封鎖されている。封鎖したのは・・・」

 グルリとみんなの顔を見回す。

 「領主アーケルド・ボンメイその人だ。」


 へぇ、領主の名前初めて知ったよ。


 「ボンメイ子爵はこの領地ごとザドヴァへと移るつもりだ。今、現在ザドヴァはレニボード・ザウ・フォン・ザドヴァが総統を名乗り、国の立て直しを図っている。が、それを否定し、前政権を奪還しようともくろむリヴァルド・アーガンナ前魔導師長を中心とした一派が、ボンメイと手を組み、我が領を中心として蜂起を狙っている。今回の騒動はその前哨戦、といったところだ。」

 この辺のことは、集まった人達もようく分かっているんだろうね。黙ってギルド長の話を聞いているよ。


 「今言ったとおり、これはきわめて政治的な話だ。それと同時に、今、この領がどの国に所属することになるか、その選択が迫られている話、ともいえる。住む人間は、どの国に所属するかを選ぶことは出来ない。とはいえ、もしそこに口を挟む隙間があるならば、私としては是非とも行動したいと思っている。」

 そうだよね。

 戦争にせよ、クーデターにせよ、上が誰になるのかは、住んでる平民にとって、選ぶことなんてできない。土地の割譲とか譲渡とかって、偉い人どうしでは書類とかで簡単に決めちゃうけど、住んでる人間からしたら、お上が変わったってそんなの手が出しようがない。悪い代官がこなければいいなぁ、善政をしいて暮らしが楽になれば嬉しいな、と、祈るしかないんだよね。


 「私は、ザドヴァの独裁を嫌って海を渡り、この地にたどり着いた者の末だ。ここに住む多くの者もそうだろう。そうして、今はタクテリア聖王国の国民として、それなりに満足して生きている。再びザドヴァの民となることは許容できない。しかも、人さらいの真似をするリヴァルドを中心とした軍事国家など願い下げだ。」

 冒険者の多くは自由に移動するって思われてる。

 けど、大多数は案外拠点を変えずにいるんだよね。

 僕ら3パーティ以外の3チームは、みんなここを拠点とするパーティらしい。

 ギルド長の話は僕らが受けるよりももっと実感がこもってるみたいで、みんな真剣だ。


 「ギルドというものは政治的に中立だ。だからギルド長としてお前たちに言うことはしない。領主につくのも中立を貫くのも、それは自由だ。だから、私は、私ことセーシア・ドードレット個人として、反領主を宣言し、タクテリア聖王国の市民として戦おうと思う。もし、同じ志を持つなら、是非とも協力して欲しい。」

 ギルド長、ううん、セーシアさんは、そう言うと、深々と頭を下げた。


 「今更、だぜ、セーシアよぉ。俺たちはそのためにここに来たんだ。」

 「そうだよ、あねさん。頭をあげとくれよ。」

 そんなセーシアさんに続々と声がかかる。

 セーシアさんはそんなみんなに改めて頭を下げると、大きく頷いた。

 「感謝する。だが、本当に無理に私に付き合う必要は無い。だから、協力して戦うつもりの無い者は、今、この部屋を退室してくれ。」

 しばらく待ったけど、誰も立ちあがる人はいなかったよ。だけど・・・


 「なぁ、赤ん坊連れは、さすがにないんじゃないか?」

 チラチラと目が合うなぁ、と思ってたら、若い男が遠慮がちに言ったよ。彼のパーティリーダーがスルーしてたけど、やっぱり気になった、みたいな感じ。

 でも失礼しちゃうな。僕、もうすぐ7歳だよ。


 「赤ん坊じゃないもん。もうすぐ7歳だよ。」

 僕は、ちゃんと教えて上げたんだ。

 「おいおい、俺も気になってたんだが、もうすぐってことはまだ6歳かよ。さすがに留守番させた方がいいんじゃないか?それにその横の坊主も、ちと若そうだよな。」

 僕の横にはバンミが座っている。まぁ、彼もまだ未成年。だけど、リヴァルドとかザドヴァの魔導師のやり方はこの中で一番詳しいよ。

 僕が言い返そうとしたけど、ゴーダンに阻止されちゃった。


 「宵の明星のリーダーをしているゴーダンだ。こいつはダー。俺の見習いだ。ガキとはいえ、うちのパーティでは立派な戦力でな。心配だろうがここは俺の顔に免じて、好きにさせてくれないか。」

 「ひょっとして、その子が、宵闇の至宝か?」

 ゴーダン、って名でザワザワ。そして宵闇の至宝でさらにザーワザワ。

 いつの間にか、その変な二つ名みたいなの有名になってるの?やだなぁ。


 「私、聞いたことがあるわ。トレネーのギルドの噂。」

 そのとき、お姉さんの冒険者がそんな風なことを言ったよ。

 「ルーキーキラーの最強見習い冒険者。腕っ節に自信のある危なっかしいルーキーを片っ端から再起不能にする幼児がいるっていう・・・」

 「俺も聞いたことがあるけど、あれって都市伝説じゃ・・・」

 「そういや、2メートルの大男を指一本でぶん投げる、っていう?」

 「俺は、ろうそくを吹き消すようにフッと息を吹きかけたら、全員の命が消えたってきいたぞ。」

 等々・・・・


 いやいやいやいや、それは僕かもだけど、僕じゃないよね?

 何その噂。怖すぎるでしょ。

 なんか、興味津々に見てくるけど、手合わせ、しないよ?

 僕はアンナの背中に逃げ込んだ。


 「コホン。あぁ、トレネーでは確かに時折ルーキーの鼻っ柱を折る依頼を受けてるが、心身共に治らないような怪我はさせてない。噂は噂だ。が、Cランクパーティ相手でも、魔法込みなら一人でなんとかできる力量があることは俺が保証する。それでも参加は拒否するか?」

 ゴーダンが改めてそんなことを言う。

 「いやいやいや、ゴーダンさん。Cランクパーティ相手って、十分化け物じみてるって。ていうか、6歳、ですよね。魔法、使うんですか?」

 素朴な疑問だよね。でも化け物はやめて欲しい。僕、泣いちゃうよ。アンナがよしよしってしてくれても、ちょっと複雑です。


 「まぁ、事故で、赤ん坊の時に魔力の通り道は開いてる。内容は、企業秘密だ。」

 事故っていう?犯人はゴーダンなのに?ハハハ・・・


 パンパン・・・


 そのときセーシアさんがその大きな手をパンパンって叩いたよ。

 ザワザワしていた場内も静かになった。


 「ダー君が参戦してくれることは、そもそも決定事項だ。人の実力を心配するなら自分が死なないように気を引き締めな。彼の足を引っ張んじゃないよ。トレシュクの冒険者の実力をしっかりと発揮しておくれ。では作戦を伝える。まぁ、作戦っていうほどの作戦じゃないけどね。今、ここにいるのは、領都にいる高ランクパーティだ。いわば精鋭だ。その精鋭には、敵の本拠地へと向かって欲しい。この領都に残っているヤツらは、他の連中でなんとかなるだろうからね。」

 敵の本拠地?

 「どうやら、リヴァルドはじめヤツらの本体はすでにトレサへと移動していると情報が入った。ここに残っているのは反領主派を、封鎖した領都へと足止めする、いわばバックアップ要因だ。トレサで体制を整えてしまったら、船のない我々は不利だ。一応、商業ギルドとの協力で船は用意できるとしても、後手にまわるのが見えている。そこで、おまえたちにはトレサに向かい、リヴァルドおよび領主の確保を頼みたい。」


 僕が頭の中ではてなを飛ばしてると、アンナが教えてくれたよ。トレサっていうのはトレシュクの海の入り口の1つで、大きな港の中で一番ザドヴァに近いところ。始まりの町なんていうニックネームのある町で、ザドヴァから逃げてきた商人たちがまずたどり着いた土地なんだって。トレサからザドヴァへ侵攻するのも、またタクテリア聖王国の軍を排除するのも、いい場所なんだそうです。

 で、その港町を拠点とするのは、もともと領主って逃げてきた人達のトップだったからね、始まりの町はそもそも領主のご先祖が地主さんみたいなところから始まったんだって。

 ほら、今でも一族ごとに集落を作っているっていう村を通ってきたけどね、トレサが領主一族の町みたいな感じなんだそうです。逃げてきた人は、安全のために内陸へ内陸へと進み、最終的に最奥の中央に領都ができたんだけどね、領主のご先祖様は、奥へ進ませないためにと、足止め要因として残って、それが町になったんだって。だから今でもトレサはボンメイ家の土地って扱いみたい。

 今ではトレサって旧都みたいなイメージで、港としてもマエサルみたいに立派には稼働していない、ってことになってたんだけど・・・

 どうやら、いつの間にか改修も行われて、立派な軍港になってるようです。情報ではザドヴァのリットン港みたいになってる、らしい。うん。ザドヴァの軍港、だね。




 ギルド長の話の後、みんな、それじゃあトレサに向かうか、みたいな感じで、リーダーたちを中心にお話し合いを始めていたんだけどね、そのとき、ドンドンドンって激しいノック音がしたんだ。


 「大変です!領主邸の門前で敵の魔導師たちと冒険者が激しい戦闘を繰り広げています!負傷者も多数。このままでは被害が甚大になる怖れ。助力を願う、とのことです!!」

 転がり込んできたギルドスタッフが、そんな風に捲し立てたんだ。

 

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